J論 by タグマ!

地域クラブ『Criacao』の夢と現実と、ちょっとしたこと

丸山和大代表取締役CEOを直撃した。

Jクラブも全国に50を超える規模感になったが、いまなお全国各地で新たな熱が生まれて育っている。Jという頂上を目指すクラブもあれば、あえてそこを目指さないクラブもある。今回はそんなクラブの中から東京都1部リーグの『Criacao』にフォーカス。サッカーサークル出身の選手が過半を占める異色のメンバー構成ながら結果の部分でも目を惹く成果を残しつつあるこのクラブについて、丸山和大代表取締役CEOを直撃した。

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▼2015年「東京都1部」で現在進行中の物語
J論:まずはCriacao(クリアソン)について教えてください。

丸山:はい。詳しく説明すると答えにたどりつくまでに時間がかかるのですが(笑)、ひとことで言うと「フットボールを軸とした総合商社」ですね。その事業の中核として「フットボールクラブ運営」を位置づけています。トップチームのCriacaoが東京都社会人1部リーグ、セカンドチームのCriacao Procriarが東京都社会人2部リーグにあって、今年からは新宿区社会人リーグを戦うCriacao Familiaというチームを作りました。同じく今年から立ち上げたフットサルクラブも東京都のオープンリーグに所属し、Fリーグを目指して活動を始めています。

株式会社Criacaoとしては「スポーツの持っている価値で、あらゆるものをつなげ、感動が溢れる世の中を実現する」ことをコンセプトに掲げていますが、例えばスポーツとビジネスをつなごうとするとき、ひとつにはサッカーを考えます。サッカーのピッチ上で行なわれることがひとつのベースにあると思っているので、フットボールクラブCriacaoはその象徴として、まずはサッカー界をより良くしていくために「サッカーのプレー」「サッカーのあるべき姿」を追究するし、そこからいろんな観点でサッカーを取り巻くビジネスを生み出して、世の中をより良くする中心でもありたいと思っています。

J論:企業理念としてはよくわかりますが、サッカークラブとしてのあり方としては異色ですね。

丸山:(笑)。ですので、うちのクラブで選手を選ぶときは「サッカーをやるだけのクラブじゃないから」というのを前提にしていて、サッカーが上手いだけの人は決して獲りません。実際、いまのトップチームは9割がビジネスマンで、みんな名の知られたさまざまな会社に勤めていますが、別に”名の知られた会社の人”を基準に選んだわけではなく、「サッカーを通じてどんなことを実現していきたいの?」とか「人としてどうありたいの?」みたいな話を聞いたときに、サッカーの本質を突きつめていこうとするメンバーを集めた結果、そうなりました。

しかもサッカーキャリアで言えば、その9割のうち8割ぐらいがサッカーサークル出身。東京都1部レベルだと、トップ3のチームはほとんどが体育会のトップクラスでやってきたメンバーか元プロ選手が中心ですが、そんな中で去年(第48回東京都社会人サッカーリーグ1部で)僕らが優勝したというのは、まわりからすると「なんであのチームが優勝したの?」って疑問に思えるかもしれませんが、僕らからすると「やっぱりそういうことだよな」という感覚で。いわゆる”サッカーが上手い人”を集めて勝つだけではなくて、もっといろんな側面からサッカーにアプローチすることでサッカーを変えられるという可能性を示せたと思っています。

▼Criacaoが目指す新しいクラブ経営モデルとは
J論:先ほど「フットボールクラブ運営」は事業の中核だというお話がありましたが、その周縁ではどのようなビジネスを展開されているのでしょうか。

丸山:フットボールクラブとしてのCriacaoは東京都1部リーグで、カテゴリはアマチュアですが、選手一人ひとりのメンタル的な考え方やフィジカル的なコンディショニングはできるだけプロフェッショナルの感覚でやって欲しいと思っているんですね。例えばコンディショニングに運動・栄養・休養の3つの要素があるとして、運動の質には誰もがこだわるじゃないですか。一方で、サッカー選手といえどもサッカーをしていない時間の方が長いと考えたとき、その時間をどう過ごすのかによって大きな差がつきます。プロのトップアスリートであれば細心の注意を払うところですが、アマチュアレベルの選手の認識にはまだまだ変えられるところがあると思っていました。

そこで、アスリートの栄養支援を目的に自社でプロテインを開発し業界でも最安値に近い価格で提供していたりもします。ビジネス的なマーケット視点はもちろんありますが、これもただプロテインを売って儲けたいわけではなく、プロテインをきっかけに「栄養」と真摯に向き合ってほしいというのが一番の思いですね。

ちなみにプロテインの主なユーザーは大学のアスリートですが、その背景にあるのが体育会学生向けのキャリア支援事業(Criacao Career)で、スポーツで学んだ力を社会に出てどう活かすかをテーマにキャリアセミナーなどを行なっています。

J論:ブラインドサッカーを通じた企業研修プログラム(OFF TIME BIZ)でも運営協力をされていますよね。

丸山:はい。サッカーはコミュニケーションのスポーツだと言われますが、コミュニケーションを突き詰めるのはすごく難しいことで、相手目線でコミュニケーションをとることをついつい忘れがちになります。あるときブラインドサッカーの体験をしたときに、目が見えない中で相手とコミュニケーションすること、相手の立場に立って考えることがどれだけ大変なのかを痛感して、「このトレーニングを取り入れたら、うちのチーム断然強くなるな」と。それで早速、選手たちにも全員体験してもらって、いまではウォーミングアップの最初にチームでブラインドサッカーのワークをやるようになりました。

そうやってコミュニケーションにこだわることの大切さを学ぶ中で、「これって拡大解釈していくとビジネスでも使えるよね」というところが企業研修の始まりで、スポーツの持っている力でわかりやすくビジネス界を変えていける素晴らしいツールだと考えています。

あとは、『SMILE』というットサル事業を1都3県でやっていて、これも今期中に関西と東北に広げていって、2017年にはSMILE全国大会を開催し、いずれは世界大会まで広げていこうという話で動いていたり、クラブのユニフォームをどこのメーカーもつけずに中国の工場で自社ブランドで作って、Criacaoブランドでアパレル事業を展開したり。そういういろいろな事業を複合的にやりながら、会社を一歩ずつ大きくしている段階ですね。

J論:まさしく総合商社のような事業展開ですね。

丸山:シンプルにマーケットチャンスがあると思ってやっていることですが、もうひとつは企業スポーツから始まっているJクラブのあり方に新しいカタチをもたらしたいという想いがあります。最近でこそ地域から上がってくる素晴らしいクラブがたくさん出てきていますが、僕はもっともっと新しいモデルがあると思っていて。世界でもスポンサーで4~5割、入場料で2割、放映権・グッズ販売で残りというのがクラブ経営の一般的なモデルですが、そこでスポンサーに過大に頼るのではなく、自分たちでビジネスを作りながら多角的にやっていくモデルを実現できるんじゃないかと。

もちろん現状では、企業名を入れたチームはJリーグに登録できないなど様々なハードルはありますが、サッカー本来の目的を「スポーツの持っている力を伝えていくこと」だと考えれば、”企業スポーツなのか地域スポーツなのか”という対立軸の議論は飛び越えられると思っているので。スポーツの力が生み出す価値をもっともっと拡大解釈して、いろんな人に届けるクラブ運営の新しいモデルを作って見せて、実際にクラブが大きくなるにつれてビジネスもどんどん大きくなっていく…そんなスパイラルを描いています。

▼Criacao代表・丸山和大が感涙した「スポーツの力」
J論:丸山さんには「スポーツの力」を確信する原体験のようなものがあったのですか?

丸山:大学時代のサークルでの経験ですね。高校(桐蔭学園高校。一つ下にかつて横浜FMや鳥取などでプレーした阿部祐大朗や俳優の水島ヒロがいる)まではプロを目指してサッカーをやっていましたが、冬の高校サッカー選手権には出場したものの結果が出ず、卒業時にプロになれなかった時点で大学サッカーはほとんど考えていませんでした。当時は「プロになるかならないか」という狭い世界観で、なれなかったら大学はどこへ行っても一緒だろうと、指定校推薦で立教に入ったんです。

体育会サッカー部かサークルか。最初はサッカー部でもう一回チャレンジしようという思いもあったのですが、いろいろと見てみたときに、もう本当のトップレベルでサッカーをやれる環境ではないんだということを感じてしまってサークルを選びました。でもサークルを選んで入ってみたらいろいろなことがあって、1年のときに30名程度だったサークルが、3年になったときには部員が70人ぐらいまで増えて、気づいたら自分が代表をやっていました(笑)。もともとそんなに強くなかったサークルが、だんだんといいサークルになってきた実感があったので、その年の始めにサークルを変革して「日本一になろう!」という目標を掲げたんです。

だけどサークルにはホントに多様な人たちがいたんですよね。それこそサッカーの素人のメンバーもいましたし、自分と同じようにプロを目指してやっていたメンバーもいましたし。そんな集まりに対して「日本一にしよう!」というお題目をいきなりバーンと貼り出して(笑)。楽しんでやりたい人たちからしたらホントに最悪ですよね。

J論:「何か言い出したぞオイ!」みたいな(笑)。

丸山:そうなんですよ。「丸山たち暴れてんぞオイ!」みたいな(笑)。さすがに日本一の目標は同級生と話して決めたんですけど、やっぱりその一年はすごく大変でしたね。トレーニングのメニューもガラっと変えて、みんなで走らせたり1対1の練習を徹底的にやったり。「なんでこんなことやんなきゃいけないんだ!」「ゲームやりに来てんだぞ!」って反発する子たちにも無理やりやらせましたね。で、当然のことながら途中で文句を言われて、僕もやっぱりすごく悩んで。「この仲間たちの大学生活をつまらなくしているのは、間違いなく自分だな」と。生まれて初めてというくらいに落ち込んで、悩みました。

でも結局、まわりの味方になってくれる仲間たちが、「やっぱりサッカーは勝つ喜びが大事だ」とか、「みんなで日本一を目指すことでチームをひとつに引っ張っていける」って言ってくれて。最後までなんとかやり切って、本当に日本一になったときにみんなが泣いて喜んでくれているのを見て、初めて嬉し涙が出たんですよ。そのときに僕、「自分の人生、このために生きてるんだ!」って確信しました。いろんな価値観の人たちとサッカーを通じてひとつの方向に向かって、最後にみんなであれだけ喜べたという経験はすごく素敵だったし、「スポーツの力を一人でも多くの人たちに伝えていきたい」という想いが自分のミッションになった瞬間でしたね。

(つづく)