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第2節で早くも実現。風間八宏vs大木武。45年越しの同級生対決【J開幕特集】

「ボールを大事にする」という共通の意思を有している二人

名古屋グランパスとFC岐阜。リーグ戦で初めての対戦となる”名岐ダービー”は、近隣にホームタウンを構える同士の対決以外に注目すべき話題性がある。お互いにディテールは異なるものの、「ボールを大事にする」という共通の意思を有している二人の指揮官が初めて公式戦で対戦することになった。名古屋を率いる風間監督と岐阜の指揮官である大木武。約45年前に出会った者がJの指揮官として激突する一戦の見所を、ライター・渡辺功氏がレポートする。

 

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▼因縁の二人

日本サッカー界の’キング’三浦知良50歳の誕生日が重なったことで、例年以上の関心が集まる中、開幕した今季のJ2。J1と比較すると、選手個々のタレントに恵まれない分、チームとしての戦略、戦術がより色濃く表れるカテゴリーだとよく言われるが、今季のJ2には例年以上にバラエティーあふれる監督たちが顔をそろえた。

 いきなり開幕戦でぶつかったリカルド・ロドリゲス(徳島)、ロティーナ(東京V)の両スペイン人。そのスペインでプレーしていたJリーグ5人目のアルゼンチン人監督となるファン・エスナイデル(千葉)。天皇杯とナビスコカップ(現・ルヴァンカップ)の優勝経験を持つ柳下正明(金沢)。J2で4チーム目の指揮となる木山隆之(山形)。通訳を務めたイビチャ・オシム同様、監督会見でも耳目を引く間瀬秀一(愛媛)。監督1年目にして、闘莉王、大黒、エスクデロらの個性派を束ねる布部陽功(京都)。続投組では、昇格請負人・反町康治(松本)、同業者の評価が高い長澤徹(岡山)、ノータイム・フットボールの曺貴裁(湘南)、泰然たるリーダー井原正巳(福岡)などが、捲土重来を期している。

 中でも注目の顔合わせなのが、今週4日に控えた名古屋グランパスvsFC岐阜(豊田スタジアム、14時キックオフ)だ。リーグ戦では初めてとなる『名岐ダービー』は”木曽川の合戦”と銘打たれ、早くからサポーター、関係者の士気は高まっている。名古屋の風間八宏監督と岐阜・風間宏矢による”親子対決”といったメディア受けする格好の話題もある。

 そして、両チームを率いる風間八宏と大木武は、同じ1961年の静岡県清水市(現・静岡市清水区)生まれ。「実家もすぐ近所で、お互いの家にご飯食べに行ったり食べに来たりしていた」(大木)”幼馴染”にあたるのだ。出会いは「小学5年か、6年生のとき」(風間)と言うから、いまから約45年前にまでさかのぼる。清水市内の選抜チーム・清水FCに、辻小学校に通う大木に少し遅れて、江尻小学校の風間が選ばれたことがきっかけだった。

 二人そろって入部した清水第一中学校のサッカー部では、大木がキャプテン、風間が副キャプテンを務め、風間によると「僕は裏方の小さなCBで、武が中盤の真ん中で’10番。武にボールを預けておけば、奪われないし全部やってくれる。”王様”タイプのエース」で、大木によれば「八宏はサッカーを始めたのが、僕より遅かったんだけど。あっという間にうまくなった。僕は八宏のすぐ前でプレーしていたから、そのすごさがよく分かった。練習で1対1をやっても、アイツだけは抜ける気がしなかった。次元が違った」とのことだ。

 その後の進路は異なったが、親交が途絶えることはなかった。「大学のときは筑波の八宏が、西が丘でリーグ戦があると移動が遠いから。前の日に同級生の鈴木淳(元・千葉ほか監督)などと一緒に、俺の四畳半の狭っまい下宿に何人も泊まりに来ていた」(大木)なんていう、青春のひとコマもあった。ひと足早く30歳で指導者の道に進んだ大木について「外から観ていて、選手たちが変わっていくのが分かった。熱いから。迷いがないから爽快なんだ。あれだけ変化があれば(指導者を)やっていて面白いだろうと思った」と風間は言い、当時まだ中学生だった長男・宏希(山形)が夏休みを利用して、大木が監督を務める甲府のトップチームの練習に参加したこともあった。

▼二人の哲学

 昨年の夏、大木に「いま一番面白いと思うJリーグのチームはどこか」と尋ねてみたところ「好きなのはフロンターレ。それと(レノファ)山口。いまは現場を離れているから、それほどしっかりと観ているわけではないけど。面白いと言うか、一番オレ好みのサッカーをやっているよね」との答えが返ってきた。

 筑波大や川崎で風間が披露していたサッカーと、甲府や京都で大木が築き上げていたサッカー。両者に共通するのは”世間の常識”とはかけ離れた発想と、ボールを大事にしようとする強い意思だ。自分たちでボールを持たずに、相手ボールを追い掛けているばかりでは、選手は面白くないだろう。プレーしている選手たちがやっていて楽しくなかったら、観ているお客さんが楽しいはずがない。プロである以上、お金を払って観に来てくれたお客さんには、楽しんで帰ってもらわなくてはいけない。名古屋と岐阜と、新チームの始動からまだ2カ月弱でありながら、開幕の1試合だけを観ても、そうした意図や萌芽がはっきりと感じ取れた。

「練習でやってきたことを、そのままやり続けるだけ。もちろん昨年までJ1にいた名古屋グランパスですから敬意は払いますが、基本的にはシーズンの42分の1ですよ」。ダービーへの意気込みを問われた大木に、特別意識した様子はなかったが、「子どもの頃から知っている八宏と、こういう舞台で対戦ができる。その楽しみはあるよね」と微笑んだ。

 もちろん1年でのJ1復帰が至上命令の名古屋と、一ケタ順位を目標とする岐阜では、置かれた立場が違っている。動きのないゲームを良しとしないことで、大差になる可能性だってある。それでも14年ブラジルW杯での日本代表の敗退以降、「自分たちのサッカー」といった文言はマイナスの文脈で語られることが多い中、この約45年越しの同級生対決は、いまのJリーグでは稀有な、個性と個性のぶつかり合いになるはずだ。

渡辺功(わたなべ・いさお)

1972年、埼玉県生まれ。北海道放送のラジオディレクターとして、スポーツ、報道、バラエティ、音楽…。多岐に渡るジャンルの番組を制作。03年フリーに。05年から、さまざまな雑誌、WEBで、サッカーの記事を執筆。また、サッカー以外のスポーツ・ライティング、テレビ・ラジオ番組の構成など、幅広く手掛けている。