J論 by タグマ!

韓国勢から『他のJクラブとは気迫が違う』と言われる柏レイソル。その源流はクラブ、選手、サポーターによる意識改革にある

そのときどきの話題やイベントにフォーカスし、論を交わす時事蹴論。今回は5月19日に行われたACLラウンド16においてアウェイの地でも強さを見せつけた柏レイソルを取り上げる。なぜ柏レイソルはACLにこれほどまで本気になれるのか?柏レイソルの番記者・鈴木潤が、10年におけるクラブ史からその秘密を紐解く。

▼下ではなく、上を見るために必要だった10年
 柏はなぜ、ACLで強いのか――。

 これは、ベスト4まで勝ち進んだ2年前から何度も書いてきたテーマである。そしてその都度、2011年のFIFAクラブW杯へ出場した時の充実感を再び味わうために選手たちはACL制覇を本気で狙い、サポーターが発信する「柏から世界へ」の声にも後押しされて、クラブとサポーターが一体となってアジアの頂点を目指していると、そういった趣旨の原稿を書いてきた。

 もちろんそれは、柏がアジア制覇を目指す揺るぎない理由であり、それが快進撃を続ける原動力になっているのは疑いようもない事実である。ただ、今回の水原戦をアウェイで3-2と勝利した試合後、対戦した水原の選手たちが「柏の選手は他のJリーグ勢と比べて気迫が違う」と話していたことから、柏にはその気持ちの強さを生むだけの理由があるのではないかと思い、それを検証してみることにした。

 柏はこの数年間、試行錯誤を繰り返しながら成長を遂げてきた。特にこの10年間は、2回のJ2降格、4年連続優勝、3度のACL出場、クラブW杯4位と濃厚なクラブ史を刻んできた。

 2005年のJ2降格は、クラブ史の中で最もどん底の時期にあった。あの降格を機に、柏はクラブの方向性、強化のビジョンなど、あらゆるものが劇的に変わり、それまでは決して良好とは言えなかった選手とサポーターとの関係も改善された。降格という結果を招いた原因を、クラブ、選手、サポーター、それぞれが自分たちを見つめ直し、一度リセットをして、這い上がるべく新たなスタートラインに立った。

 シーズンを戦う意識もそうだ。それまでのシーズン前の目標と言えば、建前上では「タイトル」や「優勝」と口にしていたかもしれないが、本心では上ではなく下を気にかけていた。つまり、「残留争いには加わらない」「降格はしない」などの目標だ。

 実際に以前、大谷秀和が言っていたことにこういう言葉がある。

 「タイトルの味を知らない頃は、『今年は鹿島が優勝したのか』と同じリーグなのに、別のことのように考えていた」

 それが2010年以降、ネルシーニョ監督の意識改革によって、柏は下ではなく、上を見据えるチームになった。残留争いの重苦しいプレッシャーではなく、優勝を争う充実感に満ちたプレッシャーを、選手もサポーターも味わい、かつての低迷期を乗り越えて、自分たちはどんどん強くなっているという感覚を、選手はもちろんのこと、サポーターもそれに近い感情を覚え、一枚岩となって大きな目標に向かって一緒に成長していくことの素晴らしさと、その成長の先には今まで知らなかった世界が広がるということを知った。

▼三位一体で意識を「世界へ」
 代表的な例がある。柏は2008年度と2012年に天皇杯の決勝に進出している。2つのファイナルを知る大谷や栗澤僚一は、「2008年はACLが見えていなかったけど、2012年は天皇杯で優勝して、必ずACLに出るんだという気持ちがあった」と気持ちの違いを語る。

 きっとそれは、サポーターも全く同じ心境だったに違いない。2008年には、おそらくサポーターにもACLは見えていなかった。しかし2012年度決勝戦の選手入場時のコレオグラフィーで、スタンドに浮かび上がった文字の『LET’S GO KASHIWA』から『LET’S GO ASIA』への変化は、「勝ってアジアへ行く」という選手と同じ意識をサポーターが抱いていたことを象徴するものだろう。

 そして、アジアが見えていなかった2008年度はG大阪に0-1で敗れ、アジアに出ることを強く意識して戦った2012年度は、1-0でG大阪を下した。選手たちが4年間で成長を遂げたのと同じように、サポーターもまた、彼らと同じ歩幅で成長を進め、選手とシンクロした目標を持っていた。

 2005年の降格を機に、一度リセットし、どん底から這い上がっていく過程で、優勝、ACL出場、クラブW杯出場を経験しながら、クラブ、選手、サポーターが同調した成長を進めてきた。3者の間に温度差がなく、その中で辿り着いた共通の目標が「世界」である。

 クラブは「世界で通用する選手の輩出」を目標に、アカデミーの中学生年代、高校生年代から積極的に海外遠征を行うことで、世界を体感させている。選手たちは再びクラブワールドカップへ出場しようと、高い意識を持ってレベルアップを図っている。サポーターからは「柏から世界へ」という言葉が発信され、これは柏がACLを戦っていくシンボルワードと化した。

 現在の柏は、世界を目指す成長過程にあり、クラブ、選手、サポーターはACL優勝を現実的な目標として捉えている。韓国勢に圧倒的に強い理由も、細かく見れば戦術な要因も当然あるだろうが、水原の選手たちが口にした「気迫の違い」は、おそらく世界を目指すモチベーションの強さが根底にあるからであり、同時にそれが柏のACLへの想いの強さの表れではないだろうか。