J論 by タグマ!

やはり受けるのは人モノ? 空前絶後の反響だった本田圭佑インタビュー

ウェブメディアの世界でのサッカーとJリーグについて考えてみた。

「もっと自由な経済紙を」というスローガンを掲げてスタートした「経済のスマホメディア」である『News Picks』。サッカー界のトップライターである木崎伸也氏を登用してスポーツ報道に注力し、ちょっと違った切り口のサッカー記事を展開する姿勢に注目が集まっている。第3回にして最終回となる今回は、『News Picks』佐々木紀彦編集長を交えながら、ウェブメディアの世界でのサッカーとJリーグについて考えてみた。

IMG_8401.JPG

第一回 佐々木紀彦編集長&木崎伸也氏インタビュー。「狙うは既存モデルの破壊と新時代創造」
第二回 企業名解禁の裏道はありなのか? Jリーグに「お金」を持ってくる方法論は?

▼Jリーグ絡みのコンテンツは強いのか?
J論:『NewsPicks』(以下『NP』)が創造してきた数々のコンテンツの中で、とくに反響が大きかったものをいくつか挙げていただけますか?

佐々木:圧倒的に本田圭佑さんのインタビューですね。

木崎:そうですね。本田選手を去年の9月に直撃したインタビュー記事がありまして。それまで直撃と言えば『Number』だったんですが、僕はそのとき『スカパー!』の解説でドイツに行っていて、とくに『Number』からの依頼もなく「ちょっとイタリア行ってみようかな」という気楽さもありましたし、ちょうど『NP』も始まっていた頃なので一度ビジネステーマで聞いてみたいとは考えていました。

で、実際にミラノ空港で本田選手をつかまえまして、彼はふだんから経営や投資の本を読んでいると聞いていたので、ビジネステーマなら必ず何かアクションが返ってくるんじゃないかと思ってぶつけたら、ものすごく熱く語ってくれて。カフェに座って1時間ぐらい話し込みました。それを記事にしたのが「俺にとってサッカーは人生のウォーミングアップだ」(https://newspicks.com/news/699083)というタイトルのインタビューですが、非常に反響が大きかったですね。このときの3113Picks(9月末時点)というのはいまだに破られていませんが、佐々木さんの言う”創造的破壊”というのを、日本サッカー界はもちろんビジネスサイドでも本田圭佑がやってくれるんじゃないかという期待感を抱かせる内容でした。

佐々木:「落ちこぼれJリーガーの逆襲」(https://newspicks.com/news/810144)なんかも相当な反響でしたよね。

木崎:そうですね。落ちこぼれJリーガー…元柏レイソルの薮崎(真哉)さんという方がいて、在籍6年間で2試合しか公式戦に出られなかった選手が、いまは立派に社長になられているというエピソードです。ある意味ハチャメチャな人生なんですが、そのギャップを描いたのが良かったのか思わぬ反響でしたね。そこまで有名な人ではないので、サッカーファンというよりビジネスマンの支持が多かったとは思うんですけど。

佐々木:「Jリーグ・データシンキング」とか、インフォグラフィックでまとめた記事も読まれましたよね。

木崎:そうですね。インフォグラフィックでナンバー1のNP櫻田(潤)さんとデータスタジアムさんによるコラボ企画で、まず今年のJリーグ開幕直後に「一番走らなかったMFランキング」(https://newspicks.com/news/873421)というのをやりました。そこで第1位だった中村憲剛選手にクローズアップした記事でしたが、いい意味でふざけたランキングだったからか、非常に反響がありましたね。

「FC東京の謎」というテーマで、データから見えた事象をグラフィックにして、マッシモ・フィッカデンティ監督にぶつけるという企画もやりました。データを分析して、グラフィカルに分かりやすく表現して、それをもとに取材して文章にするという3ステップ企画ですね。分析官とデザイナーと取材者、3者の三角形が上手く融合したスタイルが新しくて、個人的には手応えのあった記事ですね。

佐々木:最近では「Jリーグ・ディスラプション」というインタビュー連載もすごく読まれていますし、やっぱりJリーグネタは強いですよ。

▼スポーツコンテンツの有料化は成功するのか?
J論:『NP』はメディアビジネスとして有料会員を増やすことを目指していると思いますが、Jリーグを含めたスポーツコンテンツはどの程度貢献しているのですか?

佐々木:『NP』のスポーツはまだ基本的に無料コンテンツが多くて、新規会員のリード獲得という役割が大きいですね。どうしてもお堅い経済コンテンツだけだとリーチできない人っているじゃないですか。その点サッカーは幅広い人に届きますから、「外交コンテンツ」として外に出て行って新規ユーザーを獲得する役割が一番ですね。

だけどこの間、FIFAの汚職問題について初めて有料で出してみたんですけど、そこからかなりの新規会員が来ていましたね。それまでスポーツコンテンツの有料化には慎重でしたが、一度トライしてみたら結果が良かったので、「有料もイケるな」という手応えはあります。無料とどう使い分けていくかでしょうね。

木崎:最近のスポーツトピックスを振り返って思うのは、サッカーに興味ない人でも興味のあるサッカーのテーマがある、ということですね。わかりやすのは新国立競技場の建設問題。そういう普遍性というか社会性のあるスポーツオピニオンは有料で読んでもらいつつ、ライトなスポーツビジネスの話は無料で拡散させる、みたいな出し分けはアリかなと思うところはあります。

佐々木:ですよね。そう考えるといろいろな切り口があるなと。我々の一番いいところは、たぶん”アウトサイダー”であることだと思うんですね。スポーツメディアだったら各界との関係性が大事なので、露骨に批判しにくかったり、何かあってもずっと付き合っていかなきゃいけないじゃないですか。

もちろん我々としても、スポーツ分野の人たちとの関係を重視したいとは思いますけど、なあなあになるという意味ではなくて、そこで本当に現状を良く変えたいと思っている人たちとチームを組んでいきたいという感覚ですね。逆に、変わりたくないと思っている人たちから嫌われたりしても、それはもう全然いいやと思って開き直ってる。あまり好かれようというところがないので、そこがひとつの強みかなと思ってます。「嫌われる勇気」ですね。矢面で嫌われるのは木崎さんですが(笑)。

木崎:(苦笑)。だから、選手はほとんど扱っていないんですよ。まだ本田選手だけなんです。メディアのスターシステムについてはトルシエさんが監督のときに散々批判していましたけど、それは2006年のドイツW杯でもあったし、2014年のブラジルW杯の反省点でもあるので。

選手を持ち上げて、惨敗して、反動で批判して…確かにそれでチームが強くなることもあったとは思いますが、いつまでも同じサイクル繰り返すのではなくて、選手・チームと適度に距離を置いた”アウトサイダー”でいようということは意識していますね。

▼メディアもスポーツも「経営人材」が必要だ!
J論:最後に『NP』という”新しいスポーツメディア”の展望についてお聞かせください。

佐々木:スポーツビジネスはいま、経営が変わらないと絶対に変わらないフェーズという意味で、実はメディア業界と似てるんですよね。メディア業界の”選手”はいわば記者や編集者ですが、選手がスターになってどれだけ頑張ったとしても、経営が変わっていいビジネスモデルを生み出して収入が上がらない限り、業界自体はジリ貧なんですよ。だからこそ、いま一番「経営」が大事な時期。スポーツもまさにそのときだと思います。スター育成も大事ですけど、それと同じぐらい経営が重要な局面を迎えているこの時代に、『NP』がスポーツビジネスのコンテンツで実際に業界を動かせる存在になれたら本当に嬉しいですし、社会的意義も非常に大きいんじゃないかなと思ってますね。

それと、もうひとつの大きなテーマは「人材の移動」ですね。変わる業界には必ず最先端の人が必要なんです。メディア業界が変わらないのも、ビジネス界の最先端の人が入ってこないから。欧米ではその点、ウォール街の金融マンやコンサルタントなど、第一線のビジネスパーソンがリーグやクラブを仕切っているじゃないですか。その流れをどうにかして作りたいなと。

スポーツビジネスって日本でもドリームジョブだと思うんですよ。けれども給料が安いとか、全体像が見えなくて何をやっているのかよく分からないとか、本当はやりたい人もなかなか入って行かない状況じゃないですか。そこで我々がスポーツビジネスのスターを紹介したり、新しい側面を報じたりすることで認識が変われば、「俺、これやりたいな」って実際に人が動くと思うんですよね。4月に出したファジアーノ岡山の木村(正明)さんのコンテンツなんかも、すごくポジティブに読まれましたよね。

木崎:あれには驚きましたね。木村さんは正直、サッカーメディアで出尽くした感があるかなと思ったんですけど、ビジネスシーンにはまだまだ知られてなくて。ほぼ既出の内容でもものすごい関心を集めたところを見ると、あまりイメージに縛られない方がいいのかなと思いましたね。J2の社長の話があれほどウケるというのは、やはりJリーグにポテンシャルがある証拠だと思います。

J論:そういう形でスポーツに優秀な人材が集まって来る流れができれば、業界全体が本質的に変わっていくのではないかという期待を持てますね。

佐々木:そうですね。だからこそ経営者がレベルを上げなきゃいけない。いまJリーグの経営者ってみんなサラリーマンで、出向の人ばっかりじゃないですか。あれが続いてる限りJクラブの経営にワクワク感なんか出るわけがないなって。もっとみんなが憧れるような、オーナー経営者っぽい人が出てきてもいいんじゃないかなって気はします。

木崎:ヨーロッパのクラブ経営者は年俸が1億円を超えますからね。それだけのリスクを負う分、きちんと対価をもらっている。Jリーグでも経営陣はもちろんスタッフとして働く人が一般企業と同じくらいの収入になれば、どんどん優秀な人が入ってくるんじゃないですかね。

実際、Jリーグは立命館大学と組んでビジネススクールを始めましたよね。開講式を見るとコンサルタントの人が多くて、現状かなり稼いでいると思うんですが、そういう人たちの中から1年間に2人でも3人でも、Jリーグが支援しながらフルコミットで働いてもらう仕組みができれば、Jクラブに優秀な人材が少しずつ増えて、Jリーグ全体としても少しずつ変わっていくんじゃないかなと思いましたね。

佐々木:うんうん、そう思いますね。

J論:その意味では、いまの日本サッカーやJリーグに足りないものを経済メディアの視点で明らかにしていく『NP』の役割は、今後ますます大きくなっていくのではないでしょうか。

佐々木:そうですね。現実を動かせたらいいですね。

J論:これからも『NP』の動向に注目していきたいと思います。

佐々木&木崎:ありがとうございます。

J論:今日はどうもありがとうございました。