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第2戦の姿勢は明白。吹っ切れたトリニータに、恐れるものなどない

逆転でのJ2残留に向けた勝算を、大分の番記者・柚野真也氏が探る。

Jリーグは、そのレギュラーシーズンを終えてポストシーズンに突入。最後の勝者になろうとしのぎを削っている。シーズンの命運を決する”最後の戦い”に焦点を当てたポストシーズンマッチレビュー。第5回はJ2・J3入れ替え戦の第1戦に敗れた大分トリニータにフォーカスし、逆転でのJ2残留に向けた勝算を、大分の番記者・柚野真也氏が探る。


▼敗れた第1戦の反省点

 アウェイでの第1戦でまさかの敗戦を喫した大分トリニータに求められるのは、露呈した課題の修正と今季ここまでやってきた自分たちのサッカーを思い出すことだ。今週は柳田伸明監督就任以来、初となる非公開練習という環境面の変化を与え、第2戦に備えて集中している。

 「立ち上がりは押し込まれたが、先制できたのは良かった。ただ、全体を通してどんな戦い方をすればいいか統一できなかった」と、第1戦の戦いを松本昌也は悔やむ。

 22分に苦しみながらもセットプレーで先制点を奪い、途中まではプランどおりの戦い方ができていたが、なぜ逆転負けを喫したのか。そこには相手に合わせた戦い方の限界と、チームとしての意思疎通の欠如が浮き彫りになった。

 立ち上がりから対戦相手のFC町田ゼルビアの素早い出足に手こずった感はあったが、その後は高い守備組織の下、奪ったボールをシンプルにつないで反撃し、セットプレーから先制。前半の途中までは、ほぼ狙いどおりの戦いを見せていた。

 その狙いとは、セーフティーな戦いを貫くということ。アウェイの戦いでは、まず第一に相手に点を与えないことが定石だ。もちろん勝利を求める姿勢はあったが、最低でも引き分けを得るための戦いで良かった。

 しかし、前半の終了間際に同点にされた後、大分は戦い方があいまいになった。攻撃においては、前半のようにリスクを冒さず大きくボールを蹴るのか、パスをつないで攻めるのか。引き分けで良しとするのならば、守り切るという意識があれば負けることはなかったはずだ。だがチーム全体の意思統一の欠如が、町田にやすやすと攻め込むスキを与えてしまった。松本昌也は次のように振り返った。

 「後半はチームとしてこうしようというのがなかった。引いて守るのか、前から圧力をかけて攻撃にいくのかあいまいだった」
 
 1点を取りに行きたい攻撃陣は後方からの攻め上がりのなさを嘆き、守り切りたい守備陣は前でボールをキープし時間を稼げない攻撃陣に戸惑った。統一感を欠いたチームはバランスを保てず、結果、逆転ゴールを許した。

 他の選手たちも当然バランスの悪さを感じていた。だが、その状況を回避できなかった原因は、「選手同士でコミュニケーションを取れなかった」(為田大貴)と反省した。確かにそれはある。だが、あの状況で明確な指示を出せなかったベンチワークにこそ、最大の問題があったと考えるべきだろう。

 「サッカーはベンチでやるわけではない。相手の力関係と、自分たちの調子も分かっているので、ベンチに頼っているようではダメ」と松本昌の指摘は確かに正論だ。しかし、ピッチの上ではそれぞれの主張があるのも事実。それをまとめるのが、やはり監督の仕事である。

▼主体的に戦える選手の選考を
 この試合でなす術なく負けた現実は重い。だが、決して絶望的な状況に陥ったわけではない。「この結果をしっかりと受け止めてやらないといけない。これで終わったわけではない。次は萎縮せずに戦いたい」。試合後、柳田監督はそう語ったが、それは自分自身に投げかけた言葉なのかもしれない。

 後半に二人の退場者を出し、その後に追加点を奪われていれば、大分の降格はほぼ決していたと言って良い。逆にアウェイゴールを奪ったのは、ホームでの第2戦に大きな可能性を残すことになった。DF若狭大志、DF鈴木義宜が退場処分を受け、第2戦は出場停止。DFダニエル、FW三平和司も第1戦の負傷で出場が危ぶまれている。ただ、非常に厳しい状況ではあるが、受け身で消極的だった戦いに見切りをつけやすくなったとポジティブに考えることもできる。メンバーを大幅に入れ替え、主体的に戦う姿勢がある選手を選考すれば良いのではないか。

 もともと柳田体制になり、戦術的な戦いが構築されたわけではない。柳田監督が求めるのは「サッカーの本質をしっかりやる」ということ。本質とは、「攻守の切り替えを速くする」、「球際で負けない」、「相手より運動量で勝つ」、「戦う姿勢」といった、戦術以前に欠かせないもののこと。ここまできたら、吹っ切って戦えば良いし、ホームでの第2戦ではサッカーの本質というものを見せてほしい。

柚野 真也(ゆの・しんや)

1974年生まれ。大分市出身。2002年のサッカー日韓W杯を機に、スポーツの持つ”吸引力”に引き込まれ、フリーの編集者・ライターに。プロからアマチュアまで地方のクラブ、有名無名問わず名もなきアスリートの歓喜と悲哀を言葉で綴っている。