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「無冠とオサラバ」という切実な想い 今日の現場から(2016年11月3日@等々力)【宇都宮徹壱WM】
2016 11/05 07:42
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今回は宇都宮徹壱ウェブマガジン「宇都宮徹壱ウェブマガジン」から川崎フロンターレ対ガンバ大阪戦に関する記事になります。
【無料記事】「無冠とオサラバ」という切実な想い 今日の現場から(2016年11月3日@等々力)(宇都宮徹壱ウェブマガジン)
2016年11月04日更新
あれほど求めて止まなかったタイトルが、またしても掌からこぼれ落ちてしまった。
文化の日の祝日となった11月3日は、等々力陸上競技場にて川崎フロンターレ対ガンバ大阪を取材。早いものでJ1のレギュラーシーズンはこれが最終節である。すでにセカンドステージ優勝は浦和レッズに決まり、この日の注目は年間順位王者とJ2降格の1枠をめぐる攻防に絞られていた。首位浦和を1ポイント差で追う川崎は、開始早々の6分に長谷川竜也のゴールで先制。18分に三好康児が追加点を挙げたときには、等々力のスタンドは楽勝ムードに溢れていた。
裏の試合では、浦和が横浜F・マリノスの固い守備に手を焼き、0-0の均衡が続いている。後半に入っても、三好や大久保嘉人のシュートがバーやポストを直撃するなど、川崎の攻撃陣は躍動を続けていた。ところが、65分と66分に相次いで失点。ここから一気に雲行きが怪しくなる。そして76分、アデミウソンに逆転ゴールを奪われると、川崎のリズムは完全に崩壊してしまった。今季、先制して一度も負けなかった川崎であったが、この重要な一戦で初めての逆転負け。年間王者の座は、F・マリノスと1-1で引き分けた浦和のものとなった。
川崎にとって、今季の初タイトル獲得は、例年以上に重たい意味を持っていた。今年はクラブ設立20年。就任5年目の風間八宏監督の退任もすでに決まっている。3年連続の得点王に輝いた大久保はFC東京への移籍が濃厚。フロントに目を転じると、「川崎の顔」とも言えるプロモーション部の天野春果氏が東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会に出向するため、今季限りでクラブを離れる。その天野氏が長年携わってきた陸前高田市への復興支援も、5年目の今年で一区切りついた。高田の人々と一緒にタイトル獲得の喜びを分かち合いたいという想いは、クラブスタッフ全員が共有していたはずだ。
川崎にとって救いなのは、今季はCS(チャンピオンシップ)というチャンスが残されていることだ。クラブ関係者も、そしてサポーターも、おそらくはCSよりも年間王者となることに重きを置いていたことだろう。しかし、今季の目標はあくまで「タイトル獲得」。その想いは切実だ。試合後のセレモニーで流れた、CSのプロモーションビデオに「無冠とオサラバ」という文字が踊ったとき、微量の自虐性を嗅ぎ取った一部サポーターの間から失笑が漏れた。とはいえ最後のCSが開催される年に、川崎がクラブ一丸となってタイトル奪取に挑むことに、何とも暗示めいたものが感じられてならないのも事実である。
「ウチはまだまだ伸びているチーム。悔しいけれど、財産になるゲームだった」と風間監督。ファーストステージの覇者、鹿島アントラーズを等々力に迎えるCS準決勝は11月23日である。この試合で得た財産を糧に、20日間という奇妙に長いインターバルをどう活かしながら「無冠とオサラバ」を実現させるのだろうか。いずれにせよ、タイトルに飢えた川崎がトーナメントに加わったことで、最後のCSは思いのほか盛り上がりそうな気配を感じる。
<この稿、了>
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