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宮崎発。クラブの壮大なる野望とは?(柳田代表インタビュー/後編)【テゲバジャーロ宮崎の野望】

“J空白県”の宮崎県では現在、テゲバジャーロ宮崎とJ.FC MIYAZAKIという九州リーグを戦う2チームが将来のJリーグ参入を目指してしのぎを削っている。そのうちテゲバジャーロは今季、J最多クラスの指導歴を持つ石崎信弘氏を新監督に迎えた。また、元日本代表FW森島康仁、サガン鳥栖などで活躍したMF高地系治を獲得。Jを目指す本気度を見せるなど、全国的な注目を集めている。今回は『テゲバジャーロ宮崎の野望』と題した緊急企画を掲載。まずは代表の柳田和洋氏に、クラブの現在と将来について話を聞いた。
(前編「石崎監督を招へいし、森島、高地を獲得した目的とは?)

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▼スタジアムを通して街も盛り上げる

–宮崎には同じようにJリーグ加盟を目指すJ.FC MIYAZAKIがあるので、スポンサー獲得も取り合いになるでしょうし、スポンサー候補の企業から見れば、「なぜ宮崎に2チームもあるんだ」と思われるのでは?

柳田 それは一番言われることです。どちらかが上がったら(スポンサーに)なろうとか、”模様眺め”の企業さんも多い気がします。ただ、宮崎県内にクラブは二つあっても、人間の性格のようにクラブの色はそれぞれあると思います。J.FCには行かない層をどう取り込むかということも考える必要はありますし、県全体に応援されるクラブにならないといけないと思っていますので、そこの垣根はないようにしたいです。

–観客動員を増やすためにどんなプランを思い描いていますか?

柳田 先日もクラブの中で「平均1,000人はいきたい」という話をしていました。宮崎ではどうしてもスタジアムで試合を観るという文化がないので、昨年からスタジアムで観戦する価値を見い出していただくための取り組みを始めたところです。

例えば昨季、ウチとJ.FCとのゲームの時は、宮崎市生目の杜運動公園陸上競技場で約1,600人を動員できたという実績があります。まずは行政に理解していただき、駐車場や試合が行われるスタジアムの外の安全面などを今後は整備していきたいと思っています。今季の最終戦(9月24日)は、県サッカー協会などのご厚意で、県総合運動公園陸上競技場(KIRISHIMAヤマザクラ宮崎県総合運動公園陸上競技場)で公式戦を開催させてもらえることになりました。

–スタジアムに関して「宮崎駅近くの旧県営野球場の土地に作りたい」というプランがあると聞きました。

柳田 昨年、Jリーグスタジアムマスターの方と意見交換をさせていただいた時に、成功するスタジアムというのは、駅から徒歩20分圏内と言われました。スポンサーさんと話をする中で、(宮崎では盛んな)スポーツキャンプでは通年での経済効果がないという話になりました。でも、Jリーグは1週間おきにホームゲームがあるので、その分の経済効果も見込めるのかなと思います。駅の近くにスタジアムがあれば、県外からのお客さんは電車やバスなど、駅が移動経路になるのが当たり前になるので、それによっての経済効果も見込まれます。

でも、宮崎はあまり電車やバスに乗らんし(笑)。一度、県リーグ降格から、優勝すれば昇格できるという試合を川南町で開催したことがあるのですが、東京から来ようとしていたあるサポーターの方から「駅からどう行けばいいんですか?」という問い合わせの電話がありました。その時にわれわれクラブスタッフ自身が、「駅からは徒歩だっけ? タクシーだっけ?」とアクセスが分からなかったこともあったぐらいです。

私の教え子がサガン鳥栖に行ったのですが、J2の時に3,000人のお客さんが入っていて、J1に昇格したあとに子どもたちをスタジアムへ連れて行ったら、浦和との試合で1万6,000人ものお客さんが入りました。クラブ関係者の方に「浦和のサポーターが6,000人も来ています」と聞きました。

いずれサッカーが文化として宮崎に根付くとなった時に、6,000人もの人たちがたとえ宿泊しなくても、お金を落としていくという循環は、宮崎の地域や観光産業に還元できるかなと思っています。移動のインフラも、電車やバスを使うことでそこに雇用が生まれると思うんです。

そういったことも含めて、駅の近くにスタジアムがあるのは価値のあることだと思いますし、より宮崎を知っていただくことにもつながるのかなと。スタジアムを駅の周辺に建てることで、中心市街地の活性化にも貢献したいんです。スタジアムマスターの方に「視点としてすごくいい。フクアリ(フクダ電子アリーナ)をちょっとコンパクトにすればいいのでは」と、航空写真などを使って(平面図を)作ってくれました。

もちろん(宮崎県総合運動公園のある)KIRISHIMAヤマザクラ宮崎県総合運動公園陸上競技場での試合開催もアリだと思いますが、野球のWBCのキャンプでイチロー選手たちが来た時に、道路が渋滞ですごかったんですよ。

また、ホームゲームがない時の稼働もしっかりと考える必要があります。スタジアムに来れば、サッカーだけではなく、ショッピングもできて、遊園地もあって、病院も併設されているなど、1日中を過ごせるような、例えばイメージとしてはイオンモールのような、その中にサッカーという”ショップ”が入っているという箱にしないといけないのかなと思っています。

–今後の展望について、スタジアム以外にどんなプランをお持ちですか?

柳田 今年はもちろん、JFL昇格です。地域リーグであれば、「上がるまでどうやろか?」と様子見になりますが、JFLに上がればダイレクトに、「条件が整ったら上のカテゴリーに行けますよ」となるじゃないですか。どうしても行政などが動かざるを得ない状況をこちらが作るためには、JFLに上がることが必須だと思っています。全国地域サッカーチャンピオンズリーグという一番大変なレギュレーションを突破して、JFLに参入できれば、行政の動きにもある程度のスピード感が出るのかなと思っています。

▼アジアのマーケットも視野に

–今年JFL昇格を果たし、2年後にJ3参入。最終的にJ1……、そしてJ1優勝でしょうか?

柳田 マーケットとしてAFCチャンピオンズリーグ(ACL)に出るのもいいなと思っています。宮崎は良いところだと思うんですよ。昔の新婚旅行は、熱海か宮崎かというイメージもありますし、気候も良くて、神々が舞い降りる”天孫降臨の地”としても宮崎は知られています。宮崎は食べ物もおいしいという評判です。

東京などで講演をする際に、自分は標準語にならないのですが、”地元愛”というか、地元を宣伝したいという思いが昔からずっとあります。マーケットがアジア規模になれば、いま観光で訪れる中国の方が多いので、アジアの中でチームが強くなることで、アジアの方々に宮崎を知ってもらうことで宮崎のアピールにつなげたい、宮崎へのアジアからの観光客を増やしたいという目的もあります。その中でテゲバジャーロがシンボルになればいいのかなと思っています。

以前、サガン鳥栖の社長だった牛島(洋太郎)さんと会談をする機会があった時に、「いま、54のJクラブがあるということは、54通りの成功例があるということだから、そこを検証して自分たちのやり方をしっかり考えれば良い。マネる必要もないし、急がなくても良いから、良いモノを作ったことが最終的に近道になる」という話をしていただきました。それは本当に自分の中にスッと入ってきて、2年後という目標はありますが、良いモノを作り続けることが一番大事だと思っています。

–さまざまな方法がありますが、サッカー文化を宮崎に根付かせるために、どのようにしかけていこうと考えていますか?

柳田 サッカーをやらない層をどれだけ引き込むかだと思うんですよ。スタジアムに来て試合を見てもらう、良いゲームをするということは当たり前だと思います。究極の理想は『総合型スポーツクラブ』。テゲバの料理部や釣り部、そしてラグビー部があるなど、スポーツというよりも、テゲバの地域コミュニティを作りたいんです。

例えば、テゲバの釣り部が釣った魚を小学校の激励会で料理部が調理してといったイメージです。あるいは、「今日はサッカー部が休みだから、ラグビー部の応援に行こう!」といったようにサッカーを応援するというよりも、クラブのコミュニティを応援するという形になれば、競技も団体も全体の底上げになると思います。

【プロフィール】
柳田和洋(やなぎだ・かずひろ)
1973年1月11日生まれ、44歳。宮崎県門川町出身。テゲバジャーロ宮崎代表取締役社長。プロフェソール宮崎を経て、今年創部50年を迎える門川クラブの選手兼監督としてチームを率いる。2013年、JFA SPORTS MANAGERS COLLEGEでスポーツマネジメントを学ぶ。2015年1月にクラブ名をテゲバジャーロ宮崎に変更し代表に就任。2年後のJリーグ参入を目指している。