16位、「攻める大宮」が直面した現実。失われた伝統と、新たなる武器と
16位に沈み、降格の危機に瀕する大宮アルディージャについて、熱く厳しい目線でクラブを見守ってきた平野貴也が掘り下げる。
▼なぜ今年はこうも苦しんでいるのか
残留王が瀕死の状態に陥っている。
大宮アルディージャは、2005年から毎年残留争いに加わり、いつも生き残って来た。驚異的な粘り強さは話題となり、2009年には「落ちない!お守り」という自虐的なグッズを販売して話題となったこともあった。毎年残留争いを展開することはファンやサポーターにとっては悲しく情けない話だが、もはや10年も連続しているのだから「残留争いの顔」として定着していることは否めない。
そして今季は最終節を残して降格圏の16位に位置し、すでに自力での残留は不可能となった。奇跡の逆転残留を果たす条件は、最終節で「16位の大宮がC大阪に勝ち、15位の清水が甲府に敗れる」のみ。大宮が勝っても清水が勝つか引き分ければ、無念の降格となる厳しい状況である。
本来ならば、「なぜ毎年、残留争いなのか」が大宮を取り上げる際のテーマとなるべきなのだろうけれど、この状況に至っては「残留争いは毎度のことだが、なぜ今年はこんなに苦しんでいるのか」がテーマとならざるを得ない。簡潔に言ってしまえば、これまでの残留争いとは様相が異なっている。
▼残留への伝統パターンにあらず
前期に首位争いを演じた昨季を除き、大宮は序盤から苦しい順位でシーズンが進み、途中で監督を交代して方針転換を図るという流れを繰り返してきた。2005年から11年まで主力として活躍した藤本主税(熊本、今季限りで引退)は在籍時に「いつもシーズンが始まるときには攻撃的なサッカーを目指すけど、途中から守備を固めてカウンターを狙うサッカーに変わってしまうのが悔しい」と話していたが、10年間の残留争いは、ほとんどが同じ形と言える。
今季も残留争いへの本格的な対応は、9月の監督交代から始まった。新指揮官は、大宮でのコーチ歴が豊富な渋谷洋樹監督。就任直後に5勝1敗という見事な巻き返しを見せて降格圏を脱出したときには、クラブの伝統である粘り強さを感じさせた。「今年も最終的には残留に成功する」。そんな見方も周囲で強まった。
ところが、第29節以降は、5戦未勝利(1分4敗)。再び降格圏に沈んだ。前線に強力な外国人選手を置き、守備を固めてカウンター中心で攻める。そのスタイルも例年と変わらないように見える。しかし、今季のチームは、例年に比べると守備の徹底度は弱く、攻撃に置かれる比重が大きい。11月に入り、第31節から第32節まで約3週間のリーグ中断期間があったが、渋谷監督は「攻撃がなければ守り切ることができないと考えているし、失点したときに取り返すこともできない」と話し、攻撃の改善を手掛けていた。攻撃面で特徴を持つ選手の起用も多く、確かに得点力は期待できるチームとなっている。渋谷監督が就任後、無得点の試合はない。
一方、かつてのような徹底した堅守の実現は難しくなっている。第32節の柏戦(1-2)は典型的だった。充実した内容で同点に追い付いて勢いを得ると「もう少し前から奪いに行けるんじゃないか」という監督の言葉をきっかけに、後半は一気に積極性を増した選手と、守備重視の中で少しずつ積極性を持とうとする選手が生まれてしまい、バランスが崩れた。これまでの大宮であれば、残り3試合で起こり得ない事象だった。例年と同じような「堅守速攻へ切り替えたチーム」ではないのだ。
もちろん、就任当初の渋谷監督が守備面の整備を行ったことは確かで、守備を軽視しているわけではない。比較で言えば、シーズン終盤になると失点数が減るという「伝統」ではなく、得点を奪って勝つスタイルで残留争いを戦っていると表現するのが正しいだろう。
▼もはや攻め勝つ一手のみ
では、方針が適切ではないのだろうか。
もちろん、結果として苦しんでいる以上、すべての面に修正すべき要素は存在する。ただし、今季に限って言えば、攻撃力を生かす手法こそ最適な手なのではないかと思われる一面もある。
主力選手の顔ぶれと、負傷者の状況だ。
直近の第33節・名古屋戦の先発を見ると、先行逃げ切りだった昨季を除く一昨年までに大宮での残留争いを2年以上経験した選手は、実を言うと、かなり少ない。生え抜きのMF金澤慎とGK清水慶記が該当するが、清水は昨季までリーグ出場経験がなかった。所属選手全体を見ても、ほかに3人しかいないのだ。言ってみれば「例年のように」という感覚を持つ選手で戦うことがそもそも難しくなっているのが現状の大宮だ。
さらに、守備陣は元々手薄な上に負傷者が続出してしまった。左DFは胸を張って本職だと言える選手が大卒ルーキーの高瀬優孝しかいない状況で、さまざまな選手が起用されてきた。また、守備の大黒柱である主将の菊地光将が、負傷によってなかなか戦列に戻れていない。この状況では、例年のように「堅守」を強く打ち出したとしても、果たして成果が出るのかという疑問もある。「とにかく守ればいい」「なぜ守らないのか」などとは一概に言えないチーム構成になっている。
とはいえ、現状は残り1試合。最終節のC大阪戦を意地でも勝つ、大宮にとって大切なことはそれだけだ。「伝統の守備力か攻撃サッカーへの進化か」などと言っても仕方ない。むしろ、現状の大宮が持つ「これまでとは違う」一面をプラスに捉える必要がある。
これまでの大宮なら先制される可能性は低いが、取られてしまえばダメージは大きかった。だが、今の大宮は最後の最後まで点を奪いに行ける力がある。ムルジャ、ズラタンというJリーグ屈指の2トップの後ろに、家長昭博という怪物MFもいる。家長は前節の名古屋戦で、当たりの強さを守備にも生かし、大車輪の働きを見せていた。2試合連続得点のMF橋本晃司にも期待ができる。どんなアクシデントが起きようとも、攻守に積極的に戦うことで、彼らのゴールが生まれると信じることができる。
攻めるのか? 守るのか?
いや、いずれの局面においても今のチームはアグレッシブに行くしかない。今季の残留争いの苦しみは、勝っても負けても反省材料となるが、残留王の反省の仕方は、前者であるべきだ。「負けない」大宮ではなく、「勝つ」大宮を見せる。
ここで奇跡を起こしてこそ、大宮アルディージャである。
平野貴也
1979年3月1日生まれ。東京都出身(割りと京都育ち)。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者を経験。1カ月のアルバイト契約だったが、最終的に6年半居座る。2008年に独立。フリーライターとして大宮のオフィシャルライターを務めつつ、サッカーに限らず幅広く取材。どんなスポーツであれ、「熱い試合」以外は興味なし。愛称の「軍曹」は、自衛隊サッカー大会を熱く取材し続ける中で付けられたもの。