クレイジーのヒトコト(国際ユースサッカーin新潟での出来事から考える)【徹マガ】
2015 08/01 07:33
有料WEBマガジン『タグマ!』編集部の許可の元、タグマ!に掲載されているJリーグクラブ有料記事を全文掲載させていただいておりますこの企画。
今回は宇都宮徹壱公式メールマガジン「徹マガ」から「国際ユースサッカーin新潟」に関する記事になります。
クレイジーのヒトコト/徹マガ編集後記(丸山龍也)(徹マガ)
2015年07月30日更新
今号も最後までお読み頂き、ありがとうございます。徹マガアンバサダーの丸山です。現在、プレーするリトアニアリーグがオフということもあり一時帰国をしていますが、オフとは言えアスリートの身。毎日、横浜を拠点に灼熱の日差しに焦がされながらみっちりトレーニングに勤しんでおります。
4チームで20分1本を総当り、体調を考慮するため十分に休憩を取りながら計3本60分を戦うという変則的な練習試合をプレーし、ヨーロッパから帰ってきた僕にはキツイこの酷暑で身も心もヘトヘトになっていた頃、耳に飛び込んできたのが巻頭コラムと編集長コラムでも触れられた『国際ユースサッカーin新潟』でのニュースでした。
このニュースに関してSNS上では大会のレギュレーションへの批判が殺到していましたが、僕が当初、脊髄反射的に感じたのは「セルビアの監督は何を考えてるんだ?」ということ。90分のゲームが3日続くのは以前からわかっているはずなのに、どうして対策を打たなかったのか、監督やスタッフへの批判的な感想がまず浮かびました。
対策というのはターンオーバーであったり、交替枠の活用であったり、ハーフタイムなどでのチームマネジメントなどのこと。与えられた状況の中で仕事をするのがスタッフの役割で、その点から考えると現場に生きる人間の意見として、選手が倒れた一番の原因は監督にあると考えました。
しかし調べてみると、大会登録は18人、しかもセルビアは怪我人も抱えていて満足に交替カードも切れず、非情に苦しい台所事情だったようです。その中でも、セルビアのイヴァン・トミッチ監督は前半に給水タイムを2回設けることを強く希望するなど、出来る限りの努力をしているようでした。
この「給水タイムを前半で2回行う」というのは、かなり異例のことです。僕自身、そのようなケースは今回はじめて聞きましたし、それをアウェイの地で意見し、見事要求を通したトミッチ監督は、それだけで世界トップレベルの指導者だと感じます。
その後試合続行を拒否したり、大会のありかたについてもメディアを通してしっかり批判したりしていますが、これらも素晴らしいことです。熱中症で搬送された選手だけでなく、U-17セルビア代表の全選手が、少なからず責任を感じているはずです。遠く日本まで来て優勝を目指して戦ったのに、最後まで戦えないで大会を終えるわけですから、身体以上に心のショックも大きい。でもそこで監督が「悪いのは大会であり、お前たちのことは誇りに思う」というメッセージをメディアに示すことで、どれだけの選手が救われるでしょうか。
と同時にこういう対応を出来る日本人指導者が果たして何人いるのか? という疑問も湧きます。「吐くまで走れ」「倒れるまで続けろ」「限界を超えろ」──僕自身もこうやって指導されてきましたし、そのぐらいの意気込みでトレーニングして手に入れたものもたくさんあります。ですから一概に指導方法の批判はしたくないのですが、倒れるまで続けた結果が冗談では済まないものになるということは、あらためて肝に銘じないといけません。チームの指導者というのは、トミッチ監督のように選手を守る"ボス"であるべきだと思いますが、どうしても日本だとその意味合いは薄れてしまいます。
20歳の頃、当時2度目の靭帯断裂で長期離脱していた僕が、プレーすること以外からサッカーを学ぼうと、バルセロナやオランダ代表のフィジカルコーチを勤めたレイモンド氏のセミナーに勉強しに行ったことがありました。
レイモンド氏は選手のコンディションを作るトッププロで、怪我人をほとんど出さずにシーズンやトーナメントを終わらせた実績が数多くある超有能コーチです。そのセミナーの終盤、とある日本人指導者がレイモンド氏に質問をしました。内容は「日本の高校生は、どうしても中1日や連日フルマッチを行わなければいけない大会が数多くある。どうやって彼らのコンディションを整えたらいいか?」というものでした。通訳がオランダ語に翻訳し、少しばかり会場に沈黙が流れた後、レイモンドが発した言葉が今も忘れられません。
「Crazy」──。その大会が全国大会だろうと、注目度が高かろうと、テレビ放送があろうと。もし私のチームが出場してその日程なら、私がそれをキャンセルする。それがレイモンド氏の答えでした。当時大怪我をしてリハビリ中だった僕は、そのプレイヤーズファーストの考え方に、こんなにも選手思いの素晴らしい指導者がいるのかと、思わず涙腺が緩んだことを記憶しています。
週に1度でも続けば大変な45分ハーフを、この高温多湿の真っ昼間に3日連続で、しかも17歳や16歳の子どもに国を背負わせやらせるなんて残酷なことを、誰が考えたのでしょうか。この想像もつかない地獄絵図のような状況で戦った、U-17日本代表、U-17メキシコ代表、新潟県選抜、そしてU-17セルビア代表には、同じプレイヤーとして心から敬意を表します。
登録メンバーを増やすのか、プレー時間を減らすのか、時期をズラすのか、改善方法はいくらでもあります。レギュレーションうんたらの話ではなく、これは虐待であり暴力であり、死人が出る可能性も通常の何十倍です。それを運営側には強く認識してもらい、次回大会はより素晴らしい大会になることを、心から祈ります。(丸山龍也)
「徹マガ」ではこのほかにも下記の記事などを掲載中です。
タグマでの配信を始めます! 徹マガ通巻250号突破の御礼とご報告
http://www.targma.jp/tetsumaga/2015/08/01/post368/
過去記事:「井の中の蛙になるわけにはいかないのよ」 一平くん(愛媛FC非公式マスコット)インタビュー<前篇>[2013年04月16日 143号掲載]
http://www.targma.jp/tetsumaga/2015/07/30/post386/
過去記事:2013東アジアカップ備忘録 /コラムに触れられなかったソウルでの日々(後篇)[2013年07月26日号(通巻第156号)掲載]
http://www.targma.jp/tetsumaga/2015/07/30/post381/