気配りの35歳。平川忠亮が浦和レッズの翼を担い続ける理由とは?

11月が目前に迫り、優勝争いも佳境を迎えつつある。浦和が一歩リードしているとはいえ、楽観できるような差でもない。ここでモノを言うのは勢いかもしれない。だが、「経験」という武器を持つ男たちを忘れてはいないだろうか。今回の『J論』では優勝争いの隠れたキーとなる各クラブの経験豊富な重鎮たちにフォーカスする。2番目に登場するのは浦和の79年組。ミハイロ・ペトロヴィッチ体制の成立後、着実にメンバーの入れ替えが進んだチームにあって、生え抜きの35歳は今なお存在感を維持している。



▼歴代指揮官に続き現監督の信頼もつかむ
 決して派手は選手ではない。だが、常に安定したパフォーマンスを見せ、気がつけばピッチに立っているのが当たり前になっている。平川忠亮は"ミシャレッズ"で必要不可欠な戦力として、今季あらためて存在感を示している。

 浦和のストロングポイントはチーム全体が連動して繰り出す流麗なコンビネーションプレーにあるが、その見事な連係を成立させるための前提となるのが運動量だ。指揮官は常々「走らなければ勝てない」と選手全員に走力を求めている。中でもウイングバックはチームで最も過酷な運動量が求められるポジションだが、右のワイドを務めるのは元気いっぱいの若手ではない。35歳の平川が定位置を確保している。

 なぜチーム最年長の平川が勢いのある年下の選手たちにポジションを奪われないのか。選手層が薄いわけでは決してない。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督就任初年の2012年の時から絶えずライバルになり得る能力の高い選手はいたが、常に生存競争をくぐり抜けてきた。攻守のバランスに優れ、パフォーマンスの波も小さく計算が立つのが平川の強みであり、多くの歴代監督から評価されたように、ペトロヴィッチ現監督の信頼も勝ち取った。

▼地味な男が隠し持つ"秘訣"
 そして、ミシャレッズのウイングバックに最も求められる肝心の体力勝負の部分でも若手や中堅に劣っていないからこそレギュラーの座を死守できているのだが、そこにはベテランらしいクレバーな所作があった。

「実はうまーく休んでいるんですよ。たとえば逆サイドに注目が集まっている時に呼吸を整えたり、後方でボールを回すときにサイドアタッカーは前線に張り出さなきゃいけないんですけど、早めに高い位置を取ってパスを待っている間に息をついたり、逆にしばらく後ろでつなぐと感じたときにはジョギングでゆっくり上がっていったり。まあ、バレないようにうまくやっています」

 平川はそう説明して笑ったが、言うほど簡単なことではない。いつ休んでいいのか見極める確かな眼力がなければ、チームに大きな穴を空けることになる。だが、今季の平川が手抜きを感じさせるプレーでチームに迷惑をかけたシーンはまるで記憶にない。もしそのようなことがあれば、ペトロヴィッチ監督が平川にあのポジションを任せ続けるわけもない。チームがピンチになりそうなとき、どんなに疲れていても自慢の快足を飛ばして守備に戻ろうとする。それが平川だ。

 その絶妙なバランス感覚こそ、平川がスター揃いの浦和黄金時代からずっと生き抜いてこられた要因であり、味方に頼りにされている部分でもある。そばにいてくれると周りも安心できるのだ。右サイドでコンビを組む森脇良太は、「僕がいろんなことを考えなくてもスムーズにプレーできるのでやりやすいです」と感謝する。

 個人競技よりも団体競技を愛する男は、周囲への気配りを常に忘れない。センターバックが大胆に攻撃参加するのはミシャレッズの売りのひとつであり、森脇も攻め上がるのが大好きだ。ただ、守備の人であるセンターバックが前に出ていくことはリスクの高い選択肢である。実際、昨年は前がかりになったスキを突かれて失点することも多かったため、今季は攻め上がりを控えて戦っている。しかし、それでも森脇が時折思い切って攻撃に打って出ることができているのは、平川が近くに控えているからだ。

「ヒラさんが『モリが前にいくなら、俺が後ろを見てリスクマネジメントしてやる』と言ってくれているんです。ヒラさんがバランスを取ってくれているから、思い切って前に行けています」

 平川の気配りは試合中だけにとどまらない。今季ユースから昇格した関根貴大は、トップチームのハイレベルな練習にまだ慣れず戸惑っていたときに平川から優しくアドバイスされ、それから自信を持ってメニューについていけるようになったという。関根はシーズン前からペトロヴィッチ監督の目にとまった若手有望株であり、平川にとっては己のポジションを脅かすライバルでもある。しかしそれでも、困っている若手にさり気なく救いの手を差し伸べてしまうのが、なんともこの人らしい。

▼職人気質で兄貴肌
 その精悍な顔立ちは頑固な求道者を思わせ、初対面の人間はつい身構えてしまう。だが、ひとたび言葉を交わせば第一印象とのギャップに驚くことになる。「最初は怖いのかと思っていたけど、すごいいい人でした」。これは新加入選手や若手の口から度々聞かれるセリフである。

 常にチームを第一に考え、チームのためなら泥にまみれることも厭わない。本人も認めるように自ら進んでチームを引っ張るキャプテンタイプではないが、見えないところで味方をサポートしていく。決して大きなことは言わず、プロとして粛々と仕事を遂行して背中で語る。職人気質で兄貴肌。うまくいっているときはあまり目立たないが、困ったときには頼りになる男として存在感を増す。

 平川は言わば、浦和の安全装置である。

神谷正明(かみや・まさあき)


1976年東京都出身。スポーツ専門のIT企業でサッカーの種々業務に従事し、ドイツW杯直前の2006年5月にフリーランスとして独立。現在は浦和レッズ、日本代表を継続的に取材しつつ、スポーツ翻訳にも携わる。

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