J論 by タグマ!

超攻撃の象徴。川崎Fの”サイド”小林悠が”間”の極意を示すとき

川崎Fのキャンプへ密着していた江藤高志が、日本代表のあの選手について語る。

3月の開幕に向けてJリーグ各クラブのキャンプは最終段階、あるいは打ち上げて次の段階へと入っている。今週の『J論』では、このキャンプへ実際に足を運んだ取材記者に”今季のイチ押し選手”を挙げてもらった。第1回目は川崎Fのキャンプへ密着していた江藤高志が、日本代表のあの選手について語る。

IMG_1465.JPG
(C)川端暁彦

▼サイドの小林
 新シーズンを迎えるにあたり、風間監督は新加入選手を組み込んだ戦いにチャレンジしている。仙台から加入のDF角田誠を守備の要のポジションに配することで守備力の向上を見込みつつ、4バックと3バックの両方の形を試行。最終ラインの枚数は、攻撃により多くの人数を割くためのもの最適解を見つける過程のもので、最終ラインでムダに人が余ることがないようマネージメントしている。

 そうやって攻撃に人数を割く中、今年の川崎Fの攻撃の起点として期待されているのがFW杉本健勇だ。大久保嘉人とともにトップに入る杉本は、その体の強さと足元の技術の正確さとを買われ、昨季小林悠が担っていた役割を果たそうと努力を続けている。

 結果的に、風間サッカー2015年バージョンへの進化の過程の中で、小林悠はサイドでプレーする時間が増えている。

▼「間」という極意
 今季初めてのJリーグ勢との対戦となった札幌戦で右ウイングバックを任された小林は、続く名古屋戦では[4-4-2]の右サイドハーフをこなしていた。そうやってサイドを託される中、習得しようと努力していることがあると述べている。

 すなわち、「間に入る」ということ。名古屋戦については、それができたのだと小林は話してくれた。

「あそこ(サイド)なら、上手く裏を取れる場面もありますし、今日の1点目も間で入って受けて、出して受けてと起点にもなれたので」と話していると、ちょうどそこを通りがかった中村憲剛が「間でよくプレーできたね。よく前を向けたね(笑)」と茶化し気味に一言口を挟み、バスへと歩いて行った。そんな中村に小林は「練習中、練習中」と言葉を返していた。

 ここで彼らが口にする「間」というのは、相手守備陣の「間」ではない。小林によると「憲剛さんがいる場所と嘉人さんが居る場所の間に(サイドから)絞って入ってくる感じです。顔を出して、あまりサイドに開いてばかりでなく、すっと入って、ボールを受けて、当てて、また入るという事を繰り返す動き」のことなのだそうだ。小林によると「去年は嘉人さんがひとつ落ちていた」という動きができれば、「そこをうまくぼくとかレナトとかが絡んで流動的に4人でやれれば相手も怖いと思う」という。その上で、「もっともっとやる必要があるんですが、コミュニケーションを高めてやりたいと思います」と力強く口にしていた。

 名古屋戦の後半、大久保嘉人が中盤にまでポジションを下げ、ボールを引き出して試合を組み立てることで試合を活性化させた。この動きについて大久保は「あそこ(トップと中村との間のスペース)を誰かがやってくれないと、点が取れない。誰かが入ってきてほしいから、オレが下りるけど。でも点が取れると思ったときは、下りない。そのときに誰かにそれをやって欲しい」と話していた。これは前後の話の流れを汲むと杉本に学んで欲しい動きのことで、小林については「もうわかっているから。意識して入ってきている」とコメント。すでに習得しつつあるとの認識を示している。

 小林がサイドから中央に絞り、組み立てに加わってボールとポジションの出入りを繰り返す。サイドハーフが中央に絞ることで生まれたスペースをサイドバックが活用し、攻撃参加する。そうやってポジションを変えながら高い流動性を生み出すことで、相手守備陣を撹乱させ「どうすりゃいいの」状態に陥れることを狙っているという。

▼このサッカーの到達点を思うとき
 この流動的な動きは、一見するとかなりの水準の動きがすでに実現しているようにも思えるが、名古屋戦後の風間監督によると、まだ満足できるレベルにはないと手綱を緩める様子はなかった。

 アジアカップを戦う代表チームに招集されていたため、宮崎入りはチームから3日遅れの1月27日の夜。チーム練習への参加は28日にずれ込んだが、「(代表では)試合に出ていなかったので上がってなかった」という。代表で試合に出られなかったことは残念なことだが、それがコンディション面でのピーキングの難しさにつながっていないというのはラッキーだと言っていい。

 チームに攻撃の流動性を生み出す重要なピースとして「間」に入る動きを身に付け、その動きをチーム全体が理解したとき、川崎Fには凄まじい破壊力が備わるはず。風間監督が満足できるレベルに到達したとき(それはないのかもしれないが)、どのようなサッカーをフロンターレは示すのだろうか。小林の習熟とともに期待を持って見守っていきたい。

江藤高志

1972年12月生まれ。大分県中津市出身。99年にコパ・アメリカ観戦を機にライター業に転身し、04年シーズンからJ’sGOAL川崎F担当として取材を開始する。プロサッカー選手について書く以上サッカーを知るべきだと考え2007年にはJFA公認C級ライセンスを取得する。また、川崎F U-12を率いダノンカップ4連覇などの成績を残した髙﨑康嗣元監督の「『自ら考える』子どもの育て方」(東邦出版)の構成を担当した。2014年2月より川崎フロンターレを中心とした有料WEBマガジン「川崎フットボールアディクト」がスタート。