果たして『アニ×サカ!!』は失敗だったのか?【アニ×サカ特集】
▼アニメという流れ
人気低迷が叫ばれるJリーグへのアニメ業界の参入が目立ってきている。なかでも異質なのは『アニ×サカ!!』だ。一定の集客力を持つJ1クラブがメジャーな映画やTVアニメと対等の立場で遂行するコラボレーションとは異なり、アニメ業界が苦境に立つJ2クラブを支援するという特殊な性格がある。端的には、アニメファンにスタジアムへと足を運んでもらう、アニメのパイをサッカーに分けてもらうという構造になっている。
たとえば水戸ホーリーホックの一試合あたり平均観客動員は5,000人を若干下回るくらいだが、水戸のスポンサーとなりコラボマッチをおこなっている人気アニメ『ガールズ&パンツァー』のブルーレイ・ディスクの売上は各巻30,000枚を超える。それぞれの数字を単純に比較することはできないが、あえて直接比べるならその率は1対6だ。30,000の分母からわずかでも水戸の試合に来てくれれば。そんな期待をサッカー側が抱くのも無理はない。
▼「ガルパン×水戸」という成功が起点に
ふだんアニメを観ていないサッカーファンが感覚的に理解することは難しいかもしれないが、その期(1~3月、4~6月、7~9月、10~12月のTV放映編成)のいわゆる”覇権”を争う人気アニメの持つパワーは、経営難のJ2クラブを凌駕しているのだということを知っておく必要がある。
まず『ガルパン』がヒットして舞台である茨城県大洗町が聖地化、「巡礼」するアニメファンが後を絶たない状況が生まれた。大洗にとってはアニメ作品に登場することが町興しになったのだ。大洗は水戸ホーリーホックがホームタウンに指定している水戸市周辺自治体のひとつであり、ご当地アニメの『ガルパン』とのコラボレーションは自然に映る。ただ、本来インドアな娯楽であるアニメと、晴天の下でおこなうスポーツであるサッカーとでは、まるでジャンルが異なり、違和感がないと言えば嘘になる。ギラヴァンツ北九州のゴール裏で荒くれ男ふうのコアなサポーターと、萌え系デザインのアニメキャラをあしらったゲーフラが混在している状況が象徴的だが、見慣れないうちは水と油に感じてしまっても無理はない。それがはたしてドレッシングになるのかという危惧をする人がいてもおかしくはない。
コラボがうまくいくかいかないかは、アニメ作品の性質にもよる。『ガルパン』の場合は、それが「萌えアニメの皮を被った熱血スポ根」であり、廃校寸前の大洗女子学園を弱小チームの連勝が救うというストーリーであったことで、水戸とのマッチングがよかったのは確かだ。弱者に寄り添った作品だからこそ、東日本大震災に苦しんでいた大洗を助け、存続に苦しむ水戸を支援するアティテュードがふさわしい。
こうして2013年11月に水戸が『ガルパン』とのコラボマッチを初開催、翌年からは『ガルパン』が正式にスポンサーとなった。
▼「岐阜×のうりん」「東京V×とある→甘ブリ」
2014年にはFC岐阜が『のうりん』、東京ヴェルディが『とある科学の超電磁砲』とのコラボマッチを開催。アニメコラボの実績がある三クラブによる合同企画として『アニ×サカ!!』を実施しているのが、ことし2015年の状況である。東京ヴェルディはコラボ対象作品を『とある科学の超電磁砲』から『甘城ブリリアントパーク』へと変更したが、それぞれの作品の舞台は立川市と稲城市をモデルとした架空の都市であり、ホームタウンの風景が描かれている作品ということでの一貫性がある。さらに言えば、『甘城ブリリアントパーク』のストーリーは経営難の遊園地を存続させるというもので、ヴェルディの置かれた状況とシンクロしている。
一方、『のうりん』は岐阜県美濃加茂市をモデルとした架空都市の農業高校を舞台に、現実の農業と農業教育に深く切り込んだ作品。他県民からするとイメージのはっきりしない美濃加茂市をかなり明確に思い描くことができるほどの情報量が盛り込まれ、地域密着という点でFC岐阜と志す方向は同じだ。とってつけた感はない。もちろん、そうした絡みがなければいけないという決まりはない。もっと気楽にコラボをしてもよいのかもしれないが、それぞれのコラボが関係各所の承認を得るにはそれなりの説得力がなければならないだろうし、前例のあまりない本格的なアニメコラボを始めるにあたっては、しっかりとした関係性が見て取れる手堅い組み合わせのほうがいいだろう。その意味では、水戸とヴェルディと岐阜は、浮かれることなく着実に一歩ずつ進んでいると言える。
▼動員増という当ては外れたのか?
具体的な施策としては、各Jクラブとアニメ作品のコラボグッズ販売、出演声優の来場、地域特産品の出展などがある。対象試合が3月と4月にあり、準備期間が短かったヴェルディでさえも、これらの最低要件はクリアしており、あんぽむ(橘杏)さんのコスプレによってスタジアムのコンコースがにわかコミケ会場化するなど、活況を呈していた。
しかしいかに練り込まれた組み合わせでコラボをおこない、準備を進めてきたとしても、それらがすぐに観客動員に反映されるわけではない。ヴェルディの今シーズンを振り返ると、最多の観客動員は開幕戦の対セレッソ大阪戦で記録した12,217人。対して『アニ×サカ!!』対象の第3節対水戸ホーリーホック戦、第7節対FC岐阜戦、『アニ×サカ!!』枠外のコラボ第三弾としておこなわれた第14節対徳島ヴォルティス戦の観客動員は、それぞれ3,514人、3,178人、3,648人である。ジェフユナイテッド千葉と引き分けた第12節には7,996人が詰めかけており、アニメによる直接的な観客動員増だけを期待するなら「当てが外れた」ということになりかねない。それでも、水戸もヴェルディも岐阜も、この異ジャンル交流コラボを推進している。
なぜ歩みを止めないのか。Jクラブとアニメメーカーが捉えるゴールとは何か。あるいはこうした試みによってJリーグにどのような刺激を与え変化をもたらしたいのか。その背景を、他業界からのJリーグへの提案を含め、連載第二回以降にお伝えしていきたい。
→第二回 『のうりん』関係者激白。コラボの実情と思わぬ波及効果とは?
▼アニメという流れ
人気低迷が叫ばれるJリーグへのアニメ業界の参入が目立ってきている。なかでも異質なのは『アニ×サカ!!』だ。一定の集客力を持つJ1クラブがメジャーな映画やTVアニメと対等の立場で遂行するコラボレーションとは異なり、アニメ業界が苦境に立つJ2クラブを支援するという特殊な性格がある。端的には、アニメファンにスタジアムへと足を運んでもらう、アニメのパイをサッカーに分けてもらうという構造になっている。
たとえば水戸ホーリーホックの一試合あたり平均観客動員は5,000人を若干下回るくらいだが、水戸のスポンサーとなりコラボマッチをおこなっている人気アニメ『ガールズ&パンツァー』のブルーレイ・ディスクの売上は各巻30,000枚を超える。それぞれの数字を単純に比較することはできないが、あえて直接比べるならその率は1対6だ。30,000の分母からわずかでも水戸の試合に来てくれれば。そんな期待をサッカー側が抱くのも無理はない。
▼「ガルパン×水戸」という成功が起点に
ふだんアニメを観ていないサッカーファンが感覚的に理解することは難しいかもしれないが、その期(1~3月、4~6月、7~9月、10~12月のTV放映編成)のいわゆる”覇権”を争う人気アニメの持つパワーは、経営難のJ2クラブを凌駕しているのだということを知っておく必要がある。
まず『ガルパン』がヒットして舞台である茨城県大洗町が聖地化、「巡礼」するアニメファンが後を絶たない状況が生まれた。大洗にとってはアニメ作品に登場することが町興しになったのだ。大洗は水戸ホーリーホックがホームタウンに指定している水戸市周辺自治体のひとつであり、ご当地アニメの『ガルパン』とのコラボレーションは自然に映る。ただ、本来インドアな娯楽であるアニメと、晴天の下でおこなうスポーツであるサッカーとでは、まるでジャンルが異なり、違和感がないと言えば嘘になる。ギラヴァンツ北九州のゴール裏で荒くれ男ふうのコアなサポーターと、萌え系デザインのアニメキャラをあしらったゲーフラが混在している状況が象徴的だが、見慣れないうちは水と油に感じてしまっても無理はない。それがはたしてドレッシングになるのかという危惧をする人がいてもおかしくはない。
コラボがうまくいくかいかないかは、アニメ作品の性質にもよる。『ガルパン』の場合は、それが「萌えアニメの皮を被った熱血スポ根」であり、廃校寸前の大洗女子学園を弱小チームの連勝が救うというストーリーであったことで、水戸とのマッチングがよかったのは確かだ。弱者に寄り添った作品だからこそ、東日本大震災に苦しんでいた大洗を助け、存続に苦しむ水戸を支援するアティテュードがふさわしい。
こうして2013年11月に水戸が『ガルパン』とのコラボマッチを初開催、翌年からは『ガルパン』が正式にスポンサーとなった。
▼「岐阜×のうりん」「東京V×とある→甘ブリ」
2014年にはFC岐阜が『のうりん』、東京ヴェルディが『とある科学の超電磁砲』とのコラボマッチを開催。アニメコラボの実績がある三クラブによる合同企画として『アニ×サカ!!』を実施しているのが、ことし2015年の状況である。東京ヴェルディはコラボ対象作品を『とある科学の超電磁砲』から『甘城ブリリアントパーク』へと変更したが、それぞれの作品の舞台は立川市と稲城市をモデルとした架空の都市であり、ホームタウンの風景が描かれている作品ということでの一貫性がある。さらに言えば、『甘城ブリリアントパーク』のストーリーは経営難の遊園地を存続させるというもので、ヴェルディの置かれた状況とシンクロしている。
一方、『のうりん』は岐阜県美濃加茂市をモデルとした架空都市の農業高校を舞台に、現実の農業と農業教育に深く切り込んだ作品。他県民からするとイメージのはっきりしない美濃加茂市をかなり明確に思い描くことができるほどの情報量が盛り込まれ、地域密着という点でFC岐阜と志す方向は同じだ。とってつけた感はない。もちろん、そうした絡みがなければいけないという決まりはない。もっと気楽にコラボをしてもよいのかもしれないが、それぞれのコラボが関係各所の承認を得るにはそれなりの説得力がなければならないだろうし、前例のあまりない本格的なアニメコラボを始めるにあたっては、しっかりとした関係性が見て取れる手堅い組み合わせのほうがいいだろう。その意味では、水戸とヴェルディと岐阜は、浮かれることなく着実に一歩ずつ進んでいると言える。
▼動員増という当ては外れたのか?
具体的な施策としては、各Jクラブとアニメ作品のコラボグッズ販売、出演声優の来場、地域特産品の出展などがある。対象試合が3月と4月にあり、準備期間が短かったヴェルディでさえも、これらの最低要件はクリアしており、あんぽむ(橘杏)さんのコスプレによってスタジアムのコンコースがにわかコミケ会場化するなど、活況を呈していた。
しかしいかに練り込まれた組み合わせでコラボをおこない、準備を進めてきたとしても、それらがすぐに観客動員に反映されるわけではない。ヴェルディの今シーズンを振り返ると、最多の観客動員は開幕戦の対セレッソ大阪戦で記録した12,217人。対して『アニ×サカ!!』対象の第3節対水戸ホーリーホック戦、第7節対FC岐阜戦、『アニ×サカ!!』枠外のコラボ第三弾としておこなわれた第14節対徳島ヴォルティス戦の観客動員は、それぞれ3,514人、3,178人、3,648人である。ジェフユナイテッド千葉と引き分けた第12節には7,996人が詰めかけており、アニメによる直接的な観客動員増だけを期待するなら「当てが外れた」ということになりかねない。それでも、水戸もヴェルディも岐阜も、この異ジャンル交流コラボを推進している。
なぜ歩みを止めないのか。Jクラブとアニメメーカーが捉えるゴールとは何か。あるいはこうした試みによってJリーグにどのような刺激を与え変化をもたらしたいのか。その背景を、他業界からのJリーグへの提案を含め、連載第二回以降にお伝えしていきたい。
→第二回 『のうりん』関係者激白。コラボの実情と思わぬ波及効果とは?
後藤 勝(ごとう・まさる)
サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWebマガジン『トーキョーワッショイ!プレミアム』を随時更新。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊)がある。