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ステージ制覇へ――。ドルトムント・ショックがもたらす風間フロンターレの新改革

開幕前にドイツの強豪・ドルトムントとプレシーズンマッチを戦った川崎Fにフォーカスする。

ファーストステージ終了から約2週間の時を経て、Jリーグ・セカンドステージが7月11日に開幕した。ファーストステージを無敗で駆け抜けた浦和レッズがセカンドステージ制覇の大本命であることは間違いないが、ファーストで5強に食い込んだ上位チームもこのまま黙っているはずがないだろう。ファーストの2位・FC東京、3位・広島、4位・G大阪、5位・川崎Fの4強が、セカンドで浦和を食い止めるために練ってきた反逆のプランに、各クラブの番記者が迫った。第1回は開幕前にドイツの強豪・ドルトムントとプレシーズンマッチを戦った川崎Fにフォーカスする。

▼金看板に偽りなし
 他クラブが川崎Fと対戦する際、川崎Fに対して払う敬意の根底にあるのは攻撃力だろう。その攻撃力を近似的に得点力と表現するならば、所属するストライカーの名前を列挙することで川崎Fが示す攻撃力はある程度理解できるはず。例えば2年連続リーグ得点王の大久保嘉人であり、レナトであり、小林悠だ。このほかにも、杉本健勇、船山貴之といったそうそうたるメンバーがその名を連ねており得点力に磨きをかけている。

 彼らストライカー陣に攻撃のお膳立てをするのが、中盤の選手たちだ。中村憲剛を筆頭に谷口彰悟、大島僚太といった若手選手が控えており、ここに結果を出してきたエウシーニョという名前も加わることでその強烈さを理解してもらえることだろう。

 彼ら分厚い攻撃陣に支えられ、実現してきた川崎Fの攻撃力はファーストステージの数字を見ることでも説明がつく。優勝の浦和の39得点には及ばなかったが、それに次ぐ32得点を挙げており「攻撃的なチーム」という看板に偽りはない。しかし、結果的にファーストステージは5敗もの敗戦を積み重ねており、勝ち点30の5位に終わった。その原因はどこにあるのか。

▼失点減がポイントだが……
 これは端的に言って、守備力にある。ファーストステージの26失点は、昇格組の松本と並ぶワースト4位タイの数字。優勝を狙おうというチームにとっては、この数字はあまりにも厳しい。浦和を追撃するためにはG大阪がファーストステージに実現した失点13へと半減することも求めたいところだが、だからといって守備を固めるような野暮なことはしない。

 そもそもファーストステージの川崎Fは、けが人が続出したことで難しい戦いを強いられていた。中村憲剛に、小林悠。大島僚太、小宮山尊信、レナト、森谷賢太郎、登里享平といった選手たちが戦線を離脱。その結果として毎試合のように先発メンバーが入れ替わり、フォーメーションもさまざまに試された。24名のフィールドプレーヤーをそろえた川崎Fではあったが、シーズン中には同時に複数の選手が別メニュー調整を強いられる事態も発生。紅白戦にコーチが3人も入ってしのぐなど難しい戦いとなっていた。

 ただ、そうした状況がようやく一段落し、紅白戦がにぎやかになってきた。主力級の選手が抜けたことで、控え選手が試合に出場。それによって選手層は厚さを増し、紅白戦ではBチームがAチームを圧倒する場面も見られるまでになった。

▼ドルトムント戦の経験値
 うれしい誤算が続く風間八宏監督だが、その風間監督が貫いてきたチームコンセプトは相手を圧倒するサッカーを実現するということ。つまり、ボールを保持する時間を長くすることで、相手がボールを持つ時間を減らしたいという考えだ。ボールを渡さなければ、ピンチが起きる余地はなくなる。つまり、失点を減らす方法論として川崎Fが採用するのはボール支配率を高めるという方向性であり、ゴール前に人数を割く守備ブロックの精度を高めるということではない。

 風間監督が言葉を駆使し、選手たちに伝えてきたこうした理念は、しかし選手たちに実感として広まるのには限界があった。だからこそ、セカンドステージ開幕直前に行われたドルトムントとのプレシーズンマッチは、川崎Fにとってベストなタイミングだった。風間監督が言葉で繰り返し伝えてきた到達点と、選手たちが感じていた現実のギャップを、ドルトムントの選手たちが示した戦いがいとも簡単に埋めてくれたからだ。

 ドルトムント戦がチームに好影響を残したのは、選手たちの目の色が変わったことから推測はできていたが、実際にセカンドステージ開幕のFC東京戦の立ち上がりの時間帯の戦いで実証できている。出足の鋭さと正確なパスワークでFC東京を圧倒し、ゴール前へと迫った。時間の経過とともにペースダウンを余儀なくされたものの、頭に植え付けられたドルトムントの選手たちの戦いぶりはまだ選手たちに残っているという。

 止める蹴るの技術の精度を高め、その判断のスピードを早くする。個々が持つ技術自体、高い水準の川崎Fの選手の中で意識の変革が起きたとき、Jリーグの中で過去にないサッカーを展開できるのではないか。そんな期待を抱きながら、セカンドステージを迎えている。何かを極端に変えるということは行われていないが、多摩川クラシコを2-0で勝利して幸先の良いスタートを切ったということは言えるだろう。

 なお、選手の移動は現時点で田坂祐介の獲得と、安柄俊の千葉への期限付き移籍にとどまる。ただし、取材する限りまだ移籍の芽は残っている。8月7日まで開いている移籍ウインドーを経てどのようなチーム編成が行われるのかにも、しっかり注目しておきたい。

江藤高志

1972年12月生まれ。大分県中津市出身。99年にコパ・アメリカ観戦を機にライター業に転身し、04年シーズンからJ’sGOAL川崎F担当として取材を開始する。プロサッカー選手について書く以上サッカーを知るべきだと考え2007年にはJFA公認C級ライセンスを取得する。また、川崎F U-12を率いダノンカップ4連覇などの成績を残した髙﨑康嗣元監督の「『自ら考える』子どもの育て方」(東邦出版)の構成を担当した。2015年2月より川崎フロンターレを中心とした有料WEBマガジン「川崎フットボールアディクト」がスタート。