J論 by タグマ!

佐々木紀彦編集長&木崎伸也氏インタビュー。「狙うは既存モデルの破壊と新時代創造」

次世代メディアのあり方と、サッカー報道の未来について聞いた。

「もっと自由な経済紙を」というスローガンを掲げてスタートした「経済のスマホメディア」である『News Picks』。サッカー界のトップライターである木崎伸也氏を登用してスポーツ報道に注力し、ちょっと違った切り口のサッカー記事を展開する姿勢に注目が集まっている。今回はその木崎氏に加えて『News Picks』の佐々木紀彦編集長を直撃。次世代メディアのあり方と、サッカー報道の未来について聞いた。

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▼スポーツがコアコンテンツの経済メディア
J論:J論には『NewsPicks』(以下『NP』)というメディアを初めて知る読者も多いと思いますので、最初に編集長の佐々木紀彦さんからご紹介いただけますか。

佐々木:はい、ひとことで言うと「経済のスマホメディア」ですかね。主な役割は3つで、ひとつが「経済」に特化した”キュレーションメディア”としての顔、もうひとつが”ソーシャルメディア”としての側面(FacebookやTwitterと連携している場合、あるニュースを1回クリック――『NP』ではこれを「Pick」と言い、1Pickすると約3,000人に広がっていく計算)、もうひとつが、ユーザー数50万人超を抱える、いわゆる”メディア”としての側面ですね。とくに一般のキュレーションメディアは自前でコンテンツを作ることはほとんどありませんが、『NP』では20名弱の編集部を構え、1日10本から15本のオリジナルコンテンツを作っているのが大きな特徴です。

J論:『NP』はスポーツ系コンテンツも充実しており、専門メディアでは見られない独特の企画が注目を集めてきました。

佐々木:門外漢のように思われるかもしれませんが、我々は”ディスラプション”、つまり「既存の古いモデルを破壊すると同時に新しいモデルを作り出していくこと」をコンセプトにしていて、いま一番動いているスポーツはぜひともやりたいテーマでした。とくにサッカーを中心に、スポーツにはビジネスパーソンが学べる点が多くありますし、スポーツビジネス自体もテクノロジーによって大きく変化していますから。その意味で「スポーツ×ビジネス」は今後もコアコンテンツのひとつとして、国内ナンバー1と呼ばれるメディアにしていきたいと思っています。

J論:佐々木さんと「サッカー」の接点について聞かせていただけますか。

佐々木:そもそもサッカーは大好きですね。自分でもずっとプレーしていましたし、昔はサッカー記者になりたいと思っていたくらいです。いまこうやってメディアでサッカーをやれていて幸せ者ですね(笑)。

J論:ご自身でもプレーされていたんですか。

佐々木:はい。福岡の北九州出身なんですが、思永中学というところで二島中学の本山(雅志)とよく対戦していました。本山選手は二島中のエースFW、私はストッパーで彼をマークする役目でしたが、よくやられてましたね。我々の中学もけっこう強かったので、市大会の決勝ぐらいまではよく行ったんですが、いつもそこで本山選手のいる二島中とあたり、私が点を取られて負けるパターンばかりでした(笑)。当時の印象ではあそこまでの選手になるとは思わなかったですが、いまから思えば相手が悪かったですね。

▼サッカー界のトップライターが動いたワケ
J論:そんな佐々木さん率いる『NP』のスポーツ部門を牽引するのが、サッカー界のトップライターとして活躍されていた木崎伸也さんです。この衝撃的な”ヘッドハンティング”の経緯について聞かせてください。

佐々木:木崎さんとはもともと、私が『東洋経済』にいた頃からの古い付き合いです。最初に気になったのは2006年ドイツW杯のときで、『Number』の臨時増刊号で中田英寿選手のコーナーを担当していた木崎さんが、大会の最後に「中田よ、本当にこれで良かったのか」という主旨のかなり挑発的なコラムを書いていたのが印象的でした。

それからすぐにコンタクトをとって、会って、意気投合して(笑)。『週刊東洋経済』で「スポーツ&リーダーシップ」という月一の連載を始めたのをきっかけに、ビジネス出版社としては異例となるサッカー書籍(『サッカーの見方は一日で変わる』)も作りましたね。

その後、『東洋経済オンライン』に移ってからも連載を通じて関係を積み重ねていく一方で、木崎さんにも「これからのサッカージャーナリズムはどうあるべきか」という問題意識が生まれ、私の『NP』への移籍が「お互いに面白いことをやれそうなタイミング」という考えで合意した、そんな感じですかね。

木崎:そうですね。ブラジルW杯までの2010年から2014年を振り返ると、僕としては本田圭佑を追う4年間だったわけです。でもその過程で、「これ以上の選手に出会うことはもうないかな…」と、薄々感じていました。もし次の選手を見つけたとしても、たぶん本田圭佑と比べてしまう。それはその選手にとっても不幸なことだし、自分にとってもマンネリにしかならない。だからもう、選手を追うのはブラジルW杯で最後にしようとずっと思っていました。ちょうどそんな時期だったので、『NP』で新しいスポーツジャーナリズムに挑戦しようという佐々木さんの誘いに魅力を感じたんだと思います。

▼メディア業界の才能を活かす新たなスタイル
J論:これまでずっとフリーランスでやってこられた木崎さんが、入社して社員になることに抵抗や葛藤はなかったのですか?

木崎:いや、もちろんありましたよ。ただそこは最初から、かなり緩やかな契約だったので。以前トーマス・クロートとリティ(ピエール・リトバルスキー)に、「私たちの間の代理人契約には、握手だけで契約書はない」という話を聞いたことがあるんですが、まさにそんな感じで(笑)。ある程度の自由さと、編集部に所属する部分と、よく言えばハイブリッドな感じでスタートさせてもらいましたね。もちろん、それでもすごく葛藤はありましたが。

J論:木崎さんは多くのメディアで重要なポジションを担っていましたから、その点は佐々木さんもかなり配慮されたのでしょうか。

佐々木:木崎さんだけじゃなく、他のスタッフともそういう形態でやっています。私はよく「メディアをJリーグみたいにしたい」と言ってますが、そもそもメディア業界はプロフェッショナルな世界で、どちらかと言うと個人にノウハウがたまるじゃないですか。とくに書く仕事はほとんど個人で決まります。それなら海外みたいにもっと個人の名前が立って、自立的に働けるようにしたいなと思っていたんですよね。

一方で、フリーランスという形態だけではトップの人以外はなかなか食えなかったりして、あまりにも安定性がないじゃないですか。だからこそ、組織の力を使いながら個人の専門能力も発揮できる、”半分サラリーマン”みたいな形態を作れないかなとずっと思っていました。ただし、それを最初にやっていただく人は本当にスター級の人じゃないとダメですが(笑)。

ですから、木崎さんを組織に縛るつもりはいまもまったくありません。彼が外で活躍すれば『NP』へのいい循環も生まれますし、むしろみんなが外で活躍できるくらいになって欲しいと思います。すべてのスタッフにはずっといて欲しいと半分思いつつも、いつ自立してどこかに行ってもそこで活躍してくれるならいいよね、という思いも半分ありますね。経営者としては言っちゃいけないのかもしれないですが(笑)、上手く卒業してくれるならそれはそれでまったく嬉しいですね。

J論:たとえばこの先そういう選択も許されるとして、木崎さんはどんなビジョンをお持ちですか?

木崎:まずは『NP』の成功に貢献したいというのが、ここに入ったモチベーションでもありますし、自分の問題意識と重なるところです。これは風間(八宏)さんの言葉ですが、「個人の利益と組織の利益を一致させたときが一番強い」と言います。個人的にそこはすごく一致しているので、とにかく『NP』を新しいメディアとして成功させることが一番の目標ですね。それが短期なのか中期なのかは、佐々木さんの腕次第ですけど(笑)。

佐々木:いやいや(笑)、みんなのチーム力次第ですよ。まだ立ち上げて1年のメディアですからね。

第二回 企業名解禁の裏道はありなのか? Jリーグに「お金」を持ってくる方法論は?