[4-3-3]か[4-2-3-1]か。それが問題だぁ?
命題は「[4-2-3-1]か[4-3-3]か?」。アギーレ体制で生まれたクエスチョンに挑んでもらった。
▼気になったのは「ヒール」だが……
「岡崎がヒール弾!」
「岡崎 超絶ヒールで代表40発!」
「森重アシストからヒールキック」
技術系サッカー雑誌『ストライカーDX』に在籍していたので、この表現、どうしても気になってしまう。決まり足は「ヒール」じゃないでしょう、と。
かかとなんて、ほとんど面じゃなくて点に近い場所。ゆるいボールならともかく、横からとんでくる高速クロスをかかとで決めるなんて不確実すぎる。動いている球をビリヤードのキューで突くような、そんなイメージの無茶具合だ。
実は岡崎が蹴りに行ったのは、ヒールじゃなくて右足のインサイド。ただ、普通のインサイドキックと違うのは、軸足の裏を通して、背面に蹴っていること。軸裏キックというか、裏インサイドというか。ヒールで突いたほうがボールの勢いは出るけど、ここはボールの勢い、ゴールへの距離を加味して確実性の高いインサイドで蹴りに行っている(実際にはちょっと足首辺りに当たっているようだけど)。
そんなところが気になっちゃう僕に対して、川端編集長は「世間で出てきた『ぶっちゃけ[4-3-3]は、やめたほうがいいんじゃない?』という疑問に対するアンサーコラムを」と要望してきた。
「日本人はシステム論が好き」と、よく言われるけど、やっぱりそっち方向か。実際にそういう本は手堅く売れているし、本当にそうなんだろう。でも、それって日本だけなんだろうか? そう思って先日、韓国人のジャーナリストにたずねてみた。「韓国のサッカーファンにはシステム好きが多いの?」と。そうしたら、「多い!」と返ってきた。どうもシステム好きは日韓共通のようだ。
韓国でシステム好きが多い理由について、彼は「テレビゲームの影響が大きい」と説明してくれたけど、個人的には少し違うことを考えている。
僕らは本場のサッカーというものを、生の現場ではなく、テレビや活字を通して吸収してきた。日本には世界でも類を見ないほどサッカー雑誌や書籍がたくさんあり、輸入されたサッカー文化や知識の中でも、特にシステム論はそういったメディアと親和性があった。逆にエモーショナルな部分というのは、言葉にすると実に陳腐で、熱っぽく語れば語るほど空を切ってしまう。もしくは「行ってみりゃわかる」と、さじを投げがち。そんな状況もあり、言葉で表しやすいシステム論は「文で読んで面白い」「読むサッカー」「聞くサッカー」として、一定の人気を得るに至ったんじゃないだろうか。たぶん。
▼[4-3-3]は機能しなかったのか?
だいぶ話がそれてしまったけど、そうそう[4-3-3]はありかなしか、という話だった。
まず前提として、今回の対戦相手だったオーストラリアは普段のシステムを変更して臨んできた。変則的な[4-3-3]というか、攻撃時には3トップの14番トロイージ、10番クルーズ、7番リッキーが中央に寄りつつ、1人は必ず中盤に下りてくる。この1人が香川真司や遠藤保仁の”後ろから”現れてディフェンスラインからの縦パスを受け取るので、非常に捕まえづらく、中盤に起点を作られてしまった。相手がダブルボランチの場合は、香川や遠藤が見るべき相手が前にいるのでポジションを取りやすいが、オーストラリアのように中盤がかみ合わない並びにされると、難しい。ブラジル戦でも1トップから下りてくるタルデリには混乱させられたし、このような動きへの弱さはある。
また、かと思えば、オーストラリアはロングボールも効果的に使ってきた。日本が前からハメようとする意図を逆手に取り、ポーンと前線にロングボールを蹴る。すると香川や遠藤らのラインが前に出て、長谷部の周囲が間延びしているので、セカンドボールを拾われやすくなる。この使い分けが厄介だった。
システム論で言えば、[4-3-3]はアンカー(このときは長谷部)の両脇にスペースが空くという特徴がある。とはいえ、中盤がコンパクトになっていれば、ボールを出されても、遠藤や香川のプレスバック、アンカー、DFのプレスで絡め取ることができるが、日本はオーストラリアの縦の長短の使い分けに手こずり、間延びさせられてしまった。結果、このスペースは、いいようにオーストラリアに使われている。
ただ、注目したいのは、それでも「前半に与えたチャンスはヘディングの1回だけ」と言うアギーレのコメントだ。
ホンジュラス戦の3日前と2日前、つまりブラジル戦の後に迎えたトレーニングにはアギーレの姿はなかったが、ディフェンス陣はゲリングコーチの下、こんなトレーニングをしていた。
ボールを持っている選手が●。4人でボールを動かし、ディフェンスラインの4人はそれに対するポジショニングを確認する。たとえば…
1人がボールにアプローチしたら、他の3人は残ってポジショニング。ブラジル戦ではこのような段がうまく作れず、何回もスルーパスを通されてしまったため、その修正なのだろう。オーストラリア戦ではこの動きがよくできていた。ボールキープで上回られながらも、相手の枠内シュートをたった2本に抑えることができた要因の一つだろう。
つまり、アンカー脇のスペースは確かに弱点だったけど、ここは自由にさせても、即時やられてしまうような場所ではない(ブラジルに与えたらどうなるか?と言われれば、無傷では済まないかもしれないが、相手がブラジルクラスなら、もっと全体がコンパクトに引くだろう)。
アンカー脇の弱点は、中盤の三角形が同じ形をしているオーストラリアにも言えるが、前半の彼らはよく走り、そのスペースを与えなかった。もし、日本がそれに付き合って遮二無二走り回ったら、後半の追い上げはなかっただろう。
ディフェンスラインの裏をしっかりケアしつつ、中盤に起点を作られた以上はサイドにボールを運ばれるのはやむを得ない。クロスをきっちり跳ね返す。[4-3-3]はアンカーの長谷部がディフェンスラインのカバーに入りやすいので、それが利いている。
▼ケーヒルの得点と吉田のポジショニング
逆に、終了間際にケーヒルに食らったヘディングゴールを考えてみると、クロスをフリーで上げさせただけでなく、吉田麻也が相手のマークでゴール前を離れ、森重真人と太田宏介が2対2の同数になっている。
最終的にマークを外したのは森重だが、吉田との間が空いたことで、森重はニアのスペースがぽっかり空いていることが気になっていたはずだ。そのため、ケーヒルを体の前でとらえず、後ろに置く形になってマークを外された。4-3-3なら長谷部が吉田のところに入ってくれるので、森重はニアを気にせず、ケーヒルに集中できる。それは67分のシーンにも表れている。クルーズのパスに反応したニコルズがニアへ走り込んだとき、吉田は右サイドまで出ているので、森重が対応した。これは後半にたびたび見られたシーンで、今思えば、アディショナルタイムの失点への布石となったのかもしれない。
おそらく、吉田は[4-3-3]の感覚のまま、そこにいない長谷部のカバーを期待するかのように、サイドに出すぎてしまったのではないか。後半の[4-2-3-1]の形を考えるなら、今野らに受け渡すことを考えるべきだった。
そんなわけで、[4-3-3]がいいとか[4-2-3-1]がいいとかではなく、どちらにも一長一短があることを改めて明らかにしたオーストラリア戦だ。非常にいい経験だったと思う。
いい経験といえば、冒頭の韓国人ジャーナリストと話しているとき、「そういえば……」と思ったことがある。「韓国は中東勢との対戦経験を積むために、11月はヨルダン、イランとアウェイで親善試合を組んだ」と聞かされ、あっ、そういえば日本の6試合には中東勢が一つもなかったな、と。アジアカップのグループリーグで対戦するのはパレスチナ、ヨルダン、イラクと3つとも中東なのに……。とはいえ、日本は経験豊富なメンバーを11月で招集したので、大丈夫だろう、とは思うが。
まあ、そんなことに今さら気づくということは、僕も油断しているのかもしれない。これは、勝って兜の緒を締めねば…!
清水 英斗(しみず・ひでと)
1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。著書に『日本代表をディープに観戦する25のキーワード』『DF&GK練習メニュー100』(共に池田書店)、『あなたのサッカー観戦力がグンと高まる本』(東邦出版)など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。