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【田村修一の視点】2025年10月25日 J3リーグ第33節 栃木シティvsヴァンラーレ八戸FC

J3リーグ第33節 栃木C 1(0-0)0 八戸
14:03キックオフ CITY FOOTBALL STATION 入場者数 3,370人
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2位チーム(栃木C)が1位(八戸)をホームに迎えたJ3首位決戦。両者の間には勝ち点5の差があり、栃木Cはたとえ勝っても首位には立てない。だが、目標は自動昇格の2位以内よりもJ3優勝を公言する栃木Cにとっては、八戸を射程圏内に捉えるために絶対に勝利が必要な一戦であり、一方の八戸は、3位の鹿児島とは勝ち点11の差があるとはいえ、J2昇格を確実なものにし、また現在はチームを離れている石崎信弘監督のためにも、絶対に勝ち点が必要な試合だった。

 

試合は八戸の攻勢で始まった。前線からのハイプレスで栃木Cのボール保持の余裕を与えず、豊富な運動量で栃木Cのゴールに迫る。だが栃木Cは押し込まれても冷静に対処し、両サイド——とりわけ右のバスケス・バイロンのキープ力を起点に、徐々に反撃の態勢を整えていく。前半の中盤以降は栃木Cがペースを握り、後半になると左の田中パウロ淳一も躍動して、攻守に八戸を圧倒した。

 

決勝点となったアディショナルタイム(90+5分)のゴールも、CKの後も猛攻をかけ続け、左サイドから切り込んだ田中からのマイナスのクロスを、バイロンが左足でゴールに突き刺したもの。この試合でのふたりの存在感を象徴した得点だった。

 

現在の栃木Cに感じられるのは、最大瞬間風速(目の前の試合の勝利)を求めるのはもちろんだが、それ以上にプラットフォームの安定感である。誰もが自信を持って、自分たちのプレーをまっとうしている。この気持ちを持ち続けられる限り、逆転優勝も不可能ではないかも知れない。

 

他方、敗れた八戸は、前線でボールをキープできる個の存在の有無という、栃木Cとのチーム力の違いが浮き彫りになった敗戦だった。ただ、そうはいっても、J3唯一の守備力はもちろんのこと、コレクティブに点を取る力も十分に備えている。両者の優勝争いは、リーグ最終盤まで続いていくのだろう。

 

 

 

 

田村修一(たむら・しゅういち)
1958年千葉県千葉市生まれ。早稲田大学院経済学研究科博士課程中退。1995年からフランス・フットボール誌通信員、2007年から同誌バロンドール選考(投票)委員。現在は中国・体育週報アジア最優秀選手賞投票委員も務める。