これでもザハが悪いのか? 問われるサッカーファンのリテラシー【澤山大輔:徹マガ編集長】
2015 08/05 07:02
有料WEBマガジン『タグマ!』編集部の許可の元、タグマ!に掲載されているJリーグクラブ有料記事を全文掲載させていただいておりますこの企画。
今回は宇都宮徹壱公式メールマガジン「徹マガ」から新国立競技場問題に関する記事になります。
※無料記事※ これでもザハが悪いのか? 問われるサッカーファンのリテラシー(徹マガ)
2015年08月04日更新
Photo byForgemind ArchiMedia
現在、徹マガ編集長の私(澤山大輔)にとって今ホットな話題は、やはり新国立競技場問題だ。徹マガでは、恐らくサッカーメディアの中では最も早い部類でこの問題を取り上げてきた。熱心にお読みの方なら、「ザハ・ハディドは悪者だ」という話がいかに情報をねじ曲げられ、過度に単純化されたものかはお分かりだと思う(むろん、ザハ案に全く問題がないわけではない。詳しくは私が編集長を務めるアスリートナレッジでの千田善さん×またろさん対談をご参照のこと )。
そのザハ・ハディド氏が運営するザハ・ハディド・アーキテクツ(以下ZHA)が、新国立競技場に関するステートメントを出していることは既報のとおり。で、いつのタイミングかはわからないが日本語訳も出ていた。こちらは、コピー&ペーストができないようになっている。むろんコピペする方法はあるが、それは先方の意にそぐわないと考えるので、ここではあくまでポイントを箇条書きで絞る形で紹介する。本文はサイトを直接お読みいただきたい。
http://www.zaha-hadid.com/2015/07/28/new-national-stadium-tokyo-japan-statement-by-zaha-hadid-architects/
重要な点は幾つかある。
●当初はスポーツイベントや文化イベントで利用されるはずだった
●スタジアムはフレキシブルな設計にされるはずだった
当初のビジョンは、JSCのサイトに公開されている。安藤忠雄氏のコメントにもあるが、「新しい時代の希望の灯台になる、造形的にもシンボル的なプロジェクトが多くの施設に反映されるような思い切ったアイデアがほしい」「スピーディに集められ、スピーディに帰ってもらえる」「競技場でありながら多目的に使える」......。
しかしながら、これらは頓挫した。
●見積書を提出する前に建築業者が決定された
●ZHAはそのやり方ではコストが上がると警告した
●JSCにその警告は聞き入れられなかった
これは上記のとおり。
●ZHAはコスト削減の提案を何度も行なった
●7月7日に予算と設計は政府によって承認
●その後、コストを下げる要請はなかった
そして、次の箇所は最も重要だ。
●7月7日付で、競技場有識者会議にJSCが報告書提出
●そこに「見積増大の主な理由はデザイン」との記述
●ZHAはただちにそこに異議を唱えた
つまり、ザハはJSC側が不正確な記述で自分たちに不利な報告を作ったことを認識している。当然ながら、これだけこなれた日本語能力を操るスタッフがいる以上、日本国内で自身が悪者扱いされていたことも認識しているだろう。
それを踏まえて、8月2日に放送されたテレビ朝日系『サンデースクランブル』に出演した遠藤利明五輪相の「ザハ氏は特別扱いしない」というコメントを読むと、いかにこの国がずさんな報道を行ない、世界有数の建築家の名誉を傷つけただけでなく、何度も助け舟を出されながらもその手を振りほどこうとしているかが理解できるのではないだろうか(ちなみに2015年8月4日午前1:41時点で、ZHAが訴訟を提起したというニュースはまだ入っていない。今後も入らないことを祈るのみである)。
タイトルに「問われるサッカーファンのリテラシー」と付けたが、これは新国立競技場を主に使うのは恐らくサッカーだと目されるためだ。サッカー日本代表、なでしこ、年代別代表、Jリーグ(主にFC東京、浦和レッズなど)が利用する可能性が高いのはもちろんだが、JFAは
http://www.asahi.com/articles/ASH7X45L8H7XUTQP00S.html
>協会は将来的に男子のワールドカップ(W杯)の招致を視野に入れており、8万人の収容能力、観客席を覆う屋根、陸上トラックにせり出す可動席の設置を求めた。
固定席ではないものの、可動式で8万人の収容能力を要求したことが報じられている。一方、陸上は常設サブトラック設置が断念と報じられており、建築家筋からはサッカー専用スタジアムにすべきではないかという声も挙がっている。つまり、世間的に見て、新国立競技場に関してサッカーファンはもはや当事者であり、対岸の火事として見てはいられないということなのだ。
徹マガの読者で、まだ「ザハのせいで」と思っている方はいないと思うが、もしいたとしたら、その認識はとりあえず捨てたほうが賢明だ。めまぐるしく状況が変わる中、今問われているのは当事者としてどのような新国立競技場を望むのか、可能な限りの誠実さではないかと思う。
「徹マガ」ではこのほかにも下記の記事などを掲載中です。
タグマ限定:激写!「永遠のサッカー小僧」たち 「松田直樹メモリアルゲーム」フォトレポート
http://www.targma.jp/tetsumaga/2015/08/04/post462/
徹一から徹壱へ──徹マガ版『私の履歴書』 第7回 初めての海外旅行、就活、そして一人暮らし(1991~92年)
http://www.targma.jp/tetsumaga/2015/08/04/post361/
なぜインドには2つの国内リーグがあるのか? 末岡龍二&和泉新(プネーFC)インタビュー<後篇>
http://www.targma.jp/tetsumaga/2015/08/03/post363/