J論 by タグマ!

日本のサッカー文化を盛り上げる意味でも良い存在になっていきたい

女性的視点で、女性ファン拡大の取り組みを続けている団体が『Jユニ女子会』だ。

J1リーグの2ステージ制導入など、近年のJリーグは新規ファン層の開拓に向けて積極的に取り組んでいる。しかし、満員の観衆で埋まる日本代表の公式戦と比べて、まだまだJリーグの動員力にはさまざまな課題が残っている。新規層に響くJリーグの魅力とは何か。その女性的視点で、女性ファン拡大の取り組みを続けている団体が『Jユニ女子会』だ。J論では定期的なシリーズ企画として、Jユニ女子会のメンバーにインタビューを敢行し、Jリーグの新規ファン層拡大のために、私たちができることを検証していく。第1回は主宰者の二人が前編と後編の2回シリーズで登場する。
(前編『Jユニ女子会の活動が大好きなクラブ、大好きなJリーグのためになればいいなと思っています)

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第1回主宰者対談
木下紗安佳さん 浦和レッズサポーター
幸菜さん  大宮アルディージャサポーター 

▼潜在的なファンはまだまだいる
ーー代表人気に比べて、Jリーグは一般的にダサいと見られている傾向にありますが、新しいファン層を開拓するためにも、女性的観点でJリーグのどんなところが”刺さる”のでしょうか?
幸菜「サッカーにまったく興味のない人はまた別だと思いますが、例えば日本代表で盛り上がっている人たちには、あの興奮を毎週味わうことができるんですよ、と言いたいですね。また、女子に至ってはサッカーに興味があるレベルによっても変わってくると思いますが、ユニフォームを着たり、応援グッズを身に着けて写真を撮るといった行動は、女子高生の行動とすごく似ているなとも感じます。

女子高生が制服をお洒落に着崩したり、お揃いのアイテムを持つとか、あの心理はディズニーランドでミッキーマウスの被り物をしたり、ディズニーのキャラクターと一緒に写真を撮る行動にも似た感覚だと思います。最初はそこまでサッカー自体に興味がなくても、そういうちょっとしたワクワク感を味わうことが楽しくなって、気が付いたらサッカーも好きになっていたという女性が結構いるんです。”マスコットオタク”を入り口にサッカーを好きになった女性もいます」

木下「サッカーを見に行くということは、サッカーを見に行くだけではないということが、意外と知られていないんですよね。もちろんスタジアムはサッカーを見る場所ですが、プラスαでできることはたくさんあります。その日限定のご飯を楽しんでみたり、選手パネルとの写真を撮ってみたり。また、私の場合一人観戦時にはできなかったことがたくさんあったのですが、今年はいろいろできました! フェイスペイントを一人観戦だと直前に来て時間が余らないようにしている子が多かったので、大勢の中に一人で並ぶなんてことは敬遠しがちなメンバーが多かったです。また選手パネルとの記念撮影も一人では恥ずかしくてなかなかできませんでしたが、同じ気持ちの子がたくさんいてみんなで念願が叶って撮ってもらいました。

そして、アウェイのスタグル(スタジアムグルメ)も一つの魅力です。アウェイの場合は、一度入場したら、そのあとはスタグルのある外に出られるのかなとか、そういう情報はなかなか出てこないので、Jユニ女子会のネットワークを使って聞いたり調べたりできます。そういう情報が新しいサポーターでも簡単に見つけられるように出ていれば、もっとサッカーを見ることの魅力が広まっていくと思います」

幸菜「例えば、旅行は観光地に行くことが一つの目的ですが、それ以外にもご飯や温泉など現地での楽しみがあります。女性サポーターもだんだんコア層になってくると、サッカー観戦にプラスαでそれらを楽しむというのがライフスタイルに浸透していて、毎年の旅行計画の楽しみにもなっていると思います」

木下「そう、アウェイ遠征のついでに旅行に行こうか、となるように」

幸菜「まずは『サッカー観戦って楽しそう! だから行ってみよう』と、思ってもらうきっかけさえできれば、ライフスタイルの一つとして、アウェイ遠征に旅行感覚で行ってみるとか、そういう形で1年の間にスタジアムへ行く回数自体が増えたというメンバーも結構います」

木下「行った人が楽しそうにしている写真を見ると、『あっ、行きたい!』と思うじゃないですか。サッカーに限らず、全然興味がなかった場所の川の景色を見たり、『もう紅葉やってるんだぁー』みたいな写真がメディアではなく、まったく情報をキャッチしに行かない人に対して、SNSなどを通じて情報が流れることで、広く知られていくことが大事なのかなと思います。

私はJリーグが開幕した時期に小学生だったので、同じ世代の子には、意外と小さいころにジェフの試合を見に行ったことがあります、昔はラモスとカズが好きだった! といった人たちが結構周りにいるんです。Jリーグの人気が一時期落ちて、集客を図るときに地域へ招待券が配られて、Jリーグを見に行ったような人たちが。私はある雑誌でブロガーをやっているのですが、全然サッカーに興味がない子だと思っていた人から『めっちゃサッカーのことを話しているけど、私も昔サッカーを見に行っていたことがあって、今度呼んでよ』とLINEで連絡が入ることもあります。1年を振り返って、サッカー漬けだったなと思うのですが、サッカーの話をしていることでそれを周りも見ているから、一種の布教活動のようなものをやっているんだなとも思います」

ーー昔、Jリーグに触れたことがある人をもう一度スタジアムに足を向けてもらうチャンスはあると。
木下「2002年に日本でW杯が開催されたことは大きくて、例えば仙台はW杯の試合が開催された地域なので、Jユニの仙台サポーターはW杯でサッカーにハマったという人が多いんです。2002年のW杯を経験している世代は”休眠層”? とも言うべき、眠った顧客・ファン層が結構いると思います」

幸菜「興味はあるけれども、一人では行けないから、ずっと行ったことはないという人が意外と多いんですよね。そういう人たちのためにも、Jユニ女子会を通じて、ちょっとしたきっかけができればいいなと活動しています」

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▼ジャニーズ好き、ディズニー好きとの共通項
木下「今年の活動を通して個人的に思ったことは、周りに結構関ジャニーズファンの子がいるのですが、私たちがやっていることは多分、その子たちと感覚的には似てるんだろうなと思います」

幸菜「似てる、似てる。学生のとき、私はまったく興味がなかったのですが、周りのジャニーズファンは休み時間にずっとジャニーズの話をしているので、自然と耳にジャニーズの情報が入ってくると、気が付いたら詳しくなっています。あとでこっそりとジャニーズJr.の中からちょっと自分好みの子を探してみたり……」

木下「そうそうそう」

幸菜「Jユニ女子会のメンバー同士で選手名鑑を見たりするのですが、それを見て他のチームでちょっとした”推しメン”を教えてもらって、ほんとだ! とか、こっちのほうがカッコいいよとか、よく盛り上がります」

木下「そう、下部組織で誰がいいの? みたいな」

幸菜「Jユニ女子会で不定期ではありますが、Jユニ調査といったランキングをつけるためにアンケートを取ったりしています」

ーーちなみにこれまではどんなランキングがあったのですか?
木下「例えば、夏前にはリオ五輪で活躍を期待している選手とか、インスタグラムで好きな選手ランキングなどです。インスタのランキングはダントツ1位で槙野(智章/浦和レッズ)選手。代表の様子も動画でアップされるので、あれを超えるものはないといった結果でした。ちなみに2位はゆうま(鈴木優磨/鹿島アントラーズ)。動画もアップしている選手は、選手の日常や素の姿が見えるから人気が高い印象でした!」

幸菜「プライベートな部分が見えると、その選手に興味が湧いたりするよね。そう、絶対に見なければ良かったのに、さいたまダービーで負けた後に見てしまいました。『あぁっ』と思いながら槙野の動画をポチッとして、イラッとして……(苦笑)」

木下「私は負けが続いたファーストステージの間に一回、(浦和の選手のインスタの)フォロー外しました、全部! 負けているのに楽しそうな写真とか見たくなくて」

幸菜「でも毎回見てしまう自分がいる……。気付いたら槙野と森脇(良太/浦和)がちょっと好きになってましたもん私」

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▼代表戦におけるクラブ愛が高じた”つぶやき”
ーーお二人は代表戦をどのように捉えているのですか?
幸菜「私はもともと川口(能活)選手(現・SC相模原)がずっと大好きで、代表戦をスポーツバーで観たりしてました。でもいまはもう、頭が日本代表よりもJリーグのクラブ愛に変わってしまったので、温度感はクラブのほうが強くなっちゃいました。でも、代表も好きです」

ーー例えば代表ウィークにルヴァンカップがあれば、ルヴァンカップのグループリーグのほうが気になってしまうと。
幸菜「もちろんそうですね。代表戦をやっているときのアルディージャの女子のグループLINEでは、だいたい決まり文句として、『アキさん(家長昭博)がPKを蹴れば外さないのに』とか、『アキさんだったらボールを取られないのに』とか、そういった話ばかりをしています(笑)。

私はいまは、代表では長友ユニを着ているのですが、やっぱり今年は原口元気選手や大迫勇也選手など、最近までJリーグでライバルだった選手を応援してしまいます。埼スタで原口選手にエールを送っている自分にすごく違和感を感じつつも、何度『元気ー!』と叫んだことか(笑)」

木下「いやぁ、今年は元気だねぇ。大人になってくれました」

ーーこれからシーズンオフに入っていきますが、その期間にJユニ女子会として、こんな活動をしていきたいなど、今後の展開について聞かせてください。
幸菜「今後の展開については、木下さんと二人で話し合っていこうと思っていますが、まずはコミュニティーとして定着させるというか、一つの文化にしていきたいと思っています。女性がサッカー観戦を楽しむというライフスタイルをもっと日常化していきたいですね」

木下「私たち自身もサッカーライフの幅が広がり楽しく活動をさせてもらっていますが、この火を消さずにJリーグを一緒に楽しめる、かつ盛り上げていける女子サポの輪が大きくなったらと思います。コアな子が増えてきていますが、今年サポーターになったライトな子ももっとメンバーに増えたらいいなと思います!」

幸菜「私たちが目立ちたいからこういう活動をしているのではないので、こちらからゴリゴリ勧誘や営業のような行為はまったくしていません!」

ーー自然発生的にメンバーが増えていると。
幸菜「Jユニ女子会をアピールするというよりも、あえて「女子」とカテゴライズしているこの20代、30代の年齢層がコミュニティーの中心となっているので、この層の女性サポーターがもっと活性化したらいいなと思っています。

彼氏ができてサッカーを見に行きにくくなったとか、逆に男性側が結婚後に奥さんの許しがないとサッカーを観に行けないということが結構事例としてあるので、女性にとってJリーグを楽しむことがもっと一般化することでJリーグ観戦をみんなが気軽に楽しめる環境を作っていきたいです。それがJリーグのためにつながっていけばうれしいですね」

木下「この活動は幸菜さんと二人で始めましたが、いまは私たち発信というよりも、メンバーのみんながこうして写真をたくさん上げてくれています」

幸菜「この前も私試合後に一人で飲んでいたら、知らない大宮サポの二人組が私のことを知ってくれていたようで、『私たちJユニ女子会に入りたかったんですけど、勇気がなくて……。でも、私たち二人以外にサポ友だちがいないので、入りたいです!』と言ってくれました。今まではきっかけがなかった人たちも、Jユニ女子会という一つの文化やコミュニティーがあることで、同じ楽しみを分かち合う輪が広がっていけばいいなと思っています」

木下「仲間が増えると楽しいですし。私は会社のスカイプのアイコンもレッズのユニフォームを着ているので、自然とサッカー好きの人が集まってきますよ」

幸菜「Jユニ女子会のファン層はコア層とミドル層、半々かな。まだ中にはまだ見始めて1年目だけど、気が付いたらコアなファンになっていたという子もいます。初めて今年はユーロの試合をテレビで観てみたり、サッカー自体にも興味が湧くメンバーが増えているので、おおげさな言い方になるかもしれませんが、日本のサッカー文化を盛り上げる意味でも良い存在になっていきたいなと思っています」

木下紗安佳さん(浦和レッズサポーター)
埼玉県さいたま市(旧大宮市)出身。いまは9番の武藤雄樹選手がイチオシ。陰から飛び出て点を決めてくれる姿にワクワクしています! Jユニ女子会を始めてからサッカーライフの幅がかなり広がり自分自身でもビックリしています。来シーズンはJユニのレッズメンバーで遠征したい!!

幸菜さん(大宮アルディージャサポーター)
東京都出身、埼玉県越谷市育ち。ファミリーのように温かな大宮アルディージャがとにかく大好き。スタジアムでは熱くなり過ぎて、勝っても負けても涙が出るほど。好きな選手はゴールキーパーの加藤順大選手。

郡司聡

茶髪の30代後半編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』編集部勤務を経て、現在はフリーの編集者・ライターとして活動中。2015年3月、FC町田ゼルビアを中心としたWebマガジン『町田日和』を立ち上げた。マイフェイバリットチームは、1995年から1996年途中までの”ベンゲル・グランパス”。