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Jリーグの歴史を回顧できる夏休みの夢の1日になったらうれしい【永井秀樹さんインタビュー/後編】(海江田哲朗)

ちょっとした仕掛けを用意していますよ。これはナイショ

8月14日、昨季をもって現役を退いた永井秀樹さんの引退試合『OBRIGADO NAGAI』が、味の素フィールド西が丘で開催される。集まるメンバーは多士済々。インターネットテレビ局『Abema TV』が中継することも決まった。最後の晴れ舞台に臨む永井さんに訊いた。
(前編「引退試合にはある意味、1993年Jリーグ開幕からの歴史を振り返られるようなメンバーが出揃った」)

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(写真)厚地健太郎/AbemaTV


▼まさか、日本のレジェンドが!?

—-『VERDY LEGENDS』のメンバーをざっと見ると……動ける選手が少ないような。大丈夫でしょうか?

「問題ないです」

—-現役バリバリでは、富澤清太郎選手(アルビレックス新潟)がいますね。

「清太郎は『こんな豪華なメンバーの中では、緊張して平常心でプレーできるか自信がない』なんて言ってましたよ。現役のJ1リーガーがね。ま、分からんでもないです」

—-加藤善之さん(松本山雅FCゼネラルマネージャー)は、チームが13位と不振で頭が痛いでしょうに。

「お忙しいところに来ていただき、ありがたいですね。『J LEGENDS』の監督は釜本邦茂さんに引き受けていただきました」

—-こっそり、ベンチにサングラスと扇子を置いておきませんか?(Jリーグ初期、ガンバ大阪監督時代の釜本スタイル) そういうことだなと察して、やってくれるかも。

「いやいや。一応、『9番 KAMAMOTO』のユニフォームはご用意させてもらっています。もしかしたら、最後のほうで『交代、オレ!』が飛び出る可能性も」

—-御年73歳ですが。

「関係ないでしょ。日本の真のレジェンドの一人ですから」

—-永井さんは両チームで半分ずつプレーするんですよね。

「そうです」

—-『J LEGENDS』には小野伸二選手(コンサドーレ札幌)の名前があります。

「自分の最後なので、パス交換してみたい選手、一緒にピッチに立ちたいなと思える好きな選手に声をかけさせてもらいました。ほかにも何人か来てほしい選手がいたんですが、チーム事情で難しかったですね」

—-これまで小野選手と、エキシビジョンマッチを含め味方としてプレーする機会は?

「ないです。食事をしたことは何度もありますが」

—-いまさらのように「こんなに感覚が合うとは!」とちょっぴり切なくなったり。

「それはそれでうれしいじゃないですか、やっぱりシンジはここが見えてるんだな、このタイミングでパスを出せるんだなというのを体感できれば。最後に、『なるほどね』というのを感じたい」

—-そして出るか、福田正博さんを走らせるスルーパス。

「現役のとき、浦和レッズ戦は楽しみでした。いろいろな思い出がありますよ」

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(写真)海江田哲朗

▼プレーヤー・永井秀樹の誓い

—-『J LEGENDS』のメンバーに、故・松田直樹さんの名前があり、驚きました。

「これはうそ偽りなく、引退試合が決まって一番最初に選んだメンバーがナオキです。3番のユニフォームも一番最初に作りました。これまで自分は多くの優れたチームメートに恵まれましたが、一緒にプレーした中で彼以上のDFはいません。本当に図抜けていた。人間的にも好きなタイプでね。少しヤンチャで誤解されることもあるけど、根は良いヤツで知っている人間からは最高に愛される。そして、何よりサッカーが異常なほど大好き」

—-永井さんも負けるほど?

「いい勝負じゃないですか。自分の好きな選手であり、好きな人間。ご家族にも快諾していただき、こういう形で一緒にやらせてもらえるのは光栄ですよ。ファンからのコールがあれば、アイツは喜ぶと思う」

—-忘れちゃいけない、盟友・礒貝洋光さんがいました。

「礒貝とは小4からの付き合いで、兄弟以上の仲。プロになるときも二人で決めました。バルセロナ五輪の最終予選で敗退し、残りの大学サッカーに意味を見い出せなかったんですね。悔しさを胸に刺激を求めて、もうプロでやろうぜと言い合い、さりとて代理人もいない時代。どうやったらプロになれるのだろうかと話し合ったものです。そんな礒貝もいまはお相撲さんのようになっていますが、久しぶりにボールを蹴り合うのが楽しみです」

—-石川直宏選手(FC東京)は追加で発表されています。当日はコンディションの都合でプレーできないそうですが。

「急に決まったんですよ。引き寄せの法則みたいなものがあるんじゃないですか。自分が横浜F・マリノスに在籍していたとき、彼はプロ1年目のルーキーでした。先日、現役引退の発表を知り、まだ若いのになと思っていたら、街でバッタリ会って。このタイミングで会うというのはそういうことなんだろうと声をかけたんです」

—-それにしても、若いころは太く短くが信条だった永井さんが46歳で引退試合とは。

「サッカーは20代でおしまいと言っていた幼稚な選手が、こんなに長く現役を続けることができたのはみなさんの支えがあったおかげです。華やかな時期だけ味わってサッカーを辞めていたら、ダメな人間になっていたでしょう。一人の人間として、人間力を磨く意味でも長くやって良かった。長くやったからこそ、分かることがある。あらためて、サッカーに感謝しています」

—-ありがたく思う気持ちは僕のほうにもあります。永井さんが早いうちにスパイクを脱いでいたら、澤井直人選手や井上潮音選手など、東京ヴェルディの若手は何も受け取ることができなかったですから。

「それも良かったことの一つかな。当日、西が丘に来るだろう彼らにはちょっとした仕掛けを用意していますよ。これはナイショ」

—-出場メンバー同様、サポーターも豊かな色合いになりそうです。

「今回、東京Vの主催ですが、現役時代はいろいろなチームでプレーさせていただきました。横浜フリューゲルスを応援していた人には、良いチームだったともう一度思い出して、懐かしんでもらえれば。もっと言うと、自分の引退試合というのはどうでもいい。これだけのメンバーが集い、Jリーグの歴史を回顧できる夏休みの夢の1日になったらうれしいです」

—-スタンドの風景も楽しみです。それぞれの思い出と重ね合わせ、潤んだ目でピッチを見つめるファンの姿も。

「そういうのいいですね。昔、追っかけをやっていた人が、自分の子どもを連れて来たり」

—-記憶の彼方から立ち上がる女性ファンの姿が続々と。

「いやいや」

—-どうします? スタンドの最前列にズラーっと並んで。

「いやいやいや。最後になると、すべての人たちに感謝です。サッカー選手は批判と賞賛を受けることの繰り返しで、頭にくることも山ほどありましたが、最後に残るのは感謝だけ」

—-すべてをやり尽くし、あとは試合を待つだけですか?

「心残りは、準備が忙し過ぎて、練習する時間がなかったこと。本業であるユースの監督の仕事もありましたから。まあ、ガキのころから約40年間やってきたサッカーです。国見の尋常ではないハードな練習も経験しています。ここ一番、やれないはずがない。最後の力を振り絞って、良いプレーをお見せしますよ」

【プロフィール】
永井秀樹(ながい・ひでき)
1971年、大分県生まれ。国見高、国士館大を経て、1992年ヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)に加入。華麗なテクニックとドリブルを武器に、清水エスパルス、横浜フリューゲルス、横浜F・マリノスなど、多くのクラブでプレーした。2016シーズンをもって現役を引退。現在は東京ヴェルディユース監督兼GM補佐。

永井秀樹引退試合『OBRIGADO NAGAI』出場予定メンバー
【VERDY LEGENDS】
監督・松木安太郎
加藤善之、北澤豪、斎藤浩史、武田修宏、富澤清太郎、藤川孝幸、藤吉信次、前園真聖、三浦淳宏、ラモス瑠偉、菊池新吉、菅原智、中村忠、西澤淳二、柳沢将之、山田卓也

【J LEGENDS】
監督・釜本邦茂
礒貝洋光、大榎克己、小野伸二、小村徳男、斉藤俊秀、齋藤学、澤登正朗、鈴木啓太、戸田和幸、永島昭浩、中田浩二、波戸康広、福田正博、本田泰人、松田直樹、山口素弘、石川