【コラム】相馬直樹監督『不変のチームマネジメント』
2016 04/30 12:47
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今回はFC町田ゼルビアを中心としたWEBマガジン「町田日和」から相馬直樹監督に関する記事になります。
【コラム】J2第9節・V・ファーレン長崎戦/相馬 直樹監督『不変のチームマネジメント』(町田日和)
2016年04月24日更新
■明治安田生命J2リーグ第9節・4月23日(土)13:00キックオフ
町田市立陸上競技場/4,431人
FC町田ゼルビア 1-0 V・ファーレン長崎
【得点者】町田/76分 中島裕希
▼長崎戦2日前にのぞかせた本音
土壇場で同点弾を浴びた前節・ジェフユナイテッド千葉戦は、多大なる教訓を得た試合だった。11分という早い時間帯に奪った先制点は、左SB土岐田洸平がサイドでタメを作った谷澤達也を追い越す動きを出発点として生まれている。SBがサイドハーフを追い越す動きは、まさに相馬ゼルビアの真骨頂である。しかし、先制点を奪ったあとのチームは、相馬直樹監督が口酸っぱく説き続けている"チャレンジャー精神"を見失ったかのような戦いに終始。前節の千葉戦は最後の最後で追い付かれてしまうという結末で連勝がストップしている。
得点シーンには攻撃面におけるチームコンセプトが凝縮されている一方で、得点後の失速は"チャレンジャー精神"の喪失と無関係ではない。ポジティブな側面とネガティブな側面の同居。どうしても千葉戦は最後の最後に勝ち点3がこぼれ落ちてしまった展開だったために、終盤の失点が必要以上にフォーカスされがちな結果となった。
千葉戦から3日の時を経て、V・ファーレン長崎戦を前に報道陣の取材に応じた指揮官がある瞬間、本音をのぞかせる場面があった。取材対応の前半は、ショッキングな同点劇からいかにチームが立ち直っているのか。その状況把握とチーム再建に対するアプローチに質問が集中した。
「千葉戦の反省点をどう次の試合へつなげていくのか?」
「千葉戦後のリカバリーを経て、オフ明けの選手たちの顔付きは?」
「ここまでの準備期間のトレーニングで強調してきたことは? 」
指揮官が本音をのぞかせた瞬間は、ひとしきり以上のような質問が続いたあと、「現在の順位(当時・2位)を意識したようなアプローチをしているのか?」という質問に対する回答をしている折だった。
「基本的にはウチはゲームをやって翌日はトレーニングマッチをやって1日休んで、次の試合に向けての新たな準備期間を立ち上げる形にしている。そうする中で基本的に前節のことは試合翌日までしか話していない。見るべきものが違うんですよ。たしかに総括として、千葉戦は守りに入ってしまった部分があったし、それでは先に進まないよという話はした。でも、同じ話をまた(別の日に)選手にしても仕方がないし、とにかく前を向かせないといけない。そこ(前節の千葉戦)にフォーカスしても......。だから正直、この話をいまもしたいかというと、したくないぐらいです」
目の前の試合を"一戦必勝"のスタンスで臨むチームマネジメントを徹底している指揮官にとって、長崎戦を2日後に控えた時点では、終了間際に追い付かれた前節・千葉戦は、もはや過去の話。「変えられない過去よりも、変えられる近未来に目を向ける」という意味でも、眼前に控えている長崎戦だけに集中することが、最良の結果を生む可能性を高めることにつながるし、いつまでも過去にとらわれていては、先には進めない。過去を見過ぎることは、指揮官が標榜するチームマネジメントに対するある種の"反逆"でもある。そうした初志貫徹の下、町田の指揮官はチーム作りを進めている。
▼教訓から学んだ用兵
2014年の第二次政権発足以来、"一戦必勝"のスタンスを掲げているとはいえ、過去を振り返らずに過去のゲームから何も学ばないという類の話ではない。指揮官はミーティングの中で、千葉戦のゲームのクロージングについて、「終盤はいろいろな選択肢がある中で、別の選択肢もあったのではないかと思っている。それは申し訳なかった」と選手たちに語りかける場面があったという。そうした指揮官の意向を反映してか、長崎戦2日前の紅白戦では190cmの長身CBキム・ソンギをボランチに据える布陣をテストしていた。
76分に中島裕希が先制点を奪い、ゴールを記録した時間帯こそ違えど、今節・長崎戦も終盤まで1-0でリードしているという状況に変わりはなかった。スコアの推移が千葉戦と長崎戦では重複する中で、相馬監督は90分に谷澤に代えて、キム・ソンギを投入。キム・ソンギをボランチのポジションに据えて、1-0での逃げ切りを図っている。
「残り10分のところから、相手もロングスローを入れて、3バックの選手が前に残ったり、3バックの選手が前線へ入ってくるケースが増えてきた。そういった中で前節・千葉戦は最後に横からのボール(クロスボール)で点を取られてしまったので、ソンギぐらいのサイズの選手が入ってくると、CBが気を緩めてもらっては困るけど、気持ちの面で安心してはじき返すことがしやすいかなと、そういう狙いを持って、ソンギを(ボランチに)入れた」
長崎戦は前節と同じ過ちを繰り返すことはなく、1-0での逃げ切りに成功。前節の反省点を教訓として、翌節の試合で勝利という最良の結果につなげる。すべては結果を勝ち取るために。ときには柔軟に、ときには自らの非を認める振る舞いで、相馬監督は選手たちからの信頼を高めている。
▼根底にあるフィロソフィー
2010年に町田で監督としてのキャリアをスタートさせた相馬監督にとっても、J2リーグでの指揮は未知なる新たなチャレンジでもある。「コーチングスタッフに聞いてもらえれば分かりますが、僕は優柔不断ですよ(笑)」と話す指揮官が、最も決断力を要するポストでチームをJ2定着へ導くために、指揮を執っている。
長崎戦後の記者会見で初めて首位に立ったことを伝えられた相馬監督は、得失点差でJ2首位に立った心境と今後の選手への心理マネジメントのイメージについて、報道陣から問われると、次のように話した。
「われわれは22番目のチーム。これからもいかに1試合1試合という姿勢を続けられるかだと思っているので、そういう心持ちでゲームに入れるように選手たちと今後もやっていきたいと思う。これが38節や39節ならばまた違った心境だと思うけど、(戦った試合は)まだ10試合にも満たないので、一つひとつ先は長いが、積み重ねていけるか。そういうことを選手たちとやっていきたいなと思っている」
奇しくも、首位に立った試合での敵将・高木監督は、かつて2012年に長崎をJ2参入初年度に6位へと導いた指揮官でもある。高木監督はその経験則から、近年のJ2の傾向に即した町田の躍進の理由について、「複数年で(監督がチームを)指導しているということ。とにかく目の前の相手と置かれたいまの立場で集中して戦えていることが町田さんにも言えると思う」と話した。
"一戦必勝"のスタンスは、近年のJ2の傾向から導き出されたチームマネジメントにおけるアプローチではなく、現役時代を含めたサッカー人・相馬直樹自身のフィロソフィー(哲学)と言っていい。たとえ、J2リーグでトップにいようとも、いつしか浮き沈みの激しい時期が訪れたとしても、一戦必勝のスタンスを基軸としたチームマネジメントが、今後も決してブレることはない。
Text by 郡司 聡(Satoshi GUNJI)
Photo by cFC町田ゼルビア
【プロフィール】
相馬 直樹(そうま・なおき)
1971年7月19日生まれ、44歳。静岡県清水市出身(現・静岡市)。現役時代は鹿島、東京V、川崎Fでプレー。右利きの左SBとして、1998年フランスW杯にも出場するなど、日本を代表する名プレーヤーの一人だった。 指導歴は川崎F.U-18アドバイザーコーチを経て、2010年町田の監督に就任。その後、川崎F監督や山形ヘッドコーチを歴任し、2014年町田の監督に復帰。2年目となる昨季は、J3・2位でレギュラーシーズンをフィニッシュ。大分トリニータとのJ2・J3入れ替え戦を2連勝で制してJ2昇格を勝ち取った。自身にとってもJ2初挑戦となる今季は、第9節終了時点でJ2リーグ首位に立つなど、2012年以来のJ2で"町田旋風"を巻き起こしつつある。
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