J論 by タグマ!

過去2度のプレーオフ経験を無駄にするな。いまこそ千葉は昇格を果たせ

今回は結果的に決勝へシードされる形になった千葉を追い続ける西部謙司。過去2度のプレーオフを踏まえて、為すべきこととは?

J2の3位から6位が「あと一つ」の枠を巡って競り合うJ1昇格プレーオフ。今季は北九州がライセンス問題で出場できず、3チームによる変則トーナメントとなった。果たして最後の一枠を埋めるチームはどこになるのか。11月30日のジュビロ磐田とモンテディオ山形の対決に始まり、12月7日の味の素スタジアムに行われるジェフ千葉との決戦で極まるこの戦いを展望してみたい。3番目に登場するのは、今回は結果的に決勝へシードされる形になった千葉を追い続ける西部謙司。過去2度のプレーオフを踏まえて、為すべきこととは?

▼大分戦、徳島戦の教訓を思い出す
 J2に降格して5年目、プレーオフは3年連続の参戦だが、今季は最大のチャンスと言える。
 2年前のプレーオフは昇格目前だった。横浜FCを撃破したジェフユナイテッド千葉は、大分トリニータに引き分ければ昇格できる立場にいた。前半、千葉はボールを支配して押し込み、大分は引いて守備を固めていた。点をとって勝たなければいけないチームが守っているという構図は奇妙だが、それがこのゲームの落とし穴だったわけだ。

 当時、木山隆之監督が率いたチームは、現在の千葉の基礎になっている。後方からしっかり組み立てることに重点を置いてチーム作りを行った。ただし、最後のところをどう崩して点をとるかについては決め手を欠いていた。簡単に言えば、そこまで手が回らなかったのだ。大分にボールを持たされる展開になったとき、スタンドで見ていた僕も何か試されているような気がしたものだ。「ここから何かできるんですか?」。そう問われているような気分だった。

 選手それぞれで感想は違うだろう。ただ、全体的には「このままではまずい」という雰囲気になっていたと思う。ところが、本当にあのままでまずかったのは大分のほうなのだから、客観的な状況と心理がズレていたわけだ。

 後半の途中で大分が勝負に出た。どこかで点を取らなければ昇格できないのだから当然である。千葉も対応した。元ジェフの林丈統の決勝ゴールは大分のギャンブルが当たっただけで、千葉側の過失ではなかったと思う。このあたりは勝負のアヤだ。しかし、少なくとも心理的な主導権を大分に握られていたのは確かだった。大分が我慢している時間帯に点が取れなかった、あるいは、点が取れなくても全く問題はないと割り切れなかった。一発勝負で最も悔いの残る負け方といっていい。

 昨年のプレーオフは逆の立場だった。徳島ヴォルティスに対して、千葉は引き分けでは決勝へ進めない立場である。結果は1-1。ノーリスクの戦いに徹する徳島のペースに巻き込まれて浪費した時間がもったいなかった。

▼いつになく準備は整っている
 過去2度のプレーオフに共通するのは、自分たちの良さを出して普段通りにプレーして勝とうとした千葉に対して、相手はいずれも最初から試合を”壊す”つもりでプレーしていたこと。そして、それぞれ相手は必勝のシナリオを持って臨んでいたことだ。

 例えば、大分は引き分けではダメな状況で千葉にボールを支配されていたが、それは「想定内」とシナリオに書き込んであった。だから、本当は不利なのに不利と感じないでプレーできた。徳島は「1-0でリードしている」と最初の一行に書き込み、千葉に心理的なプレッシャーがかかるような試合運びに徹していた。

 そして今回のプレーオフは1試合で昇格を決められる。しかも引き分けでOK。その点で最大のチャンスである。ボール支配から得点への道筋も徐々にみえてきている。これは継続性の効果といっていいだろう。あとは一発勝負にどういうシナリオを持って臨むか。

 森本貴幸が回復してくれれば、千葉は負傷者なしでプレーオフに臨めるはず。切れるカードは豊富で、経験豊富な関塚隆監督には引き出しも多い。選手のコンディションを見極める眼も確かだ。いつになく準備は整っている。自慢にはならないが、3回目のプレーオフなのだ。
 その経験を生かしてくれると期待している。

西部謙司(にしべけんじ)

1962年9月27日、東京都生まれ。「戦術リストランテⅢ」(ソル・メディア)、
「サッカーで大事なことは、すべてゲームの中にある2」(出版芸術社)が発売中。ジェフユナイテッド千葉のマッチレポートや選手インタビューを中心としたWEBマガジン「犬の生活」を展開中。http://www.targma.jp/nishibemag/