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【日本代表】当確は大迫と乾の2人だけ。国内組の台頭で大混戦状態に。日本代表レースを探る(3)FW編

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当確は大迫と乾の2人だけ。国内組の台頭で大混戦状態に。日本代表レースを探る(3)FW編サッカー番長 杉山茂樹が行く

前回2014年ブラジルW杯。寸前になって23人枠に飛び込んだのは大久保嘉人だった。2010年南アW杯は矢野貴章。そして2006年ドイツW杯では巻誠一郎がサプライズ選出されている。

2002年日韓共催W杯で、秋田豊とともに最後にメンバー入りした中山雅史は、ベテラン枠と言うべく特殊枠で選出された希なケースになるが、1998年フランスW杯では、逆にベテランの三浦カズが、現地まで行きながら、まさに土壇場で落選の憂き目に遭った。

毎度、ドタバタがつきまとう選手選考だが、発生する場所は特定されている。FWにはその時、当たっている選手、当たっていない選手がいる。野球のバッターのようだが、波はそれ以上に激しい。パタッと止まったり、そうかと思えば突如、当たり出したりする。先は読みにくい。

FW候補、特にCF候補の最後の切符は、最終メンバーが発表される5月末の時点で最もノッている選手がさらっていく可能性がある。思いがけない選手が、選ばれたとしても不思議はない。FWの代表レースは最後まで波乱含み。予断を許さない展開になるだろう。

評価の拠り所になるのはJリーグの得点王争いだ。昨季は小林悠(川崎)が終盤の頑張りで、杉本健勇(C大阪)、興梠慎三(浦和)等を抑え、得点王に輝いている。そしてその余勢を駆って臨んだE1東アジア選手権でも、昌子源(鹿島)とともに、3試合フルタイム出場。当確印を打たれたような使われ方だった。

23人の枠外から枠内に入ったとすれば、小林は守る側に回ったことになる。プレッシャーを背負い込んだ中、昨季同様の活躍を演じられるのか。

岡崎慎司。アピールすべきは多機能性だが
CFの代表レースで、最も優位な立場にいるのは大迫勇也(ケルン)だ。この1年で、代表スタメンの座を不動のものにした。なによりボールがよく収まる。持ち前の技巧もしっかり発揮できている。もはや欠くことのできない中心選手になりつつある。

大迫にその座を奪われ、代表メンバーから漏れることになった岡崎慎司(レスター)は、所属のレスターではコンスタントに先発を飾り、息を吹き返している。ジェイミー・ヴァーディの1トップ脇。4−2−3−1の1トップ下と言うより、4−4−「1」−1の「1」として、ヴァーディの周りでチャンスに絡んでいる。泥臭さは健在。同じく代表レースで苦しい立場にいる香川真司(ドルトムント)、本田圭佑(パチューカ)より、選ばれるべき選手のような気もするが、微妙な立場に置かれていることは確かだ。

ザッケローニ時代は4−2−3−1の3の両サイドでもプレーした。ユーティリティなテイストを発揮し、新境地を開拓したが、所属クラブでのプレーはここ数年、ほぼ真ん中だ。サイドアタッカーの面影はない。ユーティリティ性が発揮される場所は、真ん中の上下に限られている。

ハリルホジッチにクロード・ピュエル(レスター監督)のような4−4−1−1的なアイディアがあるのなら、岡崎の可能性は広がる。大迫をヴァーディに見立て、岡崎をその脇で使おうとする選択肢があるなら追い風は吹くが、それは望めそうもない。

ウイングもできればCFもできるウイング兼ストライカー。C・ロナウド、メッシの両巨頭を筆頭に、サイドでのプレーも可能なFWは、世界には多数存在する。

ハリルジャパンで、あえて名前を挙げるなら浅野拓磨(シュトゥットガルト)だ。右サイドに加え、時にCFとしても出場する。しかし、それならば、岡崎の方が危険な選手に見える。右サイドでもプレー可能だというそのユーティリティ性を、ハリルホジッチに知らしめることができていれば、CFの2番手、3番手候補には止まらないはずだが。

武藤嘉紀(マインツ)も悪い流れの中にいる。ニュージーランド戦、ハイチ戦(いずれも昨年10月)には招集されたものの、直後に行われた欧州遠征(同11月)では落選。そしてその間に、小林などの国内組が、得点ランキング上位を占めるなど活躍をアピール。武藤、岡崎の現状は、国内組の台頭と深い関係がある。

川又堅碁の台頭で混戦に拍車が掛かる
小林、杉本、興梠、川又堅碁(磐田)、金崎夢生(鹿島)。国内組で可能性があるのはこの5人までだろうが、E1東アジア選手権で株を上げたのは川又だった。追加招集というラッキーな形で久々代表に加わりながら交代出場で3試合に出場。いずれの試合でもゴール前で存在感を発揮し、認識を新たにさせた。

川又の出現で、代表レースはいっそう混沌とした状態にある。とはいえ、繰り返すが問題は今季だ。国内組にとっては、新シーズンのデキがすべて。得点ランキングから目を離すことはできない。

サイドは、左より久保裕也(ヘント)、浅野が争う右に不安を覚える。そもそも、彼らの適性が、4−3−「3」の「3」の右、あるいは、4−2−3−1の3の右とマッチしているようには見えないのだ。3トップのサイドより、2トップの一角。適性がありそうなのはもっと内側だ。他にポジションがないので仕方なくといった、居心地の悪そうなプレーが目立つ。

E1東アジア選手権で台頭した伊東純也(柏)には、そうした問題が一切ない。右サイドがよく似合う右のスペシャリスト。

右利きの右ウイングは、概して右サイドをタテに抜いて出るプレーが得意ではない。対峙する相手の左サイドバックの逆を突き、縦にかわして出るプレーを苦手にする。思わず右足で切り返し、中央の様子をうかがおうとする。そうした中で縦勝負を果敢に挑もうとする伊東。希少さを覚えずにはいられない。リードする欧州組2人(浅野、久保)に迫る勢いだ。逆転はあるのか。従来のハリルジャパンに足りない魅力を持つ彼が、どこまで確実性を高められるか。生き残るポイントはそこにある。

乾VS.原口の争いに、中島翔哉は割り込めるか
左は、スペインの水にすっかり馴染んだ乾貴士(エイバル)で決まりか。ヘルタから出場機会を求めて2部のデュッセルドルフへ移籍した”’原口元気”’との差は、少なくともいま、著しく開いた状態にある。

乾にとってのライバルは、原口と言うより、ポルトガル1部で活躍する中島翔哉(ポルティモネンセ)か。ボール操作術、特にドリブルに長けた俊敏な小兵。左のみならず、右でのプレーも可能なら、その株はさらに上がる。

そして最後にもう1人。阿部浩之(川崎)は、右も左もインサイドハーフも、所属の川崎では時にCFまでこなすユーティリティプレーヤーだ。まさにチームの潤滑油になり得る存在。23人枠という設定の中で浮上する可能性を秘めた選手だ。どのポジションもこなせる選手が1人いると、メンバーのやりくりは楽になる。

ハリルホジッチは本番で何試合戦うつもりでいるのか。グループリーグの3試合しか考えていないのか。決勝トーナメントも視野に入れているのか。代表レースはその素直な思惑によっても左右される。

韓国代表監督として2002年日韓共催W杯に臨んだヒディンクは、その前に行ったインタビューでこう言った。「能力が同じなら、ユーティリティ性の高い選手を選ぶ」。やりくり上手な監督らしい言葉だが、ハリルホジッチの選手交代は、同じポジション同士の画一的な交代が目立つ。ヒディンク等が得意とした、ベンチに下げる選手と異なるポジションの選手を投入する戦術的交代を、上手に決めたケースは少ない。

心配になるのは選手だけではないと言いたくなるが、それは本題から外れるのでさておき、監督が誰であろうと、今後も選手の入れ替えは間違いなく起きる。これまでの例に従えば、従来のメンバーから少なくとも3、4人、多ければ6、7人入れ替わるだろう。W杯本番まで4ヶ月半。代表レースはこれからが佳境だ。ハリルホジッチの選択センスに期待するしかない。

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