情熱の分析家・河治良幸の一言解説

　残留争いの終盤戦に向けて、韓国代表級MFの加入が松本山雅にとって大きな「補強」であることは間違いありません。純粋に実力を評価すれば、優勝を争うチームでも十分に主力が務まる選手であり、チームに欠けている武器を持ったキム・ボギョンを迅速に引っ張りこんだフロント陣は高く評価するべきでしょう。

　かつてセレッソ大阪と大分トリニータでプレーした経験があるキム・ボギョン。思い出すのはロンドン五輪後にセレッソ大阪からのカーディフ（本拠地はウェールズだがイングランドのFAに所属）に移籍することになった2012年のJリーグにおいて、相手のＤＦがファウル以外でなかなか止められないドリブルなど、圧巻のパフォーマンスを披露していました。特に5-0でC大阪が勝利した、サガン鳥栖との試合は圧倒的だった記憶があります。

　キム・ボギョンが加入した当時のカーディフはチャンピオンシップ（実質英2部）でしたが、そこで主力としてプレミアリーグ昇格に貢献。昇格後も存在感を見せていましたが、チームは再び降格してしまい、同じチャンピオンシップのウィガンに移籍したものの、チームをプレミアリーグへ導くことはできませんでした。

　英国の労働ビザの延長許可が下りず、急きょオランダのPSVでテストを受けたものの加入かなわず、キプロスの名門アノルトシスへの移籍も合意に至らなかったと聞きます。ただ、高い技術に強さも備える選手だけに、コンディションに問題がなければ現在も十分に欧州のトップリーグで活躍できる実力は備えているはずです。

　キム・ボギョン本人には無念な思いもあったとは思いますが、ここでJリーグに戻ってきたのも何かの縁でしょう。松本山雅はドリブルで勝負できる前田直輝や夏に加入した工藤浩平もいますが、ディフェンスの密集する中央エリアでボールを失わず、バイタルエリアで決定的な仕事をできる選手は不足していました。早期にフィットすれば残留のラストピースになりえます。

　繰り返しになりますが、Jリーグの環境に慣れており、優勝争いをしているクラブでも主力を担いうる選手です。Jリーグで活躍すれば、今年3月のニュージーランド戦の後から遠ざかっている韓国代表に復帰できる可能性も十分にあるインターナショナルなタレントです。

　今季の最終結果がどうなるかは分かりませんが、松本山雅のフロントには改めて「素晴らしい仕事をしました」と賞賛の言葉を贈りたいです。12日の湘南戦から楽しみですね。