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坂井大将、「ブラジルW杯」を知る最年少17歳が本田と長友に託されたモノ

唯一の東京五輪世代でもある坂井大将を、大分の名物番記者・ひぐらしひなつが解剖する。

週替わりのテーマを決めて日本サッカーについて語り合う『J論』。今回は4大会ぶりの世界切符を狙うU-19日本代表の若きサムライたちを取り上げる。Jリーグで育った彼らの戦いは、そのまま日本サッカーの未来を占う場ともなるだろう。その第4回に登場するのは、メンバーで唯一「ブラジルW杯」を知る男。唯一の東京五輪世代でもある坂井大将を、大分の名物番記者・ひぐらしひなつが解剖する。

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<写真>次回大会の出場権も持つ坂井大将 (C)川端暁彦

▼技術、判断力に長じたマルチロール
 先のW杯ブラジル大会へ、日本代表トレーニングパートナーとして帯同した高校生。名古屋の杉森考起とともに「大分の坂井大将」の名は、少なからぬサッカーファンに認識されたことと思う。

 今春、大分U-18からトップチームへ二種登録された坂井は、1997年1月18日長崎市生まれ。9月24日に発表されたU-19日本代表メンバー23名のうち唯一の東京五輪世代だ。地元のクラブチーム「JFCレインボー長崎」でボールを蹴りはじめ、中学入学と同時に親元を離れて大分U-15に加入。小柄ながら並外れたパスセンスと運動量を評価され、12年のU-16代表から毎年、年代別代表で日の丸を背負うようになった。

 昨年10月にUAEで開催されたU-17W杯のチュニジア戦では、1点ビハインドで途中出場し、87分に同点ゴール。今年1月、ロシアで開催された「バレンティン・グラナトキン国際トーナメント」ではU-18代表の一員として、全勝優勝に貢献した。3月のサニックス杯では、トップ下でリズムを作る役割をこなす。4月はスロバキア遠征、5~6月はW杯ブラジル大会、8月にはSBS国際ユース大会、9月にはベトナム遠征と、今年は頻繁に海外遠征へ駆り出される多忙なシーズンだ。

 はたいては動き、動いては受けて出すプレースタイルは、とりわけトップ下やボランチで輝くが、サイドハーフやサイドバック、また最前線もソツなくこなすユーティリティー性が魅力だ。トップチームの紅白戦でも多彩なポジションを務め、「技術はもとより、現代サッカーで最も求められる判断力の部分で優れている」と田坂和昭監督からも高い評価を受けている。

 トップチームでの公式戦デビューは7月13日の天皇杯2回戦・ヴェルスパ大分戦。トップ下で相手アンカー周辺のスペースを自由に動き回ってパスコースを増やし、得意のワンタッチプレーで攻撃を組み立てた。34分には足元の技術を生かして相手のファウルを誘い、自らPKを決めて、17歳5カ月25日でクラブ史上最年少公式戦得点記録を更新した。

▼並み居る先輩たちから日本の次代を託される
 W杯ブラジル大会へ臨む日本代表メンバー発表会見では、原博実技術委員長にムードメーカーを託される一幕もあった。

「物怖じしない。(これまで出場した年代別の)大会で、コーチの物真似をしてみんなを笑わせるなどしていた。のびのびやってくれるんじゃないか」

 最年少の”みそっかす感”とトレーニングで見せる懸命さがあいまって、大分でも「やんちゃ坊主」と愛されるキャラクター。トップチームの練習前の円陣で掛け声役を任されるなど、ハードなJ1昇格争いの日々に元気なアクセントとなっている。毎日の練習後には制服に着替え、自転車で慌ただしく高校へ向かう。

 今回大分からともにメンバーに選ばれた松本昌也とは、スペースを上手く使うプレースタイルも似た者同士で、試合後には一緒に映像を分析し、寮でもほとんどの時間を共に過ごしてきた。W杯メンバー発表の数日前からソワソワしていたという松本は、坂井のトレーニングパートナー選出を知ると、自分のことのように喜んだ。坂井は「昌也くんは”かまってちゃん”で、僕のことが大好きなんです」と周囲を笑わせながら、最も身近な日本代表の先輩を兄のように慕い、リスペクトしてやまない。

 W杯チームでも、そんな茶目っ気が愛されたのだろう。約40日間に及ぶ帯同生活のあいだに、日本サッカーの最前線をひた走る先輩たちから、たくさんのギフトを受け取ってきた。多彩なポジションで貢献した紅白戦での収穫ばかりでなく、杉森と励んでいたパス練習に加わった本田圭佑から「お前らは体が小さいからそのぶん技術を磨け」とアドバイスされ、惜しくも引き分けとなったギリシャ戦の日の夕食後には、ホテルのエレベーターに同乗した長友佑都から「誰も落ち込んでないし、みんな前を向いてる。この雰囲気を覚えておいて、次の世代に伝えていけよ」と、次代を託された。

 チーム解散の日には、W杯メンバーが感謝をこめて、全員のサインを入れたユニフォームをスタッフたちにプレゼント。「いいなあ……」と、うらやましくその様子を見守っていた坂井だったが、後ろから頭を突つかれて振り返ると、本田に「頑張れよ」と自分のユニフォームを手渡された。ユニフォームは帰国後、脈々と受け継がれていく日本サッカーの象徴のように、坂井の部屋に飾られているという。

▼左サイドバックでのイメージは鹿島時代の新井場徹?
 今大会では、これまでコンスタントに招集されてきたG大阪の内田裕斗がメンバーから外れて、左サイドバックは広島の宮原和也とともに坂井が務めることになる。直前のベトナム遠征でも左サイドバックを任されていたことから、坂井自身もその心づもりでいた。

「世界基準の戦いでは、まずは相手サイドハーフのスピードに対応することが重要。1対1にならないポジショニングを心がけたい」

 独力で縦方向に突破する力を持つタイプではない。高さやスピードが課題になることもあるだろう。だが、「技術が高くボールが収まるので、周囲とパス交換しながら起点になれる。フィードの質も良い。ビルドアップ時には高い位置を取らせて前線への飛び出しやスルーパスなどに期待したい。鹿島時代の新井場のようなイメージ」と、自らも坂井を紅白戦でしばしばサイドバックに起用する田坂監督は言う。守備面での不足分をセンターバックやボランチが補ってくれるなら、攻撃面では大いに好機を生み出すはずだ。

 そろって早生まれで、これまでも飛び級招集の多かった松本と坂井の大分組。背番号10を背負う松本はチームで唯一、前回大会の苦さを経験している。そして坂井は唯一、次回大会の出場権を持つ。4大会ぶりのU-20W杯出場を目指すチームで、この二人が果たすべき役割は大きい。


ひぐらし ひなつ

大分県中津市生まれ。福岡や東京で広告代理店制作部に勤務し、いつしか寄る辺ない物書きに。07年より大分トリニータの番記者となり、オフィシャル誌『Winning Goal』などに執筆。12年シーズンよりサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』大分担当も務める。戦術論から小ネタまでの守備範囲の広さで、いろいろとダメな部分をカバー。著書『大分から世界へ~大分トリニータ・ユースの挑戦』(出版芸術社)。