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【六川亨の視点】2022年11月5日 J1リーグ第34節 FC東京vs川崎フロンターレ

J1リーグ第34節 FC東京 2(0-1)3 川崎
14:03キックオフ 味の素スタジアム 入場者数 34,820人
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「鬼木監督も鹿島の選手だったけど、できれば3連覇はやめてほしいな~。鹿島に並ばれちゃうから」

試合前日のことだ。仕事の延長で元鹿島アントラーズの名スカウト部長、平野勝哉さんと食事をする機会があった。93年に市立船橋高校から鬼木選手を獲得したのが平野さんだった。鬼木選手は鹿島で7シーズンほど過ごしたものの、当時『黄金時代』の鹿島では出番に恵まれず、2000年に川崎フロンターレへ移籍してチームの黎明期を支えた。

平野さんの願いが通じたわけではないだろうが、川崎Fは“多摩川クラシコ”のFC東京戦をアウェーながら3-2と制してリーグ3連覇に望みをつないだ。しかし横浜F・マリノスも神戸に3-1と快勝し、奇跡の逆転劇は幻に終わった。それでも川崎Fは、1人少ないハンデを背負いながら勝ちきったのだから、その底力はなみ大抵のものではない。

前半29分、塚川孝輝のスルーパスからアダイウトンが抜け出したところ、ペナルティーエリアを飛び出したGKチョン・ソンリョンが倒して一発レッドになる。これで鬼木監督は「あえて下がった。自ら体力を削ることは避けたい。どうやって時間を使いながらハーフタイムを迎えるか。前から行けば相手はミスするかもしれないが、カウンターのリスクもある」と選手に自重するよう求めた。

その言葉通り後半からは4-4-1にして逃げ切りを図ろうとしたが、プラン通りにいかないのもサッカーである。FC東京の反撃に点の取り合いになったが、そこで試合巧者ぶりを発揮する。後半16分に前から圧力をかけて森重真人のボールを奪うと、最後はマルシーニョが勝ち越しゴール。さらに同点に追いつかれた直後の30分には車屋紳太郎の左クロスが左SBにコンバートされた渡邊凌磨のOGを誘い決勝点にした。

3連覇は逃した。その理由として守田英正や田中碧、三笘薫、旗手怜央ら主力選手がここ2年間でチームを去ったことがあげられる。しかし鬼木監督は「けして戦力はないと思っていない。むしろ若い選手をどうやって育てるかを意識した。それぞれの向上心がクラブの強みだと思っている」と主力の流出が戦力ダウンに繋がったのではないかという質問を否定した。

そして来シーズンに向け、胸を張って次のように会見を締めくくった。

「1年間のラストゲームで勝って悔し泣きしないといけない。1年の積み重ねなので、そこは真摯に受け止めたい。いままでだったら2位も3位も4位も一緒だったが、今日の試合には感動しました。勝利への執念があった。これをラストゲームだけでなく、いつもいつもできるようにしないといけない」

 

 

 

六川亨(ろくかわ・とおる)

東京都板橋区出身。月刊、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任し、W杯、EURO、南米選手権、五輪を取材。2010年にフリーとなり超ワールドサッカーでコラムを長年執筆中。「ストライカー特別講座」(東邦出版)など著書多数。