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そのポジションを「ボランチ」と呼ばないで【川本梅花】

2017 03/02  08:03

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今回はWEBマガジン「川本梅花 フットボールタクティクス」からショートコラムになります。



【時間の暴走】第8話:そのポジションを「ボランチ」と呼ばないで川本梅花 フットボールタクティクス
2017年02月28日更新


フットボールショートコラム【時間の暴走】第8話
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2017年2月2日に他界された、日本サッカー協会元会長の岡野俊一郎氏に関する原稿の準備をしていた時、岡野氏が「ボランチ」という呼び名に関して、異議を唱えていた談話を目にした。

ポルトガル語の「ボランチ」は、日本語では「かじ取り」や「ハンドル」の意味になる。サッカーの中では「中盤に位置し比較的自由に動いて、相手の攻撃を早期につぶし、味方の攻撃の起点となる働きをする選手」となろう。つまり、「ボランチ」という用語は、「ポジション」の名称ではなく、「選手の役割」を示す用語である。

しかし、サッカー中継では、しゃべる方も聞く方も、なんの疑いもなく「ボランチ」という用語を使っている。それも、「ミッドフィルダー(MF)」と同じような意味合いで、「ポジション」の用語として置き換えて使用する。岡野氏の以下の指摘を見てみよう。

「FIFA(国際サッカー連盟)の公式記録を見れば、すぐに分かることですよ。GK、DF、MF、そしてFW。どこにもボランチなんて言葉は見当たらない。日本は外国の新しい言葉を喜んで使う傾向があるけど、これはとんでもない話でね。役割としてボランチを使うのはいいけど、ポジションとして使っちゃあダメだよ。その意味で言えば、サッカーの解説者はその道の専門家なのだから、もっともっと言葉というものを勉強しないといけない」

ここで述べられていることは全くの正論である。僕は、文章を書く際、「ボランチ」という用語をできるだけ使わないようにしている。「ボランチ」の代わりに、「センターハーフ」という用語を使っている。「センターハーフ」の用語は、さまざまな歴史的な意味合いを含んでいて、フォーメーションの変遷を表していると言えるのである。

1870年代前半に主流だったフォーメーションは、「2-2-6」という並びだった。とにかく攻撃的な選手を前線に並べて戦うやり方を取り入れている。「センターハーフ」というポジションが、チームの中で重要度を増してきたのは、1878年3月30日にウェールズで行われたウェルシュカップ決勝の試合であった。決勝で戦ったのは、レクサスとドルィズ(1-0でレクサスの勝利)である。なお、この大会は、第2次世界大戦中に中断した以外、現在でも行われている。昨季(2015-16)の覇者は、ウェールズのトップリーグであるウェルシュ・プレミアリーグに所属するザ・ニュー・セインツFCである。

「センターハーフ」の話題に戻すと、1878年に行われたウェルシュカップ優勝チームのレクサスが、「2-3-5」のフォーメーションで戦ったという記録が残っている。対戦相手の、ドルィズは「2-2-6」であった。この時代の主流は、「2-2-6」であったのだが、レクサスは、6人いた前線の1人を下げて、「2-3-5」(GKを起点にピラミッド型になる)のフォーメーションを作ったのである。その後、「2-3-5」のシステムは、世界のサッカー界に普及していくと同時に、センターハーフがチームの中心となるポジションになっていく。この時のセンターハーフを、オーストリア人のサッカージャーナリストであるウィリー マイルスは、「フィールドで最も重要な男だった」と表現している。

このようなポジションであったセンターハーフが、やがてイギリスのW-Mシステムの流れによって、スイーパーのポジションに置かれる。W-Mシステムの並びは、「3-2-2-3」である。当時の選手の背番号は、ポジションの並び順に与えられていたので、「2-3-5」のフォーメーションの場合、センターハーフは、順番通りに従って5番になる。GKが1番。DF(フルバック)の2人が2番と3番。右のサイドハーフ(ハーフバック)が4番。その横のポジションにいるセンターハーフが5番になる。ちなみに、左サイドハーフが6番である。

W-Mシステムが登場したことで、真ん中のポジションにいたセンターハーフが最後尾に下がってDFの1人となり、名称をセンターハーフのままスイーパーの役割を担うことになったのである。

僕が、「センターハーフ」と呼ぶ時のポジションは、W-Mシステムの時の「センターハーフ」ではなく、「2-3-5」のフォーメーションの時の「センターハーフ」である。つまり、DFであり、アタッカーであり、チームリーダーであり、オールラウンドプレーヤーとしての役割を担う「センターハーフ」というポジションなのである。

岡野氏の言動を追いながら、「センターハーフ」に関する用語の流れを思い出した。「ボランチは役割の呼び名である」と語った岡野氏のように、言葉の使用に対して厳密でありたい、と僕は考えて、ある原稿を書いた。それは、この間、他界された岡野俊一郎氏と木之本興三氏に関する記事である。次回の『サッカー批評』(双葉社)に掲載される。

川本梅花



川本梅花 フットボールタクティクス」ではこのほかにも下記の記事などを掲載中です。


【時間の暴走】第7話:僕はすぐに写真を撮りたがる
http://www.targma.jp/baika/2017/02/20/post397/

【黄色の瞳】Note.9:取材は「ケーズデンキスタジアム水戸」より
http://www.targma.jp/baika/2017/02/12/post390/

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