J論 by タグマ!

チャレンジャーたれ。井原アビスパの原点こそが決勝の分水嶺となる

J1昇格プレーオフ準決勝を制したアビスパ福岡にフォーカスし、決勝を制する勝算について、福岡の番記者・中倉一志氏が迫った。

Jリーグは、そのレギュラーシーズンを終えてポストシーズンに突入。最後の勝者になろうとしのぎを削っている。シーズンの命運を決する”最後の戦い”に焦点を当てたポストシーズンマッチレビュー。第2回はJ1昇格プレーオフ準決勝を制したアビスパ福岡にフォーカスし、決勝を制する勝算について、福岡の番記者・中倉一志氏が迫った。

▼中村北斗が残した重みのある言葉
 お互いに持ち味を出した好ゲーム。11月29日、レベルファイブスタジアムで開催されたJ1昇格プレーオフ準決勝は、福岡と長崎の思いの強さがぶつかり合う気持ちの入った試合だった。そして試合を制したのは福岡。リーグ戦から続く無敗試合を『13』、連勝を『9』に伸ばして、チームの、ファン、サポーターの、そして福岡に関わるすべての人たちの願いであるJ1昇格に、あと一つに迫った。

 あらためて福岡の今季を振り返とき、選手たちの心の持ちようが強く印象に残る。どんなときも冷静に、客観的に自分たちを見つめ、その上で試合の結果が自分たちに何をもたらすのかに惑わされることなく、まずは目の前の試合で勝利することだけに集中してきた。その結果については、それがどのようなモノであっても正面から受け入れ、そして次の試合に向かう。勝利のときも、そうでないときも、試合が終われば過去の出来事。常に次の試合をどのようにして勝つのかだけを考えてきた。中村北斗はこう話す。
 
「勝ったときでも次の試合を気にしながら、勝利の喜びに浸るというよりも、その試合での反省点を多く挙げながら、連勝というのを気にせずに、一戦一戦を大事に戦ってきた。連勝していることも考えたことはなく、振り返ってみて『よく考えたら○連勝しているね』という感じだった」

 その言葉どおり、今季、ミックスゾーンで彼らが喜びの表情を見せることはなかった。口にするのは試合での反省点。そして、次の試合に向けてのコメントだった。J1昇格にあと一歩と迫ったJ1昇格プレーオフ準決勝後のミックスゾーンで、城後寿が真っ先に口にしたのは守備面での反省点。今日の勝利は過去のこと。いまの自分たちにとって、目の前の試合である次の試合に勝つことだけに集中する姿勢は、大一番になっても変わらない。

▼運動量、攻守の切り替え、球際……。不変のチームコンセプト
 そんな選手たちの姿勢を井原監督は次のように話している。

「謙虚に戦うということは常に言ってきている。どんな状況になっても、われわれはまだ何も得ていないし、連勝しているときは周りが盛り上げてくれるし、チヤホヤもしてくれるかもしれないが、負けたら何も残らないというのは、われわれスタッフが一番経験していることであり、選手もそれを理解してくれている。最後に結果が出るまでは、常に慢心せずにやろうと選手も考えてくれていると思う」

 そして12月6日、福岡は今季最後の戦いに挑む。

 プレーオフを戦うにあたって、リーグ戦とは違うトーナメントの難しさや、過去3位のチームがプレーオフを制したことがないことを話題にするメディアは多い。しかし、福岡にとっては無縁の出来事だ。そもそも、彼らはリーグ戦でありながら、先のことを考えずに、目の前の試合に勝つことだけに集中してきた。

 また、謙虚に戦う彼らに自分たちの立場を守ろうという意識はない。史上最強の3位と言われる結果に自信を持ちながらも、何かを得たわけではないことを理解している彼らにとって、自分たちの立場はあくまでもチャレンジャー。プレーオフ準決勝も含めて、ここまでの43試合で、その姿勢を貫いてきた。

 プレーオフ決勝も同じ姿勢で戦う。「われわれは今までやってきたことの集大成として戦うだけ」と井原監督は話す。もちろん、戦術、戦略面での変化はある。だが、そのベースにある運動量、”守”から”攻”の切り替えの速さ、球際の激しさ等々、福岡のベースである部分に何も変わるものはない。

 個の能力という点で言えば、タレント軍団であるC大阪に分があることは認めざるを得ないところだが、それがサッカーの勝敗を決めるわけではない。問われているのはチームとしての力。実際、今季、福岡はC大阪に2勝している。押し込まれているように見えてゴールを許さない。ワンチャンスのように見えても、確実にゴールを仕留める。それを支える強い気持ちこそが福岡の最大の力だ。もちろん狙うのは勝利。引き分けでもOKというレギュレーションは、選手たちの頭の中にはない。

▼「敵地」で自らの力を証明できるか
 昨季までの規定では、中立地で行われることになっていたプレーオフ決勝が、なぜかヤンマースタジアム長居で開催されることになったため、3位の福岡が、4位のC大阪のホームスタジアムで試合をするという妙な形になったが、それも、あらゆるモノを受け入れた上で戦ってきた福岡にとっては大きな問題ではないだろう。

「今年のわれわれは、そういうものをすべて覆して結果を残してきた」とは井原監督の言葉。福岡に関わる”ジンクス”や、不利と言われるデータをことごとく覆して勝利に結び付けて来たのが、今季の福岡だ。むしろ、3位のチームとしてJ1に昇格する。アウェイだからこそ、そこで勝利して自分たちの力を証明するという気持ちは強い。

 いま福岡は、今季で最も良い状態にある。最終的にどちらがJ1への扉を開けるのかはサッカーの神様のみぞ知るところだが、福岡が持てる力のすべてを発揮する試合になることだけは間違いないだろう。大阪まで足を運ぶファン、サポーターはもとより、福岡から、そしてさまざまな場所から思いを送る人たちとともに、目の前の相手であるC大阪に勝つことだけを考えて全力を尽くす姿は、間違いなく今季の集大成と言える試合になるだろう。

 そして、サッカーの神様が微笑みかけてくれたとき、選手たちは今季初めて、そして最高の喜びを爆発させることになる。

中倉一志

1957年2月生まれ。福岡県出身。小学校の時に偶然付けたTVで伝説の番組「ダイヤモンドサッカー」と出会い、サッカーの虜になる。大学卒業後は、いまやJリーグの冠スポンサーとなった某生命保険会社の総合職として勤務。しかし、Jリーグの開幕と同時にサッカーへの想いが再燃してライターに転身。地元のアビスパ福岡を、これでもかとばかりに追いかける。WEBマガジン「footballfukuoka」で、連日アビスパ情報を発信中。