J論 by タグマ!

解けずに5年目の「ジェフ・パズル」。関塚隆はこの難問を解く鍵を持っているのか?

千葉について、その低迷をつぶさに観察してきた西部謙司が考察を加える。「J2・5年目の低迷」は何故に起きているのか?

2014年のJ2リーグは全体の4分の3余りを消化。いよいよラストスパートが問われる季節になってきた。「最初からスパート」状態だった湘南が早くも昇格を決める一方で、2位以下は予断を許さない状況が続いており、下位の攻防も熾烈だ。そこで「J論」では、J2の幾つかのクラブにフォーカス。そのラストスパートに注目する。今回は34試合を終えて「圏外」と低迷を余儀なくされる千葉について、その低迷をつぶさに観察してきた西部謙司が考察を加える。「J2・5年目の低迷」は何故に起きているのか?

▼監督を代え続けるチームは勝てない
 2014年、ジェフユナイテッド千葉は降格5年目を迎えるにあたり、初めて監督を留任させた。2013年から指揮を執っていた鈴木淳監督は、プレーオフの準決勝で徳島ヴォルティスに敗れて昇格に失敗していた。例年なら、ここで監督交代だった。

 さすがに懲りたのだと思う。

 J2降格1年目の2010年は江尻篤彦、11年はドワイト、12年は木山隆之、そして13年に鈴木淳と毎年監督を代えてきて結果が出なかった。プレースタイルもその都度変わっている。かつての名門が没落していく典型的なケースと言っていいかもしれない。

 監督を代え続けるチームは勝てない。

 よほど金があって好き放題に補強ができるなら別だが、主力選手は何年か在籍するものだ。つまり、チームの軸になる選手が変わらないのに、監督を代えて戦術を変えても大きなプラスにはなりにくく、むしろロスのほうが大きくなってしまう。監督が交代すると、それなりに新しい選手も入ってくる。そうなると主力選手の何人かは放出しなければならない。J2暮らしが長引くほど、スーパーな選手は補強できなくなっていく。結局、プラスマイナスゼロか、戦術変更で継続性がないぶんだけマイナスになったりするものだ。

▼初めて中期的展望と監督交代
 今季、ジェフは初めて中期的な展望を持ち始めた。とにかく「昇格」しか頭になかったのが、もう少し先のことまで考えるようになった。今季の陣容をみると、30歳以上のベテランと25歳以下の若手にエイジグループがほぼ二分されている。若手を成長させることでチームを成長させるという、ある意味当たり前の方針を打ち出したわけだ。

 若手組には町田也真人、大塚翔平、井出遥也、ナム・スンウと技巧派のMFがいて、彼らの特徴を生かすにはパスワークを重視した戦術が合っている。丁寧なパスワークでの崩しを目指す鈴木監督の方針は、現状の戦力とクラブの将来を考えると適していた。監督交代で土台から変えてしまうよりは、継続させて若手の成長に賭けたほうが良いと判断したのはもっともだと思う。

 では、なぜ鈴木監督をシーズン途中で解任してしまったのか。

 チーム力がいっこうに上向いていなかったのは確かだ。開幕前、沖縄キャンプを取材に行ったが、正直なところ「今季はプレーオフも無理だろう」と思った。この時点では若手がさほど伸びておらず、新しい即戦力は中村太亮ぐらい。G大阪へと移籍していった米倉恒貴の穴埋めもできていなかった。継続するのはいいが、上積みが全くといっていいぐらいなかった。

 ただ、方針を固めた以上、もう我慢するほかない。実際、シーズン途中から井出が先発に定着し、CBキム・ヒョヌンが成長。大岩一貴も右SBまたはCBとしてポジションを確保した。期限付きで獲得した幸野志有人、町田、大塚、ナム、新人FWオナイウ阿道も起用されるようになっている。

 若手の台頭が直接好成績につながったとは言えない。しかし、成績も上がらず若手もポジションを獲れずでは、クラブのビジョンは完全に崩壊してしまう。鈴木監督は、少なくとも半分の仕事はしてくれたはずなのだ。

 解任のタイミングはかなり唐突だった。昇格が困難と言える状況でもなく、極端に流れが悪いわけでもない。単純に、次の監督と話がついたということだったのだろう。後任の関塚隆監督は、鈴木前監督の就任前からもともと「第一候補」だった。クラブとしては2013年から関塚体制でいくはずだったのに交渉がまとまらず、鈴木監督を招聘していたという経緯がある。

▼ポゼッションと決定力の病
 意中の人、関塚監督になってからチームはどう変わったか。

 驚くような変化はない。漠然と、少し引き締まった印象はある。鈴木前監督は選手の自主性に任せて成長を「待つ」タイプだったが、関塚監督は指示が具体的で細かく、厳しさもある。選手にとっては、つかみどころがない感じの鈴木前監督よりも、関塚監督のほうが分かりやすいのかもしれない。チームはどうあるべきか、何をすべきかが明確になってきた。

 ただし、全体的に大きな変化はない。ある程度ボールは支配できる、けれども最後の崩しがいまひとつ。これは鈴木前監督が取り組んできたメインテーマであり、その前の木山監督が残した課題でもあった。木山監督の2012年は一つの転機で、山口智、兵働昭弘、佐藤健太郎、谷澤達也が加入して、「ボールを握る」意識が明確になり、現在につながる路線が敷かれている。ただ、ポゼッションをどう得点に変えるかは、監督が代わっても依然として課題のままなのだ。

 ジェフ千葉がJ2に5年いる理由は、ほぼこの課題のせいだと思っている。

 どこの国でもそうだが、1部と2部では様相が違う。2部は総じて技術レベルが下がり、予算規模の小さなクラブが多くなる。そのため、体力や戦術で、技術や個々のクオリティーの差を帳消しにしようとするスタイルが主流になる。その中で、戦力の充実しているチームがポゼッションで優位に立つのは難しくない。相手もそこは捨てている。問題は、守備を固めている相手を崩しきることができるかどうか。それが簡単にできるチームなら、そもそも降格していない。仮に降格しても1年で上がれる。

 ジェフ千葉はJ1での最後の2年に降格危機に直面し、2年目で降格した。この2年間、イビチャ&アマル・オシム時代のスタイルを失い、アレックス・ミラー監督による「カテナチオ」になっていた。降格してからポゼッション型へ転換している。J2だからボールは握れたが、そこから先に何が待っているのかは2年あまりも経験していなかった。相手にボールを持たせてからの戦いに慣れているJ2勢にとって、ジェフ千葉は戦力差のわりにはやりやすい相手だと思う。

 関塚監督も、歴代監督と同じ課題に直面している。イビチャ・オシムが就任したころ、ジェフは相手にボールを持たせて勝負するチームとして台頭した。ボールを持って何ができるか、その課題に取り組み始めたところで父オシムが日本代表監督に引き抜かれ、さらに主力選手も抜かれて急降下した。クラブとして、いまだこの課題を解決したことがない。

 これを解決できれば、おそらく今季でなくても昇格できるだろうし、J1からすぐに降格することもないだろう。だがそもそも、余りにも真正直にこれに取り組んでしまったこと自体が、5年もJ2から抜け出せない状況を作ってしまったのではないだろうか。


西部謙司(にしべけんじ)

1962年9月27日、東京都生まれ。「戦術リストランテⅢ」(ソル・メディア)、
「サッカーで大事なことは、すべてゲームの中にある2」(出版芸術社)が発売中。ジェフユナイテッド千葉のマッチレポートや選手インタビューを中心としたWEBマガジン「犬の生活」を展開中。http://www.targma.jp/nishibemag/