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地震から1年が経過する4月16日のホームゲームは、”サッカーファミリー”に感謝の気持ちを伝える日にしたい【熊本・池谷友良社長インタビュー/後編】

残留へとつながった選手たちの思いの強さ

熊本に本拠地を置くロアッソ熊本は、2016年4月に発生した熊本地震により、チームの活動停止をも経験した。しかし、全国各地のファン・サポーターや、Jクラブ、行政の支援もあって、5月15日J2第13節・ジェフユナイテッド千葉戦でJリーグ復帰を果たし、チームは最終的にJ2残留を勝ち取った。熊本が震災から立ち直る背景にはファン・サポーターだけではない、クラブの関係性をも超越した”サッカーファミリー”の力強い結束があった。今回の特集では2017シーズンの開幕を前に、熊本の”現在地”や当時の話など、熊本の番記者・井芹貴志氏が池谷友良社長にインタビューを敢行した。(前編「Jリーグに復帰した千葉戦と柏でのホームゲームで広がっていた光景は、スポーツ文化が根付いていることを感じ取れるシーンだった」)

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▼残留へとつながった選手たちの思いの強さ

—-厳しい状況の中で戦う選手たちを見て感じたことは?

池谷:熊本にとどまって復帰に向けた準備をするという発想が出たことは、結果として良かったと思います。熊本出身の選手の思いが強かったと思いますし、県外出身の選手ばかりだったら、本拠地を県外へ移してでもきっちりやったほうが、という方向になっていたと思います。それを上回る思いがありましたし、その思いを選手たちみんなが受け入れて、賛同してくれた。その中で選手が最後まであきらめることなく、愚痴も言わずに、歯を食いしばって頑張ってくれたと思います。勝つことで熊本に元気を与えるんだということを常に言っていましたし、自分たちが勝利を目指して、最後まであきらめないことで被災している人たちに元気を届けようという、そういう気持ちをしっかり持って、最後まで戦ってくれて、それが結果として残留につながりました。

その思いがなかったら多分、あの連戦の中でそのまま落ち込んでいく可能性もあったかもしれない。ですから、気持ちが支えていた部分は大きかったと思いますね。彼らのそういう決断があったからこそ、うまスタ(うまかな・よかなスタジアム※2月1日から『えがお健康スタジアム』に愛称変更)でのゲームも7月頭に開催できました。県外に出てトレーニングをしていたら、スタジアムの安全確認もそこまで慌てる必要はなかったと思うのですが、状況が厳しい中でもここで試合をやりたいという思いが、周りを動かした部分はあったと思います。

—-あらためて、ホームタウンとの関わり方や、地方クラブとしての存在意義も強く感じたのではないでしょうか?

池谷:こういう危機的な状況があって存在意義も強くなったし、クラブの存在自体も県民に広く認められたと思います。今までサッカーに関わっていない人たちにもロアッソ熊本というクラブがあることを知ってもらえましたし、選手たちがいろいろなことを頑張っている姿が励みにもなったんじゃないでしょうか。いろいろなイベントに行けば「ありがとう」とか「頑張ってください」とか、「みんなが頑張ってくれるから自分たちも勇気づけられる」といった声をかけてもらいました。それは選手たちの思いが県民の方に伝わったからだと思っています。クラブができて13年になりますが、そういう意味では熊本にJリーグクラブができたことは間違いではなかったと思いますし、地域に根ざしてきたことを感じるシーズンではありましたね

—-クラブができて13年、Jリーグに上がって10年目です。

池谷:たくさんの支えのおかげで今季を迎えることができましたので、感謝の気持ちを示していかないといけません。それは勝つこともそうですし、これまでにもやってきましたが、招待事業や各地へ出向いてのふれあい活動など、これからも地域に元気を与えるための活動をやっていかなければいけないと思います。特に今季は地震からちょうど1年となる4月16日のホームゲーム(第8節・松本山雅FC戦)は集客も含めて大々的にやろうと思っています。県内各所でいろいろな行事が行われると思いますが、ご支援をいただいた全国の”サッカーファミリー”に対する感謝の気持ちを伝える日にしたいですね。

▼J1昇格への”青写真”

—-経営状況はいかがでしょうか? 成長してきたという手ごたえがありますか?

池谷:クラブの経営自体は安定化してきましたから、その点で成長はしていると思います。とはいえ、J1という目標値を持っているわけですから、これまでの成長度ではまだダメだということです。少なくとも5年以内には予算規模を10億円まで増やしたい。その中でも、限られた予算をどれだけ有効に使うか。簡単に言うとチーム周りですが、現状、大学生を獲得するにも育成費がかかりますから、アカデミーの選手が育ってきてくれれば、それが事業としてクラブを大きくする要素にもなる。アカデミーへの投資が今年からのテーマになると考えています。育成選手の寮を整備するのも、その一環です。

—-チームに求めること、今季の戦いに期待することは?

池谷:今年からコンセプト、フィロソフィーを明確にしました。それは勝負にこだわり、攻守においてハードワークするということ。これをみんなで共有してほしいと。戦術論はそこから枝分かれしてきますが、少なくともこの二つができない選手はいない、つまりウチの選手は皆それができるようになってほしい。やっていない選手がいればみんなで指摘するなど、意識改革も含めて徹底して、覚悟を持ってやってほしいと思っています。

—-目標の観客数を1試合7,500人とおっしゃいましたが、どうやって達成しますか?

池谷:チームにJ1昇格という目標を課した以上、それを支えるだけのクラブに成長しないといけません。協賛なら500社、平均入場者数は7,500人と今季の目標を設定しましたから、それを必ず達成するために、私自身も含めて意識を変えていきたいです。ピッチでは、ひたむきに戦うことになると思うんです。最後まであきらめずアグレッシブに戦う姿を見せることができれば、自ずと感動を与えられます。それが勝負へのこだわりになりますし、細かい部分でも勝負こだわっていくことを見せていかなければと思っています。

井芹 貴志(いせり・たかし)

1971年熊本県生まれ。タウン誌編集者を経て2005年よりフリーとなり、ロアッソ熊本(当時:ロッソ熊本)の取材を開始。2008年以降、Jリーグ登録フリーランスライターとしてJリーグ公認ファンサイトJ’s GOAL、サッカー新聞「EL GOLAZO」、サッカー専門誌などに寄稿。タグマにて、webマガジン『kumamoto Football journal』を展開中。