中田浩二と本山雅志。若さが売りの鹿島が秘める攻守の最強武器

11月が目前に迫り、優勝争いも佳境を迎えつつある。浦和が一歩リードしているとはいえ、楽観できるような差でもない。ここでモノを言うのは勢いかもしれない。だが、「経験」という武器を持つ男たちを忘れてはいないだろうか。今回の『J論』では優勝争いの隠れたキーとなる各クラブの経験豊富な重鎮たちにフォーカスする。まずは鹿島。若さあふれるチームへ脱皮を果たした今季にあって、静かにその日を待つ男たちがいる。



▼守備の重鎮が見つめる若き鹿島
 ダヴィが左膝全十字靱帯損傷および半月板損傷という重傷を負ったため、第29節・神戸戦の先発には23歳の大卒ルーキー赤崎秀平が入り、先発11人の平均年齢は25.36歳となった。35歳の小笠原満男と曽ヶ端準以外は全員20代。10月24日が誕生日のDF植田直通は試合当日の22日は、まだ19歳という若さだった。

 選手の若返りを一気に図った鹿島が、曲がりなりにも優勝争いに加わっている。26日に行われる浦和レッズとの直接対決がシーズン最大の山場だ。現在、勝ち点『7』の差の首位に直接対決で勝てれば可能性はつながり、敗れれば終わる。ただでさえ因縁多い両チームの戦いが、今回は優勝争いにも重要な一戦となった。位置づけの分かりやすい「決戦」である。

 ただし、鹿島は3試合連続で勝ち切れない試合が続いている。どれも試合内容は悪くないが、なにかが少し足りずに勝利を逃している。特にガンバ大阪、柏レイソルとの試合は、共に2-1とリードを奪いながらの逆転負け。しかも、終了間際に決勝点を許すという、勝負強さを特長としてきたこのクラブらしからぬ流れでの敗戦だった。

 その教訓は、若さと勢いだけで勝利を手にするには圧倒的な差を生まなければ難しい、ということを教えてくれる。そこでクローズアップされるのが経験豊富なベテランの存在だ。鹿島には、小笠原、曽ヶ端の他にもゴールデンエイジと呼ばれた79年組が、まだ二人も在籍している。10月のある日、そのうちの一人、中田浩二は言った。

「ここからは上位のチームと当たる。優勝するにはここからが大事。確かに、俺らはそういう経験をしてきている。ピッチの中だろうと外だろうと、うまくサポートしていきたいね」

 DF陣のなかでは最年長。練習を見ていると、何かあるたびに若手の昌子源や植田直通をつかまえてアドバイスを送っている。それは、CBだけでなく、SBやボランチ、そしてGKなど、共にゴールを守る周囲の選手たちにすべてに及ぶ。

「言われたことしか考えてない。『前に行け』と言われたから前に行った結果、逆にディフェンスラインに穴を作っている。だから、『それも一つだけど、それだけじゃない』と言っている。『できない』というよりは『知らない』ことが多すぎるんだと思う。ただ、自分が若いころにできていたかと言えば、そうでもない。やっぱり試合をやりながら学んできたものだから」

 ワールドユースやオリンピックに加え、W杯にも2回出場した中田は、フランス、スイスなど海外のリーグでも重宝されてきた選手だ。その経験を、若手選手たちに惜しみなく注ぎ込んでている。

 とはいえ、中田はコーチではない。ここまでリーグ戦の出場試合数はわずかに3。時間にすると57分と1試合にも満たず、先発した試合は一つもない。

「やれないとも思ってないけど、いまのチームの状況も考えなければならないし。でも、チームに良い結果が出ているということは力になれているんだと思う」

 トニーニョ・セレーゾの練習は長い。主力組は短い時間で終わることも多いが、控え組は主力がクラブハウスにあがってからさらに2時間、ということもザラだ。それでも中田は大きなケガもなくほぼすべての練習を、若い選手たちと同じだけこなしている。

 それはもう一人の79年組、本山雅志も同様だ。

▼攻撃の天才は、静かに牙を研ぐ
「疲れた~」

 神戸戦前日、タオルを肩にかけ寮の風呂場に向かう本山雅志は、試合前日にもかかわらず、控え組にとっては予想以上に激しかった練習に苦笑いを浮かべていた。

 その技術の高さは未だに衰えを知らない。野沢拓也が鹿島を去ったいま、最も優れたテクニックを見せてくれるのは本山が筆頭だ。練習を見ているだけで、その技術の高さは随所に見ることができる。次代を担う土居聖真や中村充孝でさえも、本山のアイディアの豊富さと華麗さには及ばない。

 08年以降、本山は年々出場機会を減らしてきた。年齢による運動量やプレー強度の低下があったのかもしれないが、それ以上に度重なる病気や怪我に悩まされてきた。水腎症という重い病気を患っただけでなく、腰の持病が思うようなプレーを許してくれない。満足にトレーニングを積めない時期さえあった。だが、今季は中田同様、ケガもないシーズンを久々に送れている。

「いままでは手術をしたり、ケガをだましだましやってきたから。今年は本当にコンディションが良い」

 そう言って屈託のない笑顔を見せた。

 しかし、昨季は試合終盤の切り札としてリーグ戦だけでも24試合、663分に出場した男が、今季ここまでで9試合、148分の出場に留まっている。神戸戦でも遠征メンバーに入り、ゴール裏で出番を待ってアップを続けながら、最後まで監督から声はかからなかった。

 試合翌日、チームのスケジュールはオフに変更されたが、クラブハウスには本山の姿があった。

「出たかったよね。昨日も、この間の柏の試合も大事な試合だった」

 これまで本山は数多くのタイトル獲得に携わってきた。国内3大タイトルだけでもJリーグチャンピオンに6回、ヤマザキナビスコカップを4回、天皇杯を3回。タイトルまでの道のりはどの試合も重要だが、それでもシーズンの行方を左右する試合は必ず存在する。そこで力になれていないことを本山は無念に感じていた。

「結果を出せてないからね」

 確かに今季の得点は0。ジョーカーとしては寂しい数字と言える。

「浩二もそうだけど、ケガで出られないわけじゃない。だから、悔しいね。でも、ずっとそうやって競争してきたクラブだから」

 だからこそ、再び出場機会を得るために、練習に打ち込む。練習で高いパフォーマンスを見せ、監督の評価を変える。試合翌日、オフになった日でもクラブハウスに来たのはコンディションを良い状態に保つため。来たるべき浦和との決戦を前に、本山はいまできる最善を尽くそうとしていた。

 いま、ピッチに立つ主力選手のうち、3連覇を経験したのは小笠原満男、曽ヶ端準以外には、遠藤康のみ。陰日向に若手を支えてきた中田浩二や本山雅志をどう使うのか。若さが売りの今季だからこそ、注目したい。

田中滋(たなか・しげる)


1975年東京生まれ。上智大文学部哲学科卒。2008年よりJリーグ公認ファンサイト『J'sGOAL』およびサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の鹿島アントラーズ担当記者を務める。著書に『鹿島の流儀』(出版芸術社)など。WEBマガジン「GELマガ」も発行している。

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