なぜ小倉隆史監督なのか?その指導力とは?就任報道について思うこと(尾張名古屋の健筆家・今井雄一朗による一言解説)
2015 10/16 12:01
既に今季での契約満了が伝えられている西野監督に代わり来季から小倉隆史氏が名古屋グランパスの監督に就任するのではと報じられています。
小倉GM補佐、グランパス新監督へ(中日スポーツ)
名古屋グランパスの来季の新監督に小倉隆史GM補佐(42)が就任することが確実になった。
【尾張名古屋の健筆家・今井雄一朗による一言解説】
西野朗監督の退任が決まって以降、何人かの選手と話している中では「日本人監督はコミュニケーションがとりやすい」という意見を聞いており、自分も取材する立場として同感だとは思っていましたが、その人選として小倉隆史GM補佐はやや意外に感じました。
なぜなら小倉GM補佐の就任にあたっては久米一正社長はじめ、クラブとして現場出身のGMを育てるという意気込みが強く感じられていたからです。久米社長は「グランパスOBの人材を育てていかなければという大義がありました」とまで語っていましたし、まだGM補佐としての仕事はほとんど具体化していない中で、なぜこのタイミングなのだろうという疑問も感じました。小倉GM補佐はGM業の勉強を、まだ始めたばかりです。
ではどうして小倉GM補佐だったのか。一つには監督探しが難航したことが考えられます。今季は残り4試合を残すのみとなり、天皇杯もない名古屋は11月22日にはシーズンが終わってしまいます。来季の指導は1月中旬なので、オフ期間は約2ヵ月もの長さになります。チーム編成のことを考えると早めに動きたいところですが、監督が決まらなければ編成ができません。クラブ主導で用意した戦力を指揮する難しさは、西野朗監督の例を挙げるまでもないでしょう。そこで、S級ライセンスを持つ小倉GM補佐に白羽の矢が立ったことは想像に難くありません。現チームの戦力を現場レベルで知っている上に、編成担当メンバーとしてスカウト陣の情報も把握している人物が現場のトップになるならば、編成における効率の良さは抜群です。
しかしもちろん、報道にあるようにGMと監督を同時にこなすというのは生半可な仕事ではありません。小倉GM補佐はGMとしてはまだ駆け出しであり、監督は未経験です。その実力は未知数としか言いようがないのは確かです。
ただし、こと個人への指導力と指導に対する熱意は、すでに発揮してもいます。GM補佐就任後間もなくに行われた岐阜県・飛騨古川キャンプでは毎日早くからピッチに姿を見せ、時間を見つけては選手との対話を重ねていました。あまりに熱が入りすぎて西野監督から「コーチの立場を考えろ」と釘を刺されたほどです。そのキャンプではGM補佐として選手全員と面談を行っており、選手の内面も把握ずみ。普段のトレーニングもピッチサイドで頻繁に見ていますし、現場への熱意は抑えているとはいえ、内側でたぎってもいたのでしょう。
指導力に関しても、数人の選手にはかなり具体的なアドバイスを送り、成長に導いています。例えば今季後半戦で主力の座を奪った磯村亮太は「お前は周囲の状況が見えていない。ボールをもらう前に全体を把握しろと言われて、感覚が良くなったんです」ときっかけを与えてくれた小倉GM補佐に感謝していました。また、やはり同じFWの選手は特に気になるのか、試合後には必ずと言っていいほど川又堅碁と話し込む姿が見られます。川又本人もアドバイスを受けていることを明かしていますし、それが2ndステージ序盤の5試合連続得点につながったのはタイミング的にも間違いありません。テレビ解説などで理論を言語化する力は養ってきた人物だけに、同様の経歴を持つ川崎Fの風間八尋監督のように、対選手、つまりコーチ的な指導力はすでに持っているのかもしれません。
それでもチームの指揮を執る"監督"としての資質は未知数です。もしGM兼任となれば編成の責任と成績の責任をダブルで背負う重圧にも耐えなければいけません。これはクラブとしても賭けに近い起用であることは間違いないですし、それだけの覚悟を伴った決断と言えるでしょう。
今井雄一朗
1979年生まれの黄金世代の端くれ。14年間の雑誌編集を経て2015年に独立。名古屋グランパス応援メディア「赤鯱新報」を軸足に置きつつ愛知県のスポーツ取材を行っている。2012年から2015年の4年間は「名古屋グランパスオフィシャルイヤーブック」をほぼ一人で編集・ライティング。