J論 by タグマ!

試してはみたが、いなかった。遠藤、今野、長谷部の招集は、若手育成失敗の裏返しではないか?

スペインからの風雲児・小澤一郎が、この問題の根幹部分にメスを入れる。

11月14、18日に行われる二つの国際Aマッチ(vsホンジュラス、vsオーストラリア)に向けてハビエル・アギーレ監督は日本代表に3人のベテラン選手を呼び戻した。34歳の遠藤保仁、31歳の今野泰幸、そして30歳の長谷部誠だ。この選考は、これまで若手に限らず実績のない選手を大量招集して起用してきただけに大きな驚きをもって迎えられた。果たして、ここに来てのベテラン大量招集は是か非か。あらためて問い直してみたい。第2回目はスペインからの風雲児・小澤一郎が、この問題の根幹部分にメスを入れる。

▼若手はまるで通用しなかった
 4年後のロシアW杯でのメンバー入りは厳しいであろう遠藤保仁、今野泰幸(共にG大阪)、長谷部誠(フランクフルト)という30代、ブラジルW杯までの主力を招集してきたハビエル・アギーレ日本代表監督だが、私はベテラン大量招集を「あり」ではなく「致し方ない」と捉えている。

 10月のブラジル戦での0-4という大敗の中でも私は特に森岡亮太(神戸)、柴崎岳(鹿島)というJリーグが誇る若手、ホープが全くと言っていいほど通用しなかった点に少なからず衝撃を受けた。48分に考えられないコントロールミスからブラジルのカウンター、2点目を許した柴崎は、数日前のジャマイカ戦後にアギーレ監督から「ワールドクラス」、「かなり遠いところまでいきつくことができる」と絶賛している。

 その柴崎は59分にもネイマールの決定機につながる致命的なミスを相手陣内で犯している。一度のミスであればまだしも、指揮官からワールドクラス候補生として名指しされた若手がテストマッチ、荒れたピッチコンディションとはいえ大きなミスを繰り返してしまったということは、日本誇る若手の最高傑作の一人といえども、まだまだ世界トップレベルには程遠い現状にあるということを示している。

 9月、10月と2度のメンバー発表、4つのテストマッチにおいてアギーレ監督はアジアカップに向けたテスト色の濃い選考と起用を続けてきた。ここに来てのベテラン大量招集によって「一貫性がない」、「ブレがある」という批判も出始めているが簡潔に言うなれば「試してはみたが、選手がいなかった」ということ。私はそう解釈しているし、日本代表の選手層が薄いのは事実だろう。

▼24歳での欧州移籍は余りにハイリスク
 それが本稿における「致し方ない」という結論に至る理由であり、日本サッカーが直面する課題の一つ。残念ながら、選手育成のスピードでも日本と世界では大きな差が付き始めている。U-20W杯出場権を3大会連続で逃した2年前から、協会、Jリーグは23歳以下の選手の期限付き移籍自由化、J3におけるJリーグU-22選抜結成など様々な施策を練ってきた。

 しかし、今季満を持して欧州移籍を果たした柿谷曜一朗(バーゼル)、田中順也(スポルティング)が新天地でコンスタントな出場機会を得られず苦しんでいる現状を見ても明らかなように、五輪世代を過ぎた24歳以降で初めて欧州移籍することは日本国内の基準からすると「ステップアップの海外挑戦」だが、世界基準からすると「遅いタイミングでハイリスクな移籍」となる。

 JFA2005年宣言の「約束」として明記されている「2015年までの世界トップ10入り」は実現しそうにない現状だが、日本代表が本当の意味で世界トップレベルを目指すためには、世界最高峰の舞台である欧州のマーケットで高い評価を受ける日本人選手を多数育成・輩出する必要がある。

 そのためにはできる限り若い年齢、できれば21歳までに欧州のマーケットに入って行きたいところだが、今や10代でJ1の主力となる柴崎や南野拓実(C大阪)のような選手が出てきていることからもわかるように、Jリーグ内での若手の育成と評価システムが確立・整備されているため、将来のA代表入りを見込まれるタレントが20歳前後で早期に海外移籍することの難易度は年々増している。

 高い評価を受けてスター扱いをされ、20代前半で年俸数千万円を手にする環境は実力ある選手からすれば非常に魅力的なもので、あえて海外挑戦する必要もない。しかし、日本代表が世界と互角に戦っていくためには競争の激しい欧州で揉まれ、そこで競争に勝った選手の層が今以上に増えてこなければ厳しい。

「コンプロミソ(責務)」に続くアギーレ監督のキーワードである「コンペティティーボ(競争力の高い)」は確かに国内、Jリーグでも身に付けることはできるだろう。しかし、世界トップレベルの競争力を身に付けるためには欧州のトップリーグかチャンピオンズリーグに出場するようなクラブに行って体得するしかないのも実情だ。

 要するに今、私は22年目を迎えるJリーグの成熟や育成システムの確立がA代表の選手層に厚みをもたせるという意味での代表強化に直結していない点を大いに危惧している。

小澤 一郎(おざわ・いちろう)

1977年、京都府生まれ。早稲田大学卒業後、社会人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。多数の媒体に執筆する傍ら、サッカー関連のイベントやラジオ、テレビ番組への出演も。主な著書に『サッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『日本はバルサを超えられるか』(河出書房新社)、『サッカー選手の正しい売り方』(カンゼン)、『スペインサッカーの神髄』 (ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若き英雄』(実業之日本社)など。