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東京武蔵野シティFC・公式マスコット『こはな』誕生秘話とその近未来/前編【短期シリーズ・Jマスコット】

本名は『子花・リンカネート・ブロッサム』

Jリーグ開幕前に実施されているJリーグマスコット総選挙が春の”風物詩”として定着しつつあるように、近年はJ各クラブのマスコットたちが存在感を増してきた。そうした風潮に即した形でこれまでマスコットを有していなかったJクラブがマスコットを誕生させる傾向にある。最近の例ではこの6月にJFL所属の東京武蔵野シティFCが公式マスコットを発表した。その名も『こはな』だ。果たして、クラブ期待のマスコット『こはな』は、いかにして誕生したのか。『こはな』誕生に携わったというクラブの広報・澤佳南さんとイベント事業アドバイザー・大上達也さんに話を聞いた。

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©️2017 TMCFC / MORI CHACK

▼J3リーグ参入へ歩み出す

 東京武蔵野シティFCの前身は、横河電機サッカー部。2003年には横河電機の実業団チームという形は残しつつ、東京都武蔵野市を中心とした地域に根ざしたサッカークラブを標榜し、横河電機サッカー部は横河武蔵野フットボールクラブ(横河武蔵野FC)へと移行した。さらに07年の2月にはクラブの運営母体をNPO法人化している。

 横河武蔵野FCと言えば、天皇杯では上のカテゴリーチームを撃破するなど、”ジャイアントキリング”を成し遂げることの多いチームとして、Jクラブのサポーターにも馴染みがあるだろう。しかし、近年はクラブを取り巻く環境も変わってきた。2014年にはJ3リーグが発足。新リーグ創設により、横河武蔵野FCが所属するJFLは実質日本の4部リーグとなった。こうしたサッカー界の変化はクラブが生まれ変わる契機へとつながった。

「J3クラブとして地域に貢献できることがあるんじゃないか」。クラブ内でも次第にJ3行きの機運が高まり、その結果、昨年2016年1月1日にクラブ名を東京武蔵野シティFCと改名。Jリーグから『Jリーグ百年構想クラブ』としての認可も受けた。そして次なる段階であるJ3リーグ参入に向けて、現在クラブは試行錯誤を続けているという。

 将来的なJ3リーグ参入に向けて、さまざまなハードルがある中で、クラブとして力を入れていることが集客面。一人でも多くの人をムサリク(東京武蔵野シティFCの本拠地・武蔵野陸上競技場)へーー。その”起爆剤”として、公式マスコット『こはな』が誕生した。

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©️2017 TMCFC / MORI CHACK

▼実はミステリアスなキャラ?

ーー6月に発表されたクラブ公式マスコット『こはな』が生まれた背景を聞かせてください。

大上達也さん ウチはまだ所属選手の大半がアマチュア契約のため、昼間は会社員として仕事をして、夜の19時からサッカー選手としての活動をしています。そのため、例えば地域のイベントに呼んでいただいても、選手が出演することは難しい状況にあります。それならば、こはなが常にクラブの代表として、そして”宣伝部長”として、表立って活動してもらえればと考えてマスコットをつくりました。”永遠に移籍をしないスーパースター”として、集客面の一つの起爆剤にしたいと考えています。こうしてマスコットが完成したので、例えばマスコットを見に来ていただけるような循環をつくろうとさまざまなプランを練っている段階です。

ーーマスコット誕生のプロジェクトは、どんな形で進行していったのでしょうか?

澤佳南さん 私ともう一人の女性スタッフの二人でどうすればクラブを盛り上げられるのかなといった話をする中で、「一番大事な地元からの集客のためにも、やはりマスコットがいないと盛り上がりに欠ける」という結論に達しました。他のJクラブさんがマスコットに関してSNSなどで発信をすると、ものすごい数の反応がありますし、マスコットを駆使したグッズ展開をしていることに着目しました。ウチにもマスコットがいれば、子どもたちも喜んで地域貢献にもなりますし、さらには集客につながるのではないかと考えました。

 ただ数多くのJクラブさんのマスコットがいる中で、ほかと同じような形にしても個性が埋没してしまうかもしれないと思案した結果、女の子をマスコットにしようと決めました。武蔵野というエリアには日本を代表するファッションタウン吉祥寺や住みたい街で東日本トップクラスの三鷹・武蔵境など有名エリアを有しています。特に高い女性の支持を集めたいと考えました。他のJクラブさんでは男の子と女の子のマスコットがいるパターンはありますが、女の子だけのクラブ公式マスコットは前例がないので、差別化の意味も含めて決定しました。

 デザインは武蔵野市在住の著名デザイナー・森チャックさんに打診をして、ご賛同いただきました。「他のJクラブさんとは違うマスコットにしたい」、「女神要素を入れてほしい」。そういった要望を取り入れていただいて、最終的にはこのデザインに決まりました。制作期間は約半年。こんなにかわいいキャラクターにしていただいて、チームカラーやエンブレムの要素も取り入れていただきました。満足のいくマスコットが出来上がったと自負しています。

ーー名前は公募で決めたのですね。

澤さん 公式ホームページやSNS、スタジアム、三鷹駅・吉祥寺駅周辺のショッピングセンターさんなどに応募箱を設置させていただいて、約800通ほどの応募がありました。その中から地元の小学生・佐々木勘九郎くんが考えた「こはな」に決まりました。ただあまり知られていない事実なのですが、『こはな』は通称なんです。デザイナーの森さんと相談をして、エッジを効かせて想いのこもった名前に、と本名は『心花・リンカネート・ブロッサム』としました。もともとのキャラクターは妖精なのと、お花の要素やファッション要素、将来的なグローバル展開への備えとして外国風をミックスした名前です。実は本名はこんなに長いんです(笑)。

大上さん また違ったストーリーやさまざまな広がりを見せる可能性を残すために、あえて少しミステリアスな感じにしてあります。

 こうしてクラブ期待の公式マスコット『こはな』が誕生した。しかし、3D化は(最近流行のクラウドファンディングの利用も含めて)現在検討・進行中。6月のクラブマスコット誕生以降は、いろいろな形で”こはなワールド”が展開されるなど、”永遠に移籍をしないスーパースター”は、少しずつ日の目を見ようとしている。
(後編はこちら

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©️2017 TMCFC / MORI CHACK

【プロフィール】
こはな(本名/心花・リンカネート・ブロッサム)
モチーフは、井の頭自然文化園のアジアゾウ「はな子」。武蔵野市民より心から愛されていた「はな子」がこの世を去ったのが 2016 年 5 月のこと。『こはな』は、そのはな子の生まれ変わりとして誕生した。東京武蔵野シティFCの応援団長にして勝利の女神象として、 2017 年6月より クラブの一員に。頭には、クラブエンブレムに入っているむらさき草とボールの冠をあしらい、鼻のハートは武蔵野とチームへの愛を表している。勝利の女神となったことから耳は羽に変化した。デザインはグルーミーでおなじみ、現在武蔵野市在住の森チャック氏。

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(提供)東京武蔵野シティFC