【徹マガ】EURO 2016取材と「セルフポートレイト」 短期連載『徹壱の仏蘭西日記』最終回 6月20日(月)@リヨン
2016 06/22 05:42
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今回は宇都宮徹壱公式メールマガジン「徹マガ」からEURO 2016取材に関する記事になります。
【無料記事】EURO 2016取材と「セルフポートレイト」 短期連載『徹壱の仏蘭西日記』最終回 6月20日(月)@リヨン(徹マガ)
2016年06月21日更新
■「原点回帰」となったフランスでの日々
フランス滞在10日目。今日の夜、リヨン・サン=テグジュペリ空港(『星の王子さま』の作者はリヨン生まれである)からドバイ経由で帰国する。この日、リヨン・パール・デュー駅周辺では、サンテティエンヌでのスロバキア戦に向かうイングランドサポーターを多数見かけた。しかし今日は彼らを追いかけることはせず、あえてサッカーから離れてリヨン観光を楽しむことにした。訪れたのは、ソーヌ川沿いにあるユネスコの世界遺産にも登録されている旧市街、そしてリヨン美術館。ただし美術館についてはコレクションが膨大だったので、企画展のみを鑑賞した(内容については後述)。
さて、最終回となる今回は、私にとってのEURO 2016取材について、現時点での総括を行うことにしたい。ただし「総括」といっても、ピッチ内についてではなく、取材を終えた自分自身についてであることをあらかじめお断りしておく。前回大会から参加国が8チーム増えて24カ国となった今大会。出場国の中には、アルバニアや北アイルランドのように、普段なかなかお目にかかれないナショナルチームも少なくない。そんな彼らの戦いぶり(選手のみならずサポーターも含めて)を、この機会に現地で観ておきたいというのが、今回の取材の主目的であった。
フランスでの滞在を大会の前半に絞ったのは、EUROのニューカマーたちを(彼らが脱落する前に)観ておきたかったからだ。また10日間という取材期間についても、あまり長すぎると現地の空気に慣れて倦んでくるし、滞在や移動にかかる費用だって馬鹿にならない。そう考えると、タイミングについても滞在期間についても、私にとっては極めて適正であった。大会そのものは、まだグループリーグのゲームが残っており、本当の盛り上がりはこれからである。しかしながら、私の中では「当初の目的は果たせた」と認識しているので、決勝トーナメントについては帰国後にTV桟敷でのんびり観戦することにしたい。
ところで今回の取材は、私にとって「原点回帰」の意味合いが非常に濃厚なものとなった。EUROという大会を現地観戦するのは、2004年のポルトガル大会以来8年ぶり。フランス各地を回りながらファンゾーンでサポーターの写真を撮るのも、98年のワールドカップ・フランス大会以来18年ぶりである。また、現地で出会ったさまざまな国のサポーターを撮影しながら、彼らの祖国を旅した記憶が鮮明に蘇ることもたびたびあった。そうした日々の出来事を『日々是』形式でアップすることもまた、私にとって「原点回帰」そのものであったと言ってよい。
■セルフポートレイト=客体化するということ
それにしても、自分が30代から40代にかけてやってきた仕事を、なぜ50歳になった今になってトレースしようとしたのだろう? 実は最近まで、自分でもよく理解していなかった。ようやく腑に落ちたのは、今日たまたま訪れたリヨン美術館でのこと。私が鑑賞したのは『Exposition Autoportraits, de Rembrandt au selfie』といって、レンブラントをはじめとする古今の画家や写真家やアーティストのセルフポートレイトを集めた企画展であった。個人的には、戦前のパリで活躍した藤田嗣治、写真を始めた頃に少なからぬ影響を受けたロバート・メイプルソープ、そして元ユーリズミックスのアニー・レノックスのセルフポートレイトに新鮮な懐かしさを覚えた。
表現者はなぜ、自分自身を描き続けるのだろうか? それは人間にとって、自分自身の客体化が難しいテーマであるからだろう。自分自身が何者で、どのような状態にあって、どこに向かおうとしているのか──。それらを知ることは、実は表現者にとって必須なのかもしれない。私自身に関して言えば、自分を撮影することはまずしないし、いわゆる「自撮り」も大嫌いである。とはいえ、自分の写真や文章から自身を客体化することは可能だし、その繰り返しこそが自分自身にとっての表現であると心得ている。そうして考えるなら、過去の活動をなぞるような今回のEURO取材は、まさに自分自身の客体化であり、ある意味「セルフポートレイト」のような役割を果たしていたのではないかと思い当たった。
おそらく私は、セルフポートレイトの必要性というものを、無意識のうちに迫られていたのではないか。思えば『徹マガ』が創刊した2010年以降、私はずっと脇目もふらずに突っ走ってきた。そして気がついたら、今年はフリーランスになって20年目、そして3月には50歳になった。取材パスも持たず、それゆえあまり仕事にもならず、赤字覚悟で臨んだ今回のEURO取材。しかし過去の自分の仕事を重ねることで、フリーランス20年目、そして50歳になった自分の「ありのままの姿」というものを再確認することができた。今は具体的な言及を避けるが「できること/できないこと」、あるいは「やるべきこと/やらなくてよいこと」といったものが、より明確になったような気がする。
幸運なことに、これまでの私の人生は、節目節目で自分を客体化する機会に恵まれてきたように思う。そしてそれは、自分から求めたというよりも、「気がついたらそうなっていた」ことのほうが圧倒的に多かった。今回についても、あまり明確な目標を掲げないままフランスにやって来て、帰国する直前になって、そのことに気付かされた。本稿がアップされる21日は、『宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)』創刊の10日前。いよいよ本格的なカウントダウンが始まる。EURO取材から心機一転、ここから新たな冒険をスタートできる喜びを、ボーディング直前のリヨン・サン=テグジュペリ空港で密かに噛み締めている。
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