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王者の面影はどこへ? 広島はなぜ勝てないのか?

広島の番記者・中野和也が広島のいまとこれからをレポートする。

今季リーグ戦5試合未勝利。4年で3度、Jリーグの頂点に立ったサンフレッチェ広島が苦しんでいる。森保体制最大の危機に瀕しているチームの現状は? そしてこの苦境を打破するプランはあるのか? 広島の番記者・中野和也が広島のいまとこれからをレポートする。

▼昨季から表出していた兆候

 もはや、4年で3回のリーグ優勝を重ねたチームとは違う。そこはまず認識しなければならないだろう。そしてそのことはすでに昨年、明確になっていたことも。

 サンフレッチェ広島は、どんなに結果を出したとしても、そのクラブ規模や地理的条件もあいまって、どうしても選手供給クラブとなってしまいがちだ。3度の優勝を成し遂げた前線3人は今季、柴崎晃誠を残してすべて入れ替わった。抜群のコンビネーションを誇った”黄金時代”のメンバーではないのである。

 昨季のセカンドステージ第9節、ヴァンフォーレ甲府に徹底して守られて0-1と敗戦。この試合は、広島の攻撃力が失われつつある一つの兆候だった。それまでは、どんなに引かれて徹底した守備体制を作られたとしても、広島はどこかで決定機を作っていた。だが、この試合ではそのチャンスの欠片すら、生まれない。強じんかつ統率された守備ブロックを前に、広島の攻撃は空転した。

 その2試合後、同じように相手が守備を固めてきた大宮アルディージャ戦では、何度もチャンスを作った。だが、やはり最後にゴールを揺らせない。そして第13節の浦和レッズ戦から3試合連続して完封負け。これらの戦いでも、ビッグチャンスを作っているのに得点できず、守備が我慢できなくなって敗れている。

 この流れはまさに、今季も同様だ。相手の堅い守備を崩せず。チャンスを生み出しても決めることができず。そのうち、守備陣が我慢できなくなってカウンターを食らい、失点。昨年セカンドステージで起きた現象とまったく同じである。

▼指揮官が打ち出した新機軸

 考えてみれば、2-0で勝利し、評価された前述の甲府戦直後のベガルタ仙台戦も、青山敏弘の強烈なミドルシュートが決まったからこそ。3点を叩き込んだサガン鳥栖戦も、塩谷司の40mシュートが入ったことが大量点のきっかけとなった。甲府戦以降、0-0の状況から相手を崩してゴールしたのは、森崎浩司引退試合という異常なテンションの高さから4点を叩き込んだアビスパ福岡戦だけ。最終戦のアルビレックス新潟での先制点は相手のミスからであり、意図的に崩したとは言い難い。

 この現実が分かっていたからこそ、森保一監督は新しい基軸を打ち立てようとした。ボールを失った瞬間にプレスをしかけ、勢いを持ってボールを奪ってゴールに向かう。それまでは森崎和幸個人の判断で表現した「ハイプレス→ショートカウンター」という形を状況に応じてチームとして導入しようと試みたのだ。

 それは確かに、勢いを生んだ。実際、今季のJリーグでは浦和とほぼ同等のボール支配率を示し、シュート数はJリーグトップ。セカンドボールの回収率も、前節・柏レイソル戦の前半を除いて高く、相手を押し込み続けるハーフコートマッチの状況を作った。だが、そこで決めることができない。一方、前に行く守備ばかりになってしまい、我慢できなくなってセットプレーやカウンターからの失点ばかりが目に付く。柏戦ではプレスの頻度を減らし、ブロックを形成しようとしたが、開始早々の失点がプランを崩した。

 サッカー解説者の吉田安孝氏の言葉を聞いてみよう。

「広島はしっかりと守備できるはず。でも、得点につながらなければ後ろの選手はやはり前に前にと出ようとして、厳しい状況になる。良い守備から良い攻撃は生まれますが、その逆も真なのです」

 本来であれば、フェリペ・シウバや工藤壮人ら新加入選手たちに”得点”という仕事を期待したい。だが、彼らはまだ広島のやり方を体に染み込まることに精いっぱいの状況にある。勝てない・点が取れないという重圧ものしかかり、シュートを決めるときに必要な余裕や遊び心、駆け引きを表現できていないのが現状だ。真っ直ぐなシュートはGKのセーブにあい、自信を失う。その悪循環に陥っている。

▼現状打破の方法論

 森崎和幸という天才が戻ってくれば、攻守に渡って問題が整理され、解決の方向に向かう確率は高い。実際、昨年において最高の試合となったホームラストマッチの福岡戦では、彼がボランチに入ったことでチーム全体のプレー機会が極端に増え、全員が気持ち良く自分の力を発揮できたからこそ、素晴らしい内容が生まれた。だが、その森崎はいま、体調不良で離脱中。6日のトレーニングから別メニュー調整をチームと同じ時間帯のトレーニングで始めることができたが、復帰にはもう少し時間がかかる。

 広島の現状を考えれば、天才ボランチの復帰までになんとか打開策を打ち出したい。例えば2トップなど、フォーメーションの変更も一つの手。もしくは開幕戦で先発を果たした森島司など、若手の抜てき。プレスにしてもブロックにしても、守備の意志統一は当然として、攻撃についても徹底した基軸を打ち出す必要もあるだろう。

 だが、どんな手を打とうとも、まず1点、まず1勝という”結果”を上回る特攻薬はない。しっかりとした形で得点が取れるようになれば、「先に失点すると厳しくなる」という台詞を選手たちが吐くこともなく、「いつでも逆転できる」という2015年のメンタルを取り戻せる。では、そのためにどうすればいいのか。その方策を模索しなければならない。

 佐々木翔や森崎和幸、そしてミキッチや青山敏弘、皆川佑介と離脱者があとを立たない。だが、森保監督の言葉を借りれば「すべてが現実」なのである。打破するには、現実のゴール、現実の勝利しかないのだが、そこがいまは遠い。人生の矛盾はやり切れない思いにさせるものだが、立ち止まっていては何も生み出さない。

 まずは今節のガンバ大阪戦、どんな状況になってもあきらめず、走り、戦い続けることできっかけを見い出すしかないだろう。2015年チャンピオンシップ第1戦、90分を過ぎてから2点を叩き込んで逆転した伝説のゲームのように。 

中野和也(なかの・かずや)

1962年3月9日生まれ。長崎県出身。居酒屋・リクルート勤務を経て、1994年からフリーライター。1995年から他の仕事の傍らで広島の取材を始め、1999年からは広島の取材に専念。翌年にはサンフレッチェ専門誌『紫熊倶楽部』を創刊。1999年以降、広島公式戦連続帯同取材を19年目に入った。著書は『サンフレッチェ情熱史』『戦う、勝つ、生きる』(ソルメディア)。最近はアウトドア熱が復活。今年は登山も30年振りに復活させる予定です。現在、タグマ!で「SIGMACLUBweb」を展開中。