Jリーグクラブの『ローカル色』こそゲーム業界から見て面白さがある
そのローカル色にこそ面白さがあるんですよ。
なぜ今回のタイアップは、並み居るJクラブの中で今季4年ぶりにJ2復帰を果たした町田だったのか。その経緯や理由、そしてゲーム業界から見たJクラブはどんな魅力的なコンテンツに映っているのか。今後の展望も含めて、開発を統括した株式会社サイバードのゲーム事業本部・阿部淳エグゼクティブプロデューサーへ、前編・後編の2回シリーズで話を聞いた。
(※前編 「最大級の効果があった浦和レッズからFC町田ゼルビアへ。『BFBチャンピオンズ』はなぜ町田を浦和の次に選んだのか?」)
▼Jクラブへの親近感をゲームに反映
—ゼルビアとのタイアップがスタートしてからしばらく経ちましたが、現状の手ごたえはいかがですか?
「ゼルビアのエンブレムも、自分のチームのエンブレムとして使えますし、自分のチームのユニフォームにもゼルビアのホーム・アウェイ(フィールドプレーヤー&GK)ユニフォームを使用することができます。こうした親近感をゲームに反映できることが今回のタイアップの魅力の一つです。アプリストアのレビューを拝見すると、『ゼルビアでうれしい』というユーザーの方もいるようですから、そういう評価はわれわれにとってもうれしい限りです」
—タイアップするクラブを選定するにあたって、”熱さ”が一つのキーワードになっているのですね。
「例えば、ホームタウンを選べる中で、レッズさんとタイアップした際は、「浦和」を選択するチームがダントツに多かったです。浦和、埼玉、関東、全国とステップを踏んでいく「代表戦」というゲーム内の大会では、激戦区のエリアをホームタウンにしていると勝ち抜くことがたいへんになるので、年に1、2回可能なホームタウンの引越しで田舎のホームタウンに引越しをするケースがあります。しかし、浦和を選ぶ方は浦和が好きなので、ホームタウンを変えるユーザーが少なく、一時期、浦和が激戦区という状況はありました(笑)。
ホームタウンを選定できる機能を搭載している背景には、自分の街から世界を目指せる、例えば『町田から世界へ』といったローカル色を強く打ち出すことを狙ったためです。ゼルビアさんとのタイアップをすることで、町田をホームタウンとするユーザーが増えればうれしいですね。また国見高校といった高校サッカーが強い長崎県国見町など、日本のサッカーどころは一通り網羅しています」
▼”ローカル色”こそ、Jクラブの魅力
実際に阿部エグゼクティブプロデューサーが足を運んだ町田の公式戦で、自身が感じていたゼルビアを取り巻く”熱”が間違いではなかったことを確認した。街中で感じる熱とスタジアムでの熱。阿部エグゼクティブプロデューサーは、試合前の空気感に触れることで、その実感を深めていったという。
—ゲーム業界から見て、Jリーグクラブの”ローカル色”は、コンテンツとしての魅力があるのですね。
「そのローカル色にこそ面白さがあるんですよ。僕が観戦に訪れた試合は、前半に退場者を出しながらも東京ヴェルディさんに2-1で勝ち切った『東京クラシック』でしたが、町田のスタジアム(町田市立陸上競技場、通称・野津田)に行かせてもらって、すごく良いなと思いました。
町田のスタジアムで魅力的だなと思ったことは、お客さんの試合前の過ごし方です。イベントスペースも多くのお客さんで埋まっていましたし、その”いつも行っている感”がすごいなと。ゼルビアさんのファン・サポーターを見ている限り、”外様”を受け入れないといった印象もありません。ゼルビアのファン・サポーターは、町田という街が好きなのか、ゼルビア自体が好きなのか、サッカー自体が好きなのか、それとも選手が好きなのか、すごく気になってはいますが、最も比率の高いサポーターはどの層なのか、こんなに分かりにくいクラブはありません。総合的にバランスが良いと思います」
—ゼルビアさんとタイアップをできたことはメリットが大きかったのですね。今後の展望はいかがでしょうか?
「実際にゼルビアさんの試合に触れる中で、自然体でコアなファン・サポーターが多いなという印象はありますし、ゼルビアさんとタイアップできて本当に良かったなと思っています。今回のタイアップを展開したことにより、J2クラブのファン・サポーターは昔からサッカーが好きといった意識の高さをより一層感じることができました。今後の展望については、J2やJ3のクラブさんを中心に、町田のように街単位でサッカーが好きなJクラブとコラボレーションできれば良いなと思っています」
11月3日文化の日に開催されたJ2第39節・ファジアーノ岡山戦は、『BFBチャンピオンズマッチデー』と銘打たれ、イベントスペースである”ゼルビーランド”では、BFBチャンピオンズのPRブースも出展された。阿部エグゼクティブプロデューサーは試合開始前、観衆に向かって挨拶をし、試合中は記者席やバックスタンドで町田の戦いぶりを見守った。前半を記者席で観戦した阿部エグゼクティブプロデューサーは、記者席を去り際に「後半はバックスタンドで見ます。この町田のスタジアムの雰囲気、良いですねー」と満面の笑みを見せていた。
全国津々浦々にホームタウンを構えるJリーグクラブは、東京都心をホームタウンに持ついわゆる”山の手クラブ”を持たないが、少なくともサイバードというゲーム業界のイチ企業は、Jリーグが有する”ローカル色”にこそ強みがあると、語っている。Jリーグクラブの魅力をいかに打ち出していくか。今回の町田とのタイアップは、さまざまな示唆に富んでいた。
郡司聡
茶髪の30代後半編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』編集部勤務を経て、現在はフリーの編集者・ライターとして活動中。2015年3月、FC町田ゼルビアを中心としたWebマガジン『町田日和』を立ち上げた。マイフェイバリットチームは、1995年から1996年途中までの”ベンゲル・グランパス”。