「日本オリジナル」という甘い罠 魅力的なスタイルが監督、選手の目を曇らせた

3戦を終えて、1分2敗。勝利の美酒に一度も酔うことのないまま、日本代表はブラジルの地を去ることとなった。この結末を受けて、何を考えるべきか。週替わりに複数の論者が一つのテーマを語り合う『J論』では、「敗退。コロンビア戦を受けて、日本サッカーが考えるべきこと」と題して、この問いについて議論したい。三番手として登場するのは、海外サッカー専門誌『フットボリスタ』の編集部員で、古今東西の戦術に通じる浅野賀一。海外のサッカー事情に明るい浅野の目に、日本代表の挑戦はどう見えていたのだろうか。


▼「出し切れなかった」理由
 ポテンシャルはあったが、それを出し切れなかった歯がゆいW杯だった。この失敗を今後の糧にするためには、「出し切れなかった」理由をあぶり出す必要がある。

 90分間アグレッシブなプレスを続けられる日本人の持久力にフォーカスし、ハイテンポなリズム、目まぐるしい攻守の切り替えを1試合通して継続することで、運動量勝負という得意の土俵で点の取り合いに持ち込む――。ザッケローニ監督の戦術コンセプトは、確かに可能性を感じさせる野心的な試みだった。コンフェデ杯のイタリア戦や昨年11月のオランダ、ベルギー戦で証明しているように、「はまった」時は欧州トップクラスすら圧倒する破壊力を秘めてもいた。

 その反面、「はまらなかった」時は低パフォーマンスで、しばしばサッカーファンの怒りを買ってきたのも確かだ。コンフェデ杯は結局3戦全敗、宮城スタジアムではウルグアイのカウンターに沈み、昨年10月の東欧遠征ではセルビア、ベラルーシに完封負けを喫している。

 ザッケローニはその原因を専らコンディションに求めていた。確かにこのスタイルは全員がフレッシュな状態でなければ実現不可能で、今まで失敗してきた試合では、おおむね選手のコンディションに問題を抱えていた。「日本はコンディションのいい時は非常に質の高いサッカーを見せる」と指揮官は何度も強調している。逆に言えば、本番でコンディションさえ万全なら「いける」と考えていたのだろう......。

 それが失敗の要因となった。

 コンディションで思考停止するのではなく、「はまらなかった」試合についてもっと突き詰めて考えておくべきだった。

▼「はまらなかった」3試合
 コートジボワール戦で突き付けられたのは「選択」の問題だった。

 4年前の日本代表はベタ引きのカウンターサッカーで、「先に点を取られれば終わり」と割り切ったチームだった。結果は4試合2失点。オランダ戦以外では先制点を与えなかった集中力は大いに評価すべきだが、戦い方に「選択」の余地がなかった分、チーム内の意思統一は容易だったとも言える。

 一方、今回はゲームプランを「選択」しなければならないチームだった。同点や負けている状況では攻めるしかない。では、先制したらどうするのか? 2点目を狙いに行くのか? この暑いブラジルの地で本当に90分間にわたって走り続けられるのか? 日本中の期待を背負った大事なW杯初戦だからこそ安全第一で1点を守り切るべきでは? 皮肉なことに日本は初戦の前半早い時間帯に先制したことによって、そうしたチーム内での意思統一がバラバラになってしまった。攻撃サッカーを掲げるなら、事前に点差や状況に応じたシミュレーションを徹底的に重ね、チーム内の意思統一を完璧にしておかなければならなかった。

 ギリシャとの第2戦で露呈したのは「高さ」不足だった。もう一歩踏み込んで言えば、今大会の日本が何を捨てて、何を取ったか、という自身の「長所と短所の自覚」が欠けていた。

 ザッケローニは最終選考であえて豊田陽平、川又堅碁を外し、「高さ」という武器を捨てている。最も懸念されるのはギリシャ戦だった。長身ぞろいの彼らにベタ引きでペナルティーエリア内を固められれば、高さのないチームにとっては致命的。とはいえ、今回は対戦順に恵まれており、ギリシャが初戦でグループ最強のコロンビアに敗れてくれれば、2戦目の日本戦では攻めるしかなくなる。そして、その目論見は当たった。

 オープンな戦いになれば、スピードと技術で勝る日本が有利で、実際前半はワンサイドゲームだった。しかし、38分に退場者が出たことで状況は一変する。ギリシャが勝ちを捨てて、自陣を固めて来たのだ。勝ち点3が欲しい日本にとっては最悪のシナリオで、この時点で対戦順の幸運は消し飛んだ。ここから点が取れるかどうかはかなり分の悪いギャンブルで、チャンスがあるとしたら退場直後の前半残り10分弱だった。ここで相手が動揺しているスキを突くしかなかった。

 しかし、日本はその危機感を共有することなく、むしろ安心してペースを緩めてしまった。後半、意思統一して勝ち点1狙いにシフトしたギリシャを崩せず、スコアレスドローに終わったのは、両チームの特性を考えれば順当な結末と言っていいだろう(同じ理由で吉田麻也を前線に上げたパワープレーはまったく間違っていない。あの状況では「高さ」を使う以外、手はなかった)。

 コロンビアとの最終戦では「戦術面での詰めの甘さ」が浮き彫りになった。

ジャクソン・マルティネスの2ゴールは、ともに本田圭佑のボールロストがきっかけだった。特に55分の1ゴール目はシンプルに右でフリーになっていた内田篤人を使っておくべき場面。日本はリスクを冒して前線に人数をかけるサッカーをしている。82分の失点シーンが典型だが、両SBの長友佑都と内田が同時に上がり、後ろが2バック化することも珍しくない。その際、最も気を付けなければならないのは中央でのボールロストだ。その危機感、プレー選択の優先順位が共有されていなかった。

 本田だけを責めるわけではない。何が正しいプレーなのかは、監督が立てたプレーコンセプトによって変わってくる。リスクを負った勇気あるサッカーをするならば、そのリスクを管理するために戦術面のディテールを徹底的に詰めておかなければならない。ザッケローニ監督は選手を「信じる」のではなく、もっと「管理」すべきだった。

▼次の4年間でやるべきこと
 筆者は、今回の3試合を終えて代表チームで一つのスタイルをゴリ押しする難しさをあらためて感じている。日本は4年前に証明したように、ベタ引きでギリシャのように戦うこともできれば、ハイテンポのプレッシングで相手を窒息させるドルトムントのようなサッカーもできる。バルセロナ風のパスサッカーにトライしても、かなりのレベルだ。ザッケローニ就任半年のアジアカップでほぼチームが完成してしまったように、戦術の習得も非常に早い。要は、世界的にも例を見ないほど器用な集団ではあるのだ。だから勝てるわけでないのが悩ましいところだが、どんな局面にも対応できる全方位型のチームになれる素養はある。

 オシム、岡田、ザッケローニと3人の監督が追い求めてきたスピードと技術を組み合わせた「日本オリジナル」のスタイルの原型はもう見えている。それは世界を知る監督、選手たちが思わず「夢」を見てしまうくらいに強力で、魅力的なものではあったのだ。だが、そこに落とし穴があった。「自分たちのサッカー」を世界にアピールしたいという野心が、経験ある選手たちの判断力を鈍らせていた気がしてならない。

 ベースになるのは今回のスタイルでいい。だが、弱点をフォローする工夫は必要だ。リードしたコートジボワール戦はカウンター戦術を用意していれば楽に戦えていたし、ギリシャ戦でもサイドからのクロスやセットプレーを準備していれば勝率を引き上げられたはずだ。そうすれば、コロンビア戦ではもっと余裕を持って試合に臨めたに違いない。

「はまった」時に強いのはもうわかっている。だが、バカの一つ覚えのように「自分たちのサッカー」をゴリ押しするのは賢くなかった。相手に対策も立てられるし、駆け引きもできない。何より失敗した時の保険がない。

プランA=ザッケローニが提唱したハイテンポなパスサッカー
プランB=押し込まれた時のカウンターサッカー
プランC=守備固めの選手交代をともなう逃げ切り策

 これらを器用にこなせるのも日本人の良さなのだから、ここまでをパッケージにして「自分たちのサッカー」にしてしまえばいい。現代サッカーにおいてプランAのゴリ押しのみで勝ち抜けるのはバルセロナとスペイン代表くらいで、その彼らですら5年で研究され王座から陥落している。次の4年間はこれまで世界相手に通用したことを見つめ直し、「自分たちのサッカー」の枠を広げるべき時だ。そうすれば自然と日本オリジナルのスタイル、"プランA"も輝くようになるはずだ。

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