J論 by タグマ!

日本サッカー界は、ACLを本気で獲る気があるのか?

日本サッカー協会やJリーグは、たとえば渡航費の一部を負担する、ゴールデンウィーク中の試合を1試合延期するといった工夫は続けている。そこをもう一歩も二歩も踏み込んで、「本気度」を増してほしい。

AFCチャンピオンズリーグ。2002年に欧州のUEFAチャンピオンズリーグを模倣する形で創始されたこの大会で、日本勢が苦しんでいる。07年大会を浦和が、08年大会をG大阪がそれぞれ制して以降、Jリーグクラブのファイナル進出は皆無である。「なぜ勝てないのか、どうすれば勝てるのか」。『J論』では、このテーマを掘り下げてみたい。今回は広島の番記者として651試合連続帯同取材を継続中の中野和也氏がACLの本質的な問題について考察する。


▼露呈したクラブ任せの限界点
 本気か、否か。

 JクラブがACLで勝てるかどうかは、そこに尽きる。

 もちろん、出場する各クラブはみんな「本気」である。たとえば広島は、ワイドのポジションに左右で3セット=6人の選手を揃え、ボランチは3人、1トップ2シャドーと最終ラインは4人を入れ替えて先発起用。佐藤寿人・森崎和幸・ミキッチ・山岸智ら30代オーバーの肉体的にフル稼働は難しい選手たちについて1週1試合のペースを崩さずに起用することで負傷のリスクを軽減させつつ、戦える二つのチームを形成してターンオーバーを重ねることでグループステージの突破を果たしている。

 国際試合の緊張感や経験がチームや選手を成長させ、さらなる躍進につながる。ひいては、クラブW杯という夢の舞台もある。そういう数字に表れない効果があるからこそ、たとえ「出場するだけで赤字になる」と分かっていても、各クラブはACLに情熱を注いでいる。

 そして今季、Jクラブは立派に戦った。たとえば広島は、FCソウル(韓国)に1勝1分(実質は2勝だ。アウェイでのPKはあり得ないものだった)と勝ち越し、予算100億を超えると言われる北京国安(中国)に対しても2分。3万7000人の北京サポーターに囲まれた中で0-2から勝ち点1を奪い取ったことは、実力の証明だった。C大阪はやはり予算100億超のクラブ、山東魯能(中国)にアウェイで逆転勝利を収め、川崎Fは蔚山現代(韓国)とは1勝1敗、貴州人和(中国)には2勝した。敗退となった横浜FMにしても、ホームではアジア王者の広州恒大を相手に勝ち点1をもぎ取り、最後までグループステージ突破の希望をつないでいる。

 だが結果として、Jクラブは一つとしてベスト8に進めていない。なぜか。広島を例にとって推論を続ける。

 まず、4月12日から始まる11連戦に代表される日程の過密さはやはり指摘しておきたい。チームにとっては、結果を残すために外せない選手たちはいる。広島で言えば、GK林卓人、DF水本裕貴・塩谷司、MF青山敏弘・高萩洋次郎、そしてFW石原直樹。肉体的なタフさとクオリティを共存させている選手たちだ。

 11連戦の厳しさは、最初から分かってはいた。だがここで「想定外」の出来事が起きている。11連戦直前の貴重な1週間のインターバルで、水本、塩谷、青山、高萩、石原が日本代表候補合宿に招集されたのだ。

 もちろん、合宿に呼ばれたことは名誉なことだ。選手個々にとってはチャンスである。だが、コンディショニングという一点だけで見れば、やはり厳しいものとなった。彼らは4月6日の名古屋戦から休日を取れぬままに移動して合宿に入り、またも移動して広島に戻ってFC東京戦へ。その後、広島→大連→北京と移動し、中3日で北京国安と激闘を展開し、その翌朝には北京を出発。大連→福岡→広島と移動し、2日後には約5時間もの移動を経て、新潟入りしている。9日間で約16時間の移動+3試合の厳しさに加え、全力アピールを求められる代表候補合宿である。 

 それまで広島は開幕以来、富士ゼロックススーパーカップ、ACL開幕戦、J開幕戦の3連戦からスタートし、5連戦・3連戦と続いた。その間、塩谷と水本はACL+ゼロックス+Jリーグの全11試合、青山と石原も1試合を除いてフル出場。当初は負傷で離脱していた高萩もG大阪戦以降の全4試合で先発している。

 そんな彼らが代表候補合宿に呼ばれたことで、休めなくなった。北京からトータル11時間の移動時間を経て新潟に入った代表候補たちの動きは極端に重く、広島は90分で1本のシュートしか撃てない試合を演じてしまっている。どんなタフな人間でも、2週間も働き詰めだったら仕事の質は落ちるのだ。まして彼らはこの後も含め、6週間も働きっぱなしとなった。

 ただ、パフォーマンスの低下は「疲労」だけの問題ではない。むしろ「チーム練習ができない」ことこそが難しさを助長した。

 選手の入れ替えを重ねることで故障のリスクこそ軽減できたが、広島サッカーの魅力であるコンビネーションの維持・向上させるためには、チーム練習による修正や確認が必要である。ただ、それが可能だったのは、第1節・C大阪戦から第2節・川崎F戦と、第4節・G大阪戦から第5節・徳島戦の間だけ(この2試合、広島は共に内容の伴った勝利を得ている)。練習はほぼコンディショニングに費やされることとなり、身体を追い込み、相手への対策を実践する時間的・体力的な余裕もない。高萩は途中出場した清水戦で「自分と周囲の体力的な差が違いすぎて、コンビプレーが難しい」と告白し、連戦最後の仙台戦後で佐藤寿人が「コンディションのバラつきが試合を難しくしている」と語った。過密な連戦は体力だけでなく、クオリティをも奪う源泉となった。

 広島の連戦中におけるJの戦績は2勝3分2敗。C大阪の同時期も1勝3分3敗と苦戦。川崎Fは3勝2分2敗とまずまずだが、3勝はすべて等々力で記録したもの。5試合がホーム、新幹線を伴う移動は1試合のみ(広島は4試合、C大阪は3試合)という幸運も伴ってのものだった。連戦スタートまで3勝1分2敗だったC大阪の失速や、4月は2分3敗と失速していた横浜FMが、ACLのラウンド16を戦った直後だった川崎Fに3-0と快勝したことを考えても、答えは明白である。

 さらなる問題は、ACLのラウンド16が11連戦の後半に存在すること。グループステージの最中は、中国や韓国もJリーグに近い連戦を戦っていたが、ラウンド16からの彼らは国内リーグの日程を調整。Kリーグ3チーム中唯一、他国のチームと戦うFCソウルは初戦こそ中3日だったものの、2戦目は国内リーグを順延することで中6日に調整。広州恒大は中4日で、ウェスタンシドニー(オーストラリア)も中6日で戦うことができている。

 しかし、Jクラブは、中3日の連続。休息も修正も対策もできない上に、最大約10時間の移動(広島)ものしかかる。昨季の柏は、国内リーグの日程を調整して臨んだ広州恒大との決戦前に、過密日程の変更を要請したが通らず、結果は惨敗。その経過の検証も細かくしないまま、「Jリーグのサッカーはアジアで通用しない」などと批判された図式は、今年も繰り返された。昨季の柏が水原で被った「4本のPK」も含めて、スコアではない、その戦いぶりに対する厳密な状況分析がなされていれば、事態は変わったのではないか。

 前述したように、Jクラブは今季、立派に戦ってベスト16に3クラブが進出するという結果を残した。アウェイでの戦いぶりからすれば、ACLで勝利する可能性も見せていたと思う。だが、本気でタイトルを獲りにいくためには、やはり「クラブ任せ」では限界がある。

 日本サッカー協会やJリーグは、たとえば渡航費の一部を負担する、ゴールデンウィーク中の試合を1試合延期するといった工夫は続けている。そこをもう一歩も二歩も踏み込んで、「本気度」を増してほしい。

 たとえば、移動だ。グループステージでのオーストラリア勢のアウェイ戦績が1勝1分7敗で、ホームでは6勝1分2敗(しかも2敗は、蓄積疲労のない初戦とオウンゴールによる不運なもの)で、あの広州恒大もメルボルンのアウェイ戦では0-2と完敗している。それほど移動がパフォーマンスに与える影響は無視できないものなのだ。この現実を踏まえた上で、「どうすればACLで戦えるか」をコンディション面からアプローチしてほしいのだ。

▼大会の枠組み自体から議論を
 Jリーグのサッカーは多くの場合、精密なパスワークを基盤とする。それは、身体の強さやナチュラルスピードでは世界で戦えないという現実の下での選択だ。そして、その緻密なサッカーは、他国からは憧憬すら集めている。オーストラリアの選手たちの多くが「J移籍」を望んでいるという情報もあるし、中国や韓国のジャーナリストが広島のサッカーに高い評価を与えていたことも事実だ。だが素晴らしい技術も戦術も、心身のコンディションが整っていればこそ発揮できるものである。

「勝て!」というならば、「勝つための方法」を模索し、戦略を練る。それが当然の策だ。欧州チャンピオンズリーグのように、10億円を超える資金がACLに出場するだけで獲得できるのならば手の打ちようもあるかもしれないが、それはすぐには望めない。ならば、システム面から考える手もある。ACLを獲ることだけを考えて極端な話を言えば、「ACL出場チームはそのシーズンは降格しない」と決めてしまう策もあるかもしれない。来季以降は2ステージ制、セカンドステージに勝負をかけても優勝を狙えるが、降格は「1シーズン制」だ。なので「降格しない」と決めるだけで、前半戦でのACLへの力の配分は自然と変わってくるだろう。

 また、ACL出場組のラウンド16やベスト8以降の前後に余裕を持たせるために、たとえばナビスコカップ同様に天皇杯でも「ACL組はベスト8から」というシード制を導入する。今季からこの制度が導入できていれば、8月20日の天皇杯3回戦の時期にJ1第13節をスライドし、ラウンド16第2戦を中6日で戦うこともできた。この日程なら広島がシドニーの地で敗退することはなかったと断言できるし、川崎Fも逆転していた可能性は大きかったのではないか。

 そして、プロモーションである。中国では3万人超えは当たり前のACLだが、動員力のあるC大阪ですらACLの入場者数は1万人を超える程度。Jリーグでは軽く3万人を集める彼らがこうなのだから、他は推して知るべし。今回のJクラブの敗退要因は、ホームでの苦戦も原因だ。もし広島のホームがサポーターで埋め尽くされていたら、ボックス外ファウルでのPK判定は存在したか。等々力が満員だったら、残り10分での逆転劇があったか。3万人のヤンマースタジアムでC大阪が広州恒大に5失点しただろうか。

 相手や審判に圧力を与え、疲れた選手にエネルギーを注ぎ込むためにも、スタンドをサポーターで埋めつくしたい。もちろん、クラブのさらなる努力は必要だが、現実的には日本サッカー界全体の「ACLセールス活動」なくして、現状打破は望めまい。ACLが盛り上がれば、Jリーグそのもののプロモーションにもつながっていくはずだ。

 日程やプロモーション、予算やシステムの問題……。いずれも難しい課題だろう。だが、「プロリーグ発足」「W杯出場」「欧州ビッグクラブのレギュラー」などは、かつてはすべて笑い飛ばされていた夢だった。

 日本サッカー界としてACLに対して「本気」になれば、必ず覇権は取り戻せる。今季のACLでの試合を子細に見ていけば、そんな結論すら導き出せるのである。


中野和也(なかの・かずや)

1962年3月9日生まれ。長崎県出身。居酒屋・リクルート勤務を経て、1994年からフリーライター。1995年から他の仕事の傍らで広島の取材を始め、1999年からは広島の取材に専念。翌年にはサンフレッチェ専門誌『紫熊倶楽部』を創刊。1999年以降、広島公式戦651試合連続帯同取材を続けており、昨年末には『サンフレッチェ情熱史』(ソルメディア)を上梓。今回の連戦もすべて帯同して心身共に疲れ果てたが、なぜか体重は増えていた。