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アルビレックス新潟、最下位からの逆襲へ。減圧プレスとハイプレスの狭間で”サイは投げられた”

現在最下位に沈む新潟の苦闘のプロセスと、残留への秘策を、新潟の番記者・大中祐二が斬る。

今季から2ステージ制が採用されたJ1リーグだが、残留・降格のラインはあくまで年間成績で決定される。全34節の内15節を終えた段階で、サバイバルレースの行方も見えてきた。今回は下位に沈む4チームと監督交代により最下位から残留圏に急浮上してきた甲府にスポットを当てる。第4回目は、現在最下位に沈む新潟の苦闘のプロセスと、残留への秘策を、新潟の番記者・大中祐二が斬る。

▼失われたハイプレス
 クラブ初のタイトルを――。J1昇格から12年目のシーズンを戦う新潟が開幕前に掲げた目標は、決して分不相応なものではなかったはずだ。

 チーム構成が自信の拠り所だった。24人とJ1最少の小所帯ではあるが、昨年のJリーグベストイレブンに選ばれたレオ・シルバをはじめ、主力の大半が今季も引き続き残留。左SBには元セレソンのコルテースを、懸案だった得点力アップのために磐田からFW山崎亮平を獲得するなど、適材適所の補強にも成功していた。

 何より2012年シーズン途中から指揮を執る柳下正明監督の戦術が、チームには隅々まで浸透している。2012年、17位で最終節を迎えながら大逆転でJ1残留を果たしたチームは、着実な継続性の下に、2015年シーズンを迎えたのである。

 ところがファーストステージ第15節・名古屋戦を終えた時点で、チームはわずか2勝で最下位に沈んでいる。シーズンの折り返しを目前に、思い描いていたところからはおよそかけ離れた地点を航行中なのだ。

 名古屋戦は警戒していたカウンターから先制されたものの、CKのこぼれ球を山崎が泥臭く押し込み、何とか引き分けてリーグの連敗を4で止めた。

 その4連敗中のことである。2012年のJ1残留をともに戦い、いまは対戦相手に属するOBから、こんなことを言われた。

「新潟はどうしたんですか? まったく前からボールを取りに来ないじゃないですか。どんな相手も嫌がる、新潟の一番の強みなのに」

 ハイプレスを掛けて高い位置でボールを奪い、ショートカウンターで仕留める。それこそが新潟のお家芸だ。マークが決まったら、全体でボールを奪いに行くのが、柳下監督が徹底した新潟のプレスの基本である。

 ところが今季はあっさりマークを外したり、PKを与えたり、信じられないミスが連続し、チームは完全にスタートダッシュに失敗してしまう。開幕から6試合で5ゴールを挙げたFWラファエル・シルバが当初、攻撃面ではけん引したものの、守備の点ではファーストDFとしての動きに物足りなさがあり、前からボールを奪いに行く新潟らしいプレスが機能しない。結果の伴わないチームの戦いは、やがて委縮していった。
 
▼変わる中盤でのせめぎ合い
 プレスの空転には外的要因も考えられる。すべてが新潟のハイプレス対策かは判別できないが、対戦相手が多用するロングボールにチームとして対応を迫られているのは間違いない。それが端的に出ているのが、ボランチ小林裕紀の起用法だ。

 高い技術と深い戦術眼を駆使してボールを集配し、ビルドアップに落ち着きをもたらせる小林は、昨季、磐田から加入すると確実に新潟のサッカーを進化させた。リーグ戦に出場した25試合中23試合で先発フル出場という数字が、柳下監督の厚い信頼を物語る。

 ところが今季は14試合に出場して先発が13試合、うち5試合は途中交代している。代わりにはベテランの成岡翔がほぼ決まって入ってきたが、その理由を柳下監督は「セカンドボールをより拾うため。その予測は翔のほうができる」と説明する。相手のロングボールをはね返したあと、自分たちのゴールキックや自陣からのFKを相手がはね返したあと。今季、中盤でのせめぎ合いの様相は、ハイプレスを掛けて相手のパスを引っ掛けることから、ロングボールを蹴られて(あるいは蹴らせて)五分五分のセカンドボールを拾うことへとシフトしつつあるのである。

 そしてハイプレスがなかなか効力を発揮しない状況に追い打ちを掛けたのが、レオ・シルバの離脱だった。中盤で獅子奮迅のボール奪取力を見せてきたレオだが、第11節・横浜FM戦後、肝機能の数値に異常が認められ、急きょ帰国。中盤の絶対的な盾を失ったチームは、横浜FM戦から4連敗と深みにはまってしまっている。

▼広島戦前の方向転換
 思いがけない速度で悪化していく事態に、ただ手をこまねいていたわけではない。第13節・広島戦の前には、一つの方向転換がなされた。

「少し考え方を変えないといけない。すべて前からプレスを掛けるのは難しい。プレスに行くときと、行かないときを、ハッキリさせる必要がある」

 柳下監督のこの言葉は、ボールの奪うポイントがやや下がることを暗示する。
 
 そろったら、奪いに行く。柳下監督の守備の思想の根本は、新潟において時間を掛けて熟成されてきたものだ。劇的なJ1残留を成し遂げ、迎えた2013年開幕前のキャンプ。柳下監督は、1対1で「足を伸ばしてボールをつつけるところまで近寄れ」と、これまで以上に寄せることを選手たちに要求した。合わせて明確に打ち出されたのが、人にしっかり付いていくマンマークの方向性だ。

 もともと縦に速いカウンターを得意とする新潟は、求められたことを忠実に遂行しようとするディシプリンも高い。そのチームカラーに、ハイプレスからのショートカウンターというスタイルが、実によくマッチした。このシーズン福岡から加入した成岡は、「常識からすれば、全部が全部プレスに行くのは無理。そこで緩急を付けるのが自分の仕事だと思っていたが、新潟はみんな走れるから全部プレスに行けてしまう。だから『自分も行けるところまで行っちゃえ』と、考え方を180度変えた」と、ためらうことなく新潟のスタイルに染まった。
 
 この年、前年15位だったチームは7位に躍進。新潟のプレッシングサッカーは、一つの到達点を迎えた。

▼守備のコンセンサスの再定義
 広島戦は、プレスの再構築の効果を問う前に、セットプレーから失点し、結果的に2-4と大敗した。広島戦で試みられたプレスの減圧の評価は保留中だ。
 
 チームの危機的状態を脱するために、第14節・甲府戦に敗れたあと、守備陣のミーティングで守備のコンセンサスの再定義がなされた。それぞれが正しいポジションを取り、そろい次第ボールを奪いに行く。そのためにもファーストディフェンスをしっかり行く。つまり、これまで新潟がやってきた守備の方針が再確認されたのである。

 ただし今回は、プレスを強めるほうへと目盛りを傾けた2013年の逆になる。順位的に、大胆で思い切ったプレーがなかなかしづらい状況の中で、果たしてチームはどのようにアグレッシブさを保つだろうか。ボールを奪いに行くところ、行かないところの意志統一ができなければ、プレスの真空状態が生まれる恐れもある。
 
 連敗を止めた名古屋戦の翌日、地元紙・新潟日報は柳下監督の途中解任はないというクラブの方向性を報じた。胆のうを手術したレオ・シルバも、再来日に向けて日程を調整中だ。

 新潟の代名詞であるハイプレスは、このまま形骸化してしまうのか。それとも厳しさと鋭さを取り戻すのか。方向性と継続の方針は、ハッキリ示された。それを遂行する力がチームにあるかどうかが、ここから試される。その方向性が残留の秘策となったかどうかは、シーズンの終わりと共に、自ずと明らかになるだろう。

大中 祐二(おおなか・ゆうじ)

1969年生まれ。相撲専門誌、サッカー専門誌の編集を経て、2009年よりフリーランスとなり新潟に移住。日々、アルビレックス新潟を追いかける。サッカー専門誌時代はJ1昇格の2004年から2008年まで新潟を担当。04年8月の親善試合で、ビッグスワンのピッチ脇にリーガとUEFAカップの二つのカップをドヤ顔で飾るバレンシアを、スペイン代表GKカニサレスに尻持ちをつかせた安英学のダイナマイトボレーなどで5-2と粉砕した瞬間、アルビにはまる。