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論コラム週替わりのテーマについて有識者が物申す!

テーマW杯の日々から思う、Jリーグという日常

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テレビ業界の奇才・土屋雅史

2014 07/08  09:50

磐田と湘南、小瀬の彼女、そして再開する日常に思いを馳せて

週替わりで複数の論者が一つのテーマを論じ合う『J論』。今週のテーマは「W杯の日々から思う、Jリーグという日常」。いよいよクライマックスを迎えたW杯と、そのステージに上がることを許されなかった日本代表の失意を思いつつ、再開されるJ1リーグを前に、「僕らの日常」についてあらためて考えてみたい。その第一回はテレビ業界の奇才・土屋雅史氏が、「日本に生まれ育ったからこそ楽しめるリーグ」について、語る。



▼J2の日常、帰って来るJ1の日常
 いよいよW杯も数試合を残すのみとなった。今回は普段の大会よりも熱戦が多いように感じる。また、4強に強豪国が順当に勝ち上がってきたのも特徴だし、ベスト8に残った顔触れも大いに納得できる国ばかりだった。ただ、その中で唯一"サプライズ"と言えばコスタリカだろう。最後はオランダとの壮絶な死闘の末、PK戦で涙を呑んだとはいえ、その戦いぶりは世界のサッカーファンを驚かせ、震わせてくれた。

 そのコスタリカがウルグアイに続き、イタリアも撃破してラウンド16への勝ち上がりを決めた十数時間後。ある注目のゲームがキックオフを迎えていた。J2第19節。2位のジュビロ磐田がホームのヤマハスタジアムに首位・湘南ベルマーレを迎えた一戦である。昨年はトップディビジョンに身を置いていた両者の首位攻防戦。果たして、その90分間は熾烈を極めた。

 駒野友一と松井大輔。4年前の世界を知る二人がピッチを駆け回る。情熱の指揮官に率いられた湘南の若駒たちが、ひたすら前へ前へと突き進む。結果は湘南が今季の18勝目を挙げることになるのだが、とにかく面白かった。古くから親交のある湘南の番記者が「W杯より面白かった」と語った言葉も、"番記者"という立ち位置を差し引いても、あながち大袈裟ではないほどに、とにかく面白かった。その日の強烈な印象をそのまま抱き、平塚へ赴いて取材した第20節の湘南とギラヴァンツ北九州の90分間も、やはり面白かった。

 コスタリカも湘南もTVの前で試合を見ていた私に対して、スタジアムへ足を向けたくなるような興奮を与えてくれた。だが、日本で暮らす私にとって、すぐスタジアムで見ることができたのはやはり後者であり、実際期待に応えてくれるだけのモノが彼らの90分間にはあった。今季の湘南は、その記録的な数字がとりわけ注目されているものの、貫くスタイルも併せてJリーグ史に残るチームとなり得るポテンシャルを有している。彼らの"今"を目撃しておくことを、強くお薦めしておきたい。

 そして、J2にその不在を託していたJ1という名の"日常"も、約2カ月の中断期間を経て、いよいよ我々の元に帰ってくる。まずはすっかりカタカナの名前に慣れていた頭を、漢字の名前に切り替えていく必要があるだろう。大久保嘉人。山口蛍。今野泰幸。遠藤保仁。森重真人。青山敏弘。西川周作。権田修一。齋藤学、柿谷曜一朗(残り1試合!)。磐田でプレーする伊野波雅彦も含め、地球の裏側でカタカナの名前と戦う姿を我々がTVの前で観ていた彼らも、スタジアムに帰ってくる。

 例えば、ガンバ大阪とFC東京のゲームに注目したい。今野は森重にコートジボワール戦のスタメンを譲った。以降は定位置に復帰したが、大事な初戦の先発メンバーから外れたことが悔しくないはずもない。この二人はFC東京でコンビを組んでいた経緯もある。彼らの"日常"には新たなドラマが生まれている。

 例えば、セレッソ大阪とサンフレッチェ広島のゲームに注目したい。山口は青山にコロンビア戦のスタメンを譲った。それまでの2試合は君が代をピッチで聞いたが、勝利のみが義務付けられた最後の試合はそれをベンチで聞いた。さらに、この試合でアルベルト・ザッケローニ監督が最初に着手した交代は青山から山口だった。もともと青山は山口を名指しで自身のライバルに挙げていた経緯もある。彼らの"日常"には新たなドラマが生まれている。

 それを最も楽しめるのが我々日本人であることは、今さら言うまでもないだろう。

▼人間関係に観るJの日常
 私はJ SPORTSの『Jリーグブログ』で、データプレビューという企画を3年ほど前から実施している。内容は至ってシンプル。J1、J2の各試合に潜む人間関係を"公式"に当てはめるというものだ。その説明だけではわかりづらいと思うので、J1の再開初戦に当たり、奇しくもJ SPORTSのLIVEカードでもあるサンフレッチェ広島と横浜F・マリノスのゲームを例に挙げよう。

千葉和彦×三門雄大=新潟

 これは千葉和彦と三門雄大がアルビレックス新潟でチームメイトだったという"公式"である。

森保一監督×松永成立GKコーチ=京都

 かの「ドーハの悲劇」をピッチで経験し、今では指導者としてチームを導いているこの二人は、1998年に京都パープルサンガでチームメイトとして、1年間を共に過ごしている。年齢は松永コーチの方が6歳上に当たるし、その性格を考えても試合後は森保監督のほうから握手へ向かうに違いない。余談ではあるが、当時の京都を率いていた指揮官が「ドーハの悲劇」を二人と共有していたハンス・オフト監督であるという情報が加われば、その"公式"には一層の彩りが加えられるだろうか。

 そうした構図はJリーグ"以前"にも遡ることができる。

柴﨑晃誠×兵藤慎剛=国見(柴﨑が1年先輩)

 高校における"先輩・後輩"の意味合いは、日本人なら大半の方が理解しているであろう。この二人は高校選手権の優勝メンバーであり、兵藤は2年生で既にレギュラーを獲得していたため、おそらく仲は悪くないはずだと想像できるが、何しろ全国で知らないものはいないと言っていい名門高校の先輩後輩である。後輩の然るべき態度は間違いなく存在するはずだ。試合中や試合後に、二人がどういう形で遭遇するかにはどうしても注目したくなる。

柏好文+塩谷司×佐藤優平=国士舘大
(柏が塩谷の1年、佐藤の3年先輩)

 人間関係は決して1対1にとどまらない。Jリーグの公式戦で3人の先輩後輩が相まみえることだって珍しくはない。これで佐藤が3年先輩の柏を激しく削ったとしよう。二人の間にどんな緊張感が生まれるだろうか。佐藤は1年次から試合に出場していたので、柏も当然よく知っている後輩だ。それでも、試合中とはいえ"後輩"にやられたとあっては黙っていまい。この二人が同時にピッチに立っていたら、そんなことを考えるのもまたサッカーの楽しみ方である。そして、このJ1再開初戦の話題は、この"公式"で締め括りたい。

青山敏弘×齋藤学=14年W杯日本代表のチームメイト

 その国のリーグは、その国の社会の縮図でもある。"学生サッカー"という世界でも特殊なジャンルからは、日本独特の先輩後輩というヒエラルキーが透けて見え、さまざまな想像を掻き立てられる。"元チームメイト"というフレーズからは、会社の同僚さながらのライバル心や、「いざとなったら俺が助けてやる」というような義侠心さえも感じ取ることができる。

 無論、"ヒエラルキー"や"ライバル心"、"義侠心"に対する良し悪しの判断も人それぞれであるべきだが、そこまで選手やチームに想いを馳せ、それを楽しみ、論じることができるのは、日本で行われている日本のリーグだからに他ならない。『メッシ×ネイマール=バルセロナ』からは読み取り切れ切れない関係性も、『新井場徹×稲本潤一=G大阪ユース』からは多くの物語が頭に浮かぶはずだ。

 それを最も楽しめるのが我々日本人であることは、今さら言うまでもないだろう。

▼あの日の小瀬に
 彼女が泣いていたのを覚えている。

 2006年7月29日。その日、小瀬にはキャパシティの上限である1万7千人の観客が詰め掛けた。初めてのJ1に挑戦していたヴァンフォーレ甲府が、初めて浦和レッズをホームに迎えた日のことだ。田中マルクス闘莉王が、小野伸二が、長谷部誠が、小瀬のピッチを踏みしめた。試合は藤田健のゴールで甲府が先制し、三都主アレサンドロの同点ゴールでドローに終わったものの、90分間持続されたスタジアムの熱に、ただただ驚かされた。

 2000年6月11日。その日、小瀬にはキャパシティの15分の1にも満たない724人の観客しか集まらなかった。前年は最下位。そのシーズンも開幕から15試合を消化して、勝利数はわずかに、1。モンテディオ山形に1-4でホームチームは呆気なく敗れ去った。

 彼女は、両方の小瀬を知っている人だった。2000年のその日、彼女を含むボランティアスタッフは「せめて"三桁"が"四桁"になる日が来るといいね」と笑い合っていたそうだ。それから6年。チームはJ2からJ1へとステージを変え、"三桁"は"五桁"になり、その光景を観た彼女は泣いていた。数々の人の努力の上に立脚したヴァンフォーレ甲府の"日常"は、甲府に住む人々の"日常"も確実に変えた。2014年シーズンのここまで、"小瀬"の平均入場者数は限りなく"五桁"に近い"四桁"となっている。

 Jリーグには、我々の日常が詰まっている。賞賛したくなるような良い面も、目を瞑りたくなるような悪い面も、それはきっと我々の日常の合わせ鏡なのかもしれない。ならば、その"日常"を少しでも楽しいものに、素晴らしいものにするためには、我々が関わっていくことが何より重要だ。

「Jリーグを観に行こう」なんて強制するつもりはない。そもそもスタジアムに行くことだけが、関わることを意味するわけではないだろう。それぞれの形でJリーグに関わってもらえれば、それだけで十分だ。その関わりが"日常"になれば、きっとJリーグの"日常"も変わっていく。小瀬の彼女の日常が変わったように。世界を痛感したからといって、何か気負う必要など何もない。

 我々は帰ってきた"日常"を、ただ楽しめばいいのだ。


土屋 雅史(つちや・まさし)

1979年生まれ、群馬県出身。群馬県立高崎高校3年で全国高校総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出される。早稲田大学法学部卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スポーツへ入社。同社の看板番組「WORLD SOCCER NEWS 『Foot!』」のスタッフを経て、現在はJリーグ中継プロデューサーを務める。近著に『メッシはマラドーナを超えられるか』(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。

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匿名(IP:101.111.215.169)

Jに足を運ぶ人が増えることが、いつか日本が世界で凱歌をあげる日のために必要なことだと思います。

2014年7月 8日 21:49

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