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【フットボール・ブレス・ユー】第8回 遠くから思っている(東京Vコラム)

2016 06/24  07:43

有料WEBマガジン『タグマ!』編集部の許可の元、タグマ!に掲載されているJリーグクラブ有料記事を全文掲載させていただいておりますこの企画。
今回は東京ヴェルディを中心としたWEBマガジン「スタンド・バイ・グリーン」から高木大輔選手に関する記事になります。



【無料記事】【フットボール・ブレス・ユー】第8回 遠くから思っている(2016/06/23)スタンド・バイ・グリーン
2016年06月23日更新

第8回 遠くから思っている

6月13日、アルビレックス新潟は次のようなプレスリリースを出した。〈早川史哉選手の病状検査結果について〉。病名は急性白血病。これを知ってすぐさまアクションを起こしたのは、U‐16日本代表からのチームメイトで、2011年のFIFA U‐17ワールドカップで早川とともに戦った高木大輔だ。クラブと選手会に掛け合い、19日の第19節の京都サンガF.C.戦から「早川選手支援基金募金」を実施した。さすがの行動力である。

「フミヤくんは早生まれで、学年は僕のふたつ上。明るくて前向きで、言葉が多いわけではないんですけど、プレーでみんなを引っ張ってくれる存在でした。メンバーのなかでは一番年上なのに、これっぽっちも威張らない。むしろ、周りがこぞっていじりまくり、本人もそれを楽しめるタイプ」

なるほど、早川の人物像の輪郭が浮かぶ。そうそう、と高木大が言葉を続けた。

「U‐17ワールドカップのアジア最終予選、そのゲーム、フミヤくんはサイドバックで出場していたのかな。試合中、『ちょっとすみません!』と審判に言ってトイレに行き、すぐに帰ってきたことがあった。そんなの見たことがない。すげえなって笑っちゃいましたよ」

早川は新潟ユースから筑波大に進学し、新潟に加入している。いつか選手を引退したあとは、教職の道に進みたいと語っていたそうだ。

「U‐17日本代表のチームが解散するときの寄せ書きには、『おれの生徒になれ!』と書かれていました。えっ、なにそれって、まじまじと文字を見ちゃいましたね。チームになじめていない人にさりげなく声をかける気遣い。どんなときでも謙虚さを忘れない態度。そういったフミヤくんの姿勢は見習いたいと思って、これまでやってきました。真面目な人だから、身体のことにもきちんと向き合うはず。必ず、またピッチで会える。僕はそう信じています」

高木大は早川門下生になるのもやぶさかではないようだが、それはずっと先でいいと考えているだろう。

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U‐16、U‐17日本代表で早川史哉とチームメイトだった高木大輔。

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早川史哉とは古い付き合いの楠美圭史。

「フミヤと初めて会ったのは、JFAのエリートプログラムで招集されたときですね。僕が中1で、彼が中2。あいつは誰とでも仲よくなれるタイプで、僕ともすぐに打ち解けて名前を呼び捨てにする関係になった。さまざまなポジションができ、チームのためにやれることを骨惜しみしない。どこでも絶対にひとりは必要とされる選手です。やがてU‐15日本代表が結成され、少しずつメンバーが入れ替わっていくなか、最初から生き残ったのがフィールドでは僕らだけだったんですよ。自然と一緒にいる時間は長くなった」

ひとつの区切りとなるFIFA U‐17ワールドカップ、楠美は腰を痛めた影響もあってメンバー入りはならなかった。

この記事は人から人へと伝わり、やがて早川のもとまで届くかもしれない。ぽつねんと物思いにふけったり、ひとりで過ごすのが心細く、しんどい夜もあるだろう。どうせなら、ほんのつかの間でも、ふっと心が軽くなるような話を届けたいね。

「U‐16日本代表のフランス遠征に行ったとき、僕ら大ピンチになったことがあって」

楠美は「もう時効ですよね」と話し始めた。

時刻は夜10時を過ぎていた。規則では部屋にいなければいけない時間だが、ホテルと隣接する施設に遅くまで営業しているコーヒーショップがあり、数人でこっそり抜け出してお茶でもしようとしゃれこんだのである。発案者は早川。性格的におちゃめなところがあった。

異国での深夜のティータイムにテンションが上がり、ちょっとした大人の気分を味わったいたずらっ子たち。たわいもない話にげらげら笑い、楽しい時間はあっという間に過ぎた。気がつけば出入り口はすべて施錠され、建物内に閉じ込められていた。

このまま動きが取れなければどうなる。朝の集合時間には確実に間に合わないぞ。楠美は青くなった。吉武博文監督はわりとシャレのわかる人物だったが、引き締め役として厳格なスタッフがチームに帯同していた。

もしこの事態が発覚したら、どれだけどやされるのか。大声で助けを呼ぶことは避けたかった。背伸びしていきがってみせたところで、そこはまだ子どもである。右往左往、慌てふためき、震え上がった。

「誰かが、上のほうに小さな窓を見つけたんです。高さは3、4メートルあったけど、ここしかないんじゃないかと」

さあ、知恵を絞れと少年たちは頭を寄せ合った。肩車か、それとも組体操のピラミッドのようなチームプレー? いや、高さがまったく足りないな。結局、テーブルと椅子をいくつか積み上げ、どうにか脱出に成功した。

日本では考えられないようなことが海外では起きる。そうして楠美や早川らは、文化の違いの一端を学んだ。宿舎の過ごし方でよく聞く、日本から持ち込んだDVDを部屋でおとなしく観ているよりはるかに有意義だと僕は思う。

前年のオーストラリア遠征ではこんなことがあった。

「フミヤがどこから聞きつけたのか、夜明けの時間、ホテルの近くで野生のカンガルーが見られるらしいと言ってきたんです」

もともと楠美には人付き合いのいいところがある。「朝4時、遅れるなよ」と早川から言われ、マジかよ、眠いよと思いつつ、せっかくだから野生のカンガルーを見てみたい気になっていた。

「まだ日も昇ってないうちから、カンガルーを探して周辺をほっつき歩く。それを一週間、毎日ですよ」

オーストラリアの広大な大地に降り立った、ふたりの少年。薄闇のなか、寝ぼけまなこをこすりながら、カンガルー、カンガルーときょろきょろしながら歩く様子が目に浮かぶようだ。

「あんだけ時間をかけたのに、とうとうカンガルーには会えなかった。収穫ゼロ! おれら、いったい何をやってんだよと」

楠美は楽しげに回想する。〈うまく行く恋なんて恋じゃない〉と書いたの作詞家の故・阿久悠。叶わなかったからこそ、心に深く刻まれるものってあるんだよ。違うか。

早川の病状を知った楠美は、すぐに連絡するのをためらい、殺到しているだろうお見舞いがひと段落したところを見計らって〈元気?笑〉とLINEでメッセージを送っている。シリアスな状況に際し、どんな言葉がいいのだろうをあれこれ思い浮かべ、何周もした末の〈元気?笑〉である。特別な配慮は、かえって相手に負担だろうと考えた。すぐに〈元気だよ!笑〉と早川から返信があった。

「こんな言い方はヘンなんですけど、ほかの誰かだったらへこたれちゃうかもしれない、大変なこと。でも、フミヤならきっと乗り越えられる。ピッチに戻ってきて、また一緒にサッカーができる。僕は自分のやるべきことをしっかりやります。あいつから『おれの分まで頑張ってくれ』と言われ、その言葉に応えないわけにはいかない」



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木村哲也(IP:49.97.99.84)

J1に行くこと信じてます。逆風の真っ只中にいる感じですが、平気な顔して乗り越えましょう。東京はFCじゃダメなんですよ。ヴェルディが東京を代表するチームなんですよ。苦しい時こそ涼しい顔して乗り越えましょう。J1優勝が目標ですよ。

2016年6月28日 19:16

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