キプロスという選択。日本、強国のスタンスでW杯へ

23名のメンバーも固まり、鹿児島合宿も打ち上げた日本代表。いよいよW杯に向けた離陸準備に入った段階だ。毎回週替わりのテーマで語り合う『J論』の第3回は、その壮行試合となるキリンチャレンジカップ・キプロス戦(5月27日・埼玉)について、ちょっと違った視点からフォーカスしていく。今回は川端暁彦が、この試合の位置付けとブラジルW杯における日本代表の立ち位置を考える。


▼普段のサッカーを普通にする
 4年前、壮行試合の相手は韓国だった。

 タフで士気も高いチームを相手にしたゲームは、完敗に終わる。日本はその後もイングランド、コートジボワールといったW杯本大会に出場する強豪国とスパーリングを重ねた。これはオーソドックスな強化法だった。

 この時期に強国とぶつかるのは本大会のシミュレーションということに加え、この時期にしかできない相手だからというのもある。韓国はまた別だが、たとえばイングランドのような伝統国は率直に言って「余り強くない相手」を対戦相手としてチョイスしたがる。さらにアジアの国との対戦経験が少ないことから、この時期は好んでアジア勢と対戦したがる傾向もある。それを望めば、普段はなかなかできない相手と試合が組める。そういう時期でもあった。8年前のジーコジャパンが大会直前にドイツとぶつかったのも、このパターンだ。

 そして、今大会の日本はどうか。壮行試合の相手にはキプロスをチョイス。このあとの米国キャンプで対戦するのは、コスタリカとザンビア。W杯に出場しない国、あるいは出場するにしても決して強国とは言えないチームを選んでいるのが分かる。強国との試合は組みたくても組めなかったわけではなく、あえて胸を借りるような試合は組まないというスタンスだった。

 これは、強国の調整法だ。じっくりと自分たちのコンディションを調整し、その確認のために親善試合を行い、本番に備える。一方的に押し込まれる試合を体感して、W杯モードの戦術を仕上げていくという弱小国のスタンスではない。

 4年前は未完のチームをしばき上げるために強国との連戦を設け、突貫工事の守備的戦術を仕上げることに成功した。まさに弱小国のスタンスがポジティブに作用したわけだが、今回のチームについてザッケローニ監督はその道をとらない。攻撃的なサッカーでいくという言い方もされるが、個人的には「普段のサッカーを普通にしよう」というチームであると理解している。すでに完成の手ごたえを得ているそのサッカーをそのまま出すことが目的なので、W杯仕様の特殊な戦術を強国相手に試す必要もないということだ。また、意識せざるを得ない強敵相手とガチンコの戦いを展開することで、コンディションを崩すような形(8年前、ジーコジャパンのドイツ戦がそうだった)のは避けたいというのも率直なところだろう。

▼その強国のスタンス
 キプロス戦もそうした流れの中にある。

 相手は決して弱いチームではない。粘り強い守備ができてフィジカル的にも強健な、欧州の小国らしい代表だ。ただ、決して強豪国でもない。だからこそ、日本は「W杯直前の試合だから無様な試合はできない」といった気負いから、この一戦に向けて特別に調整するといったこともしていない。直近の鹿児島合宿ではフィジカル面を厳しく追い込むような練習を重ねており、コンディションは最悪に近い状態のようだ。率直に言って、タフなファイトは期待できないだろう。いわゆる「良い試合」になる可能性は低い。

 だが、それでいい。それがザッケローニ監督の立ち位置だ。あくまでこれは調整試合。自分たちと同格未満の相手と試合を通じた「調整」を経て、本大会に臨む。逆に言えば、特殊な戦術の採用や、強国との対戦で自信を掴むといった精神的ブレイクスルーがなくとも、「普段のサッカーを普通にする」ことができれば、十分にW杯で戦えるという自信をザッケローニ監督が持っているということでもある。

 良くも悪くも、今回は日本が「強国のスタンス」で臨む大会となった。まだそこまでの実績がないことは明らかだが、実力もないかは見えないところ。こればかりは、やってみないと分からない部分もあるし、やってみる価値はある。そう思えるだけのメンバーがそろったのは確かだ。挑戦するからこそ、見えてくるものもある。

 キプロス戦の内容については率直に言って期待していないし、観衆も変な期待感は持たずに落ち着いて観たほうがいいと思う。ただ、ここから本大会に向けて日本代表が見せるチューニングについては興味がある。「強国のスタンス」は果たしてどう作用するのか。この挑戦の成否は、4年後、8年後の日本代表にも大きな影響を及ぼすに違いない。


川端暁彦(かわばた あきひこ)

1979年、大分県生まれ。2002年から育成年代を 中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画し、2010年からは3年にわたって編集長を 務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴ ラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『月刊ローソンチケット』『フットボールチャンネル』『サッカーマガジンZONE』 『Footballista』などに寄稿。近著『Jの新人』(東邦出版)。

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