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テーマW杯の日々から思う、Jリーグという日常

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流浪のフォトジャーナリスト・宇都宮徹壱

2014 07/11  08:22

日常に戻るに当たって私は言う。「8年前とは違うのだよ、8年前とは!」と。

週替わりで複数の論者が一つのテーマを論じ合う『J論』。今週のテーマは「W杯の日々から思う、Jリーグという日常」。いよいよW杯もクライマックスを迎えているが、J1リーグも7月15日から再開を迎える。この「僕らの日常」についてあらためて考えてみたい。第四回目に登場するのは、流浪のフォトジャーナリスト・宇都宮徹壱。成熟したサッカー王国のファンのありようから、日本のサッカー界を思う。8年前、日本サッカーは「冬」を見た。では、今度はどうだろう。



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▼ミネイロンの悲劇に思う
 7月8日(現地時間)、ブラジル・ベロオリゾンテで、この原稿を書いている。そう、W杯準決勝で、開催国ブラジルがドイツに1-7という歴史的大敗を喫した日だ。いやはや、ものすごいものを見せてもらった。日本がコロンビアに1-4で敗れたのも屈辱的ではあったが、ブラジル人にしてみればおよそその比ではないだろう。スポナビのコラムでも書いたが、今回のスキャンダラスな敗戦は(人は死んでいないものの)、会場の名前を採って「ミネイロンの悲劇」 として、およそ半世紀くらいは語り継がれてゆくのではないか。それほどのインパクトがある大負けっぷりであった。

 試合後、ブラジル各地で暴動が起きるのではないかと真剣に心配した。昨年のコンフェデレーションズカップ期間中、サンパウロやリオデジャネイロを始めとするブラジル各都市で大規模なデモや騒乱が起こったことからもわかるように、国民の中には今回のW杯を快く思っていない人々がかなりの割合で存在する。

 では、実際にはどうだったのか。

 確かに、バスの焼き討ち事件は報告されているものの、昨年のコンフェデのような騒乱にまでは発展していないのが実情だ。ここベロオリゾンテも至って平穏である。政治的なリアクションとは別に、今回の敗戦を多くの国民はきちんと切り離して捉えている。そこに私は「成熟したサッカー王国」としての大人の態度を見る思いがした。

 成熟といえば今大会、ブラジルのサポーターが身につけているレプリカが、いつも気になっていた。多くはカナリア色のユニフォームを着用しているのだが、一方で自分たちが普段サポートしているクラブ、たとえばコリンチャンスとか、フラメンゴとか、インテルナシオナルとか、アトレチコ・ミネイロとか、さらには見たこともないようなクラブのユニフォームを着ている人たちが一定数いたものだ。日本の場合だと、こうはならない。代表のジャパン・ブルーのレプリカを着ている人たちが、9割9分くらいを占めていて、その中にJクラブのレプリカを着てくる人は、ほぼ皆無だ。それがTPOと言われればそれまでだが、日本のサッカーファンはもっとマイクラブを誇ってよいと個人的には思う。

▼新たな日常を前にして
 ここでようやく今回のお題に追いつくことができた。W杯は4年に1度のお祭りであり、終わってしまえば次の4年間に向けて新たな日常がスタートする。問題は、いかにその日常を楽しみながら4年後のお祭りを迎えることができるかであり、そこで欠かせないのがマイクラブの存在であろう。

 そりゃあW杯に比べれば、プレーのレベルも盛り上がりも注目度も、断然低いかもしれない。しかし、どんなカテゴリーのクラブであっても実は世界とつながっていることを、私たちは今回のW杯で確認できたはずだ。ブラジル代表のフッキは、J2時代の札幌やヴェルディでプレーしていたし、MOM を獲得したアルジェリア代表のGKライスは、かつてJFL時代のFC琉球のゴールマウスを守っていた。何という夢のある話ではないか!

 もちろん、そうした事例は非常に限られた話ではある。が、私がここで主張したいのは「W杯はサッカーの世界の一部でしかない」という事実だ。

 4年に1度、1カ月の期間限定イベント。しかも、自分たちの代表が3試合で負けたら「それで終わり」というどこかの国の場合、賞味期限は2週間足らずで あったりする。実にもったいない話ではないか。ブラジルでは、たとえセレソンが歴史的な大敗を喫しても、大会が終わればまた日常のサッカーライフが待っている(むしろそっちのほうが楽しみなのだろう)。だからセレソンの敗北は、国民的なプライドの問題にはなり得ても、それが「この世の終わり」となることなど、かの国では絶対にあり得ない。なんという豊かな土壌であることか。そこに私は「王国」の絶対的な条件を見る思いがする。

 4年に1度、日本では「W杯をどうJリーグにつなげていくか」という話題が必ず再燃する。換言するなら、わが国にはまだそうした土壌がないことの証左である。それは一朝一夕で完成するものではなく、さまざまな成功と挫折の積み重ねの上に成り立つものだ。とはいえ、8年前のW杯での蹉跌と比べれば、今回はさほどのダメージを受けることなくサッカー界は回っていくのではないかと、私自身は密かに楽観している。

 何となれば、この8年間における日本のサッカーファンのリテラシーが、格段にアップしていると考えるからだ。では、どの程度アップしているのか。それは、帰国してからしっかり確認してみることにしたい。少なくとも、専門誌がバタバタと休刊となり、自分の連載がなくなることはないだろう──と信じたい。こればっかりは、切実に。


宇都宮 徹壱

写真家・ノンフィクションライター。1966年生まれ。東京出身。 東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、1997年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」 をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)は第20回ミ ズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。2010年より有料メールマガジン『徹マガ』を配信中。http://tetsumaga.com/

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