J論 by タグマ!

川島か、西川か、それが問題だ

アジアカップで日本の番人たる役目を託すべき選手は、果たしてどちらなのか? ミスター観戦力・清水英斗がこの難問に答える。

4年後のW杯へ船を漕ぎ出したアギーレ・ジャパン。ジャマイカ、ブラジルと対戦する10月シリーズでは、新たなJリーガーの新戦力が際立ち始めている。今回の『J論』では、そんな日本代表のJリーガーたちに再フォーカスしていく。第3回目は、日本代表の正GK問題を考えたい。不動の守護神だった川島永嗣に挑むのは、浦和の西川周作。アジアカップで日本の番人たる役目を託すべき選手は、果たしてどちらなのか? ミスター観戦力・清水英斗がこの難問に答える。

▼回答は、ゼロベースに戻して考える
 ザッケローニ時代からずっと西川周作を日本代表のGKに推してきた筆者のことを知っている人であれば、今回のお題「川島か、西川か?」に対する回答を予想することは非常にたやすいと思うかもしれない。

 実際、西川を推す声は日増しに高まっている。ベネズエラ戦で痛恨のキャッチミスを犯した川島永嗣との明暗を分けるように、ジャマイカ戦では特に後半から西川が最後尾の起点となってビルドアップを行い、そこから流れを引き寄せた。この働きを考えれば、西川推しは当然の成り行きに思える。

 しかし、結局のところ、今回のブラジル戦でスタメンに名を連ねたのは川島だ。言うまでもなく、サッカーの監督はファンやメディアよりも多くの知識、経験を積んでいる。ザッケローニ、アギーレと、異なる指揮官が二人共に川島を正GKに選んでいる判断は、リスペクトしなければならないだろう。

 そこで僕も一旦、ゼロベースに戻し、落ち着いて考え直してみることにした。なぜ、川島なのか? 言い換えるなら、なぜ、西川ではないのか?

▼動の川島、静の西川
 この二人はGKとしてのタイプが大きく異なる。

 川島永嗣は”動”のGK。山勘で跳ぶ傾向がある。かなり際どいシュートや突破に対してビッグセーブを見せる反面、体の近くに来たボールに「あれっ?」というような反応をすることがある。

 たとえば、今回のブラジル戦で喫した3失点目は、体に近いところに飛んできたコウチーニョのシュートに対し、ダイビングするタイミングが早すぎて、倒れ込みながらボールをコース上で待って前方に弾く形になってしまい、ネイマールに押し込まれた。ミスとまでは言いづらいが、少なくともワールドクラスのプレーではない。そのまま懐に抑えるか、あるいはコーナーキックに逃げるのが優れたGKのプレーだった。

 また、4失点目はカカのファーサイドへの山なりのクロスをネイマールに頭で押し込まれたが、このヘディングもコースはそれほど厳しくはない。しかし、川島はすでに姿勢がニアサイドへ流れて決め打ち体勢になっており、逆を突かれる形で失点した。ファインセーブとがっかりセーブが混在するのが、”動”のタイプのGKの特徴でもある。

 一方、西川は”静”のタイプ。ぎりぎりまで相手の動きを見極めて判断する。キャッチングの技術も高いので、がっかりするようなプレーは少ないが、山勘で跳ばないために「そんなシュートにも届くの!?」と驚くようなビッグセーブも少ない。

 西川はポジショニング、あるいはコーチングで味方を動かし、簡単に止めているように見せることで安心感をチームにもたらす。それも特徴的だ。

▼川島が西川に優る二つのポイント
 そうしたタイプの違いはさておき、能力として西川のほうが明らかに優れているのは、前述のとおりビルドアップ能力だ。一方、川島のほうが明らかに優れている要素も、少なくとも二つある。

 一つは高さだ。公式データを尊重しても、川島の身長が185cmで西川が183cmと、少なくとも2cmの差がある。また、ジャマイカ戦のプレーに限らず、浦和でのプレーを含めても西川のクロスボールへの対応はあまり良いとは言えない。以前よりも改善されたかもしれないが、落下地点を見誤ってボールを後ろにそらしたり、そらしかけるような危ない場面は今も散見される。

 また、西川自身も「悔しい記憶」として語る、ブラジルW杯直前のザンビア戦で喫した3失点。そのうち前半9分、ファーサイドへバウンドしてきたクロスからクリストファー・カトンゴにヘディングで頭上をループ気味に抜かれた1失点目には、”高さ”という西川の泣き所のひとつが表れていた。反射神経や跳躍力といった面を含めて、少なくとも空中や高さに関連したプレーは、川島のほうが守備範囲の広さで西川よりも一歩抜きん出ているのではないか。

 そして二つめの要素は、本田圭佑、吉田麻也に並んで3人のキャプテンの一人へと指名されたことに象徴される、「影響力」だ。

 アギーレジャパンになってからの本田はかなり態度が変わり、その個性のあるキャラクターをオラオラと前面に押し出すことはなくなったが、ザッケローニ体制の頃には、納得のいかない試合の後に一人だけ勝手にロッカールームに引き上げるなど、やりたい放題の時期もあった。

 そして2013年秋の東欧遠征でもそのような行動に出た本田に対し、一触即発に近いような迫力で詰め寄ったのが川島だった。海外まで応援に来てくれたサポーターにあいさつへ行くのは当然だ、と。本田にそこまでズバッと物申すのは川島しかいなかっただろうし、それは試合中のチームの引き締めという意味でも、ロッカールームを整えられる闘将の存在価値は大きい。無論、それは正GKであってこその存在感でもある。

▼よって、筆者の結論は……
 このようにあらためて考えていくと、レギュラーを争う二人のGKがいかに個性の異なるタイプであるのかも分かる。川口能活と楢崎正剛の構図にも似ているが、あるいは、そうなるように選出されているのか。

 となると、重要になってくるのはチームコンセプトとの相性だ。

 ザックジャパンはポゼッションチームとして認識されたが、自陣でのパス回しのリスクは受け入れなかった(筆者はもっと受け入れるべきと考えていたが)。高い位置からプレスをかけられた場合はGKを使って”はがす”意志を持たず、ロングボールを蹴った。この方向性でOKとしたことも、西川がザックジャパンで正GKになれなかった理由の一つだろう。

 となると、同じくロングボールを蹴るアギーレ・ジャパンでも、やはり川島なのだろうか。

 しかし、苦しい状況で”蹴らされた”ザック・ジャパン、意図的に”蹴っていく”アギーレ・ジャパンの違いはある。ジャマイカ戦の西川のロングボールは、明らかにターゲットである本田を高い精度で狙ったものであり、その能力は生かされている。0-0で迎えた後半に、リスクを負って相手のプレスをはがすなど、GKのポジションからギアチェンジできる西川の柔軟性も、アギーレのチームにとっては重要な要素だろう。

 また、GKをビルドアップの起点と考えるスペイン人のGKコーチ、リカルド・ロペス・フェリペが付いているという違いもある。さらに言えば、ザックジャパンよりもフィールドプレーヤーの平均身長が高くなっていることも、セットプレーを含めた西川への高さの要求が、多少は緩和されるかもしれない。

 結論。

 ブラジル戦では川島にスタメンを譲ったが、僕はかつてないほど、西川がレギュラーの座に肉迫していると今の状況を見る。ゼロベースで検証し直してみたが、グルッと一周して元の結論に至ったわけで、申し訳ない。

清水 英斗(しみず・ひでと)

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。著書に『日本代表をディープに観戦する25のキーワード』『DF&GK練習メニュー100』(共に池田書店)、『あなたのサッカー観戦力がグンと高まる本』(東邦出版)など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。