J論 by タグマ!

大久保嘉人への”期待値”は『高すぎる』のか?

むしろ大慌てなのは、コートジボワールとギリシャ、そしてコロンビアの3チームではないか。

毎回週替わりのテーマで日本サッカーについて語り合う『J論』。今回はW杯の壮行試合となるキリンチャレンジカップ・キプロス戦(5月27日・埼玉)について語り尽くす。第3回目は、この試合における最大のポイントは、「果たして、大久保はW杯で戦力となるのか?」という一点だろう。貧乏旅行も辞さずに日本代表への密着取材を続けてきた新進のライター、小谷紘友がこの問題に切り込んだ。


▼2年ぶりの代表Aマッチ
 大久保嘉人のチャントが、日本代表戦のスタジアムに久々に響いた。2012年2月以来となる代表戦での出場。懐かしさすら感じるが、ピッチに降り注ぐ期待感は当時の比ではなかった。

 昨季のJ1得点王という実績や今季も好調を維持し続けた点を考えれば納得の選出だが、指宿での直前合宿が始まっても大久保の起用法は定まっていないようにも見えた。公開された練習ではトップ下でプレーしていたが、非公開時には1トップでも使われていたようだ。せっかくだからと、キプロス代表戦の前日会見でアルベルト・ザッケローニ監督に起用法についての疑問をぶつけてみたが、「どこで使うかは正直分かりかねるが、少なくとも攻撃的な選手であるから、攻撃的なパートで使おうと思う。ディフェンスやキーパーで使うことはあり得ない」と、つれない返答。煙に巻かれてしまった。

 キプロス代表戦では58分から柿谷曜一朗との交代で投入されると、「試合では初めてだった」という1トップで出場。ところが、本人が「すごく楽しく試合ができたので、代表は久々でしたけれど、それを感じさせなかった」と語ったように、得点こそなかったものの、停滞気味だった攻撃を一気に活性化させている。

 特にポジショニングは秀逸の極み。裏抜けに特長のある柿谷との交代で入った影響もあるが、相手の最終ラインと中盤の間でボールを受けることでリズムを作ると、香川真司らが大久保を追い越してゴール前に顔を出すシーンが一気に増えた。日本のストロングポイントである2列目を生かすという点を考えれば、及第点というレベルを遙かに飛び越えていた感すらある。キプロスの実力を差し引いても、十分すぎる収穫だったのではないか。

 2列目との関係について大久保は「近くでどんどん顔を出していてやろうと、(本田)圭佑にしろ、(香川)真司にしろ、オカ(岡崎慎司)にしろ。そこで崩せるので、やっぱり近くにいてやりたいなと」と明かしている。トップやトップ下、サイドなど多くのポジションをこなせる点を含め、様々なタイプの選手とも合わせることができる汎用性の高さが大久保の強みでもある。実は前日会見のやり取りには続きがあり、起用法について明言を避けた指揮官だったが、「クオリティがあるだけでなく、戦術的理解度、戦術的インテリジェンスを持っていると思う。端的に言えば”サッカーを知っている”人間であるから、どこでもらいに来たらいいのか、状況に合わせて対応できる能力を持っている」と高い評価を口にしていた。

「経験とクオリティを持っていると思っていて、この23人のメンバーに入ってきたことは素晴らしいことだと思うし、この23人の選考の基準はできるだけ若い選手を連れていこうと考えていた。その流れの中で彼が入ってきたことは、『ここに入りたい』というすごく強い気持ちがあったからだと思うし、まさにその能力を発揮した、見せ付けたと思う」

 待望論がありながら最後の最後までメンバーに組み込まなかった指揮官だったが、まさに”例外”として大久保を選んだことを認めていた。完成形に向けて着々と準備を進める中、ラストピースと称されてメンバー入りを果たした31歳のベテランは、本番を間近に控えた今、チームにさらなる化学変化をもたらそうとしている。

▼「誰だ、こいつは!」
 むしろ大慌てなのは、コートジボワールとギリシャ、そしてコロンビアの3チームではないか。何しろザッケローニ体制では2試合目の出場にもかかわらず、すぐさま新たな特長を見せて戦力となることを示したのだから、対戦を控えるチームからすれば「誰だ、こいつは!」といったところだろう。

 懸念されるのは連係面だろうが、大久保自身は「全然問題ない」と強調する。その上で、こうも言う。

「ボランチから縦パスのボールが入ってこない。ディフェンスがいてもいいから『とりあえず出せ』と。そうすれば真司や岡崎、清武、圭佑がどんどん入ってきて、コンビネーションが生まれる」

 試合中には大ぶりなジェスチャーを交えてチームメートとの対話を繰り返し、試合終了直後にはこれまでの空白を埋めるかのごとく多くの選手と話し込む大久保の姿があった。周囲との連係はもちろん、香川が「一瞬のスピードだったり、キレっていうのは代表でも一番ある」と評した”個の力”を、チーム力に還元するための作業が続いている。

 誰もが納得せざるを得ないような結果を出し続け、ついには指揮官の意向も変えさせるに至った。メンバー発表直前に、4年前と比べて「今は充実している」と語っていたことを思い出す。「期待をかけ過ぎではないか」という声もあるかもしれないが、ここまで来たらかけられるだけの期待をかけてみてもいいのではないかとすら思う。それに応えてきたからこそ、彼は今この場にいるのだから。

 ならば、大久保嘉人に更なる期待を託してみよう。

 もちろん、とびっきりの期待を。