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清水エスパルス、浦和&川崎Fを相手に得た確かな手応え。眠れる逸材・ウタカに爆発の兆しあり

今季から2ステージ制が採用されたJ1リーグだが、残留・降格のラインはあくまで年間成績で決定される。全34節の内15節を終えた段階で、サバイバルレースの行方も見え始めてきたなか、今回は下位に沈む4チームと監督交代により最下位から残留圏に急浮上してきた甲府にスポットを当てていく。第2回目は、昨季同様に残留争いに身を置いている清水エスパルスの現状と今後の展望を、清水の番記者・前島芳雄が斬る。

▼継続で意思統一
 第15節終了時点では、失点が新潟と並んでリーグで2番目に多く、勝ち点13の17位にいる清水。「J1残留への秘策はあるのか?」と問われれば、正直に言って「ない」と答えるしかない。

 ただ、秘策が「ない」というのはネガティブな意味ではない。いまの苦しい状況にあっても、監督、選手、フロントも含めて、「いまやっていることを続けていくだけ」という考え方でチーム全体の意識が統一されているからだ。

 今季はフロントのほうでも、5試合ごとに多くのデータと照らし合わせながらサッカーの内容を評価しており、チームとしての狙いが形になっているかどうかを精査している。その上で、ここまでの成長過程にはある程度の評価を下しており、大榎克己監督の指導力に疑いを示す声は、いまの成績にもかかわらず出ていない。

 実際、システムを3バックに変更した第8節・山形戦(3△3)以降の成績は、2勝3分3敗。8試合で勝ち点9なので、このペースで34試合を戦えば勝ち点は38と、ほぼ残留ラインを超える数字になる。

 また、試合内容にも次第に手ごたえが増しているためペースアップも期待できるし、特に第14節の川崎F戦(5○2)は攻守ともに大きな自信になる内容だった。次の浦和戦でも、0-1で敗れはしたが、真っ向勝負で遜色のない戦いができていた。無敗の首位・浦和に対して、清水はアウェイながらも、「向こうに押されっぱなしで、自分たちのサッカーができなかった」(浦和・興梠慎三)と相手に言わしめるサッカーを見せている。

▼整備されてきた組織
 その大きな要因は、システムを3バックに変更し、FWのミッチェル・デュークを左サイドにスライド。クレバーな枝村匠馬や河井陽介を右サイドに置いたこと。これがハマって、攻撃ではサイドを起点に攻める形ができているし、守備も各ポジションの役割が整理されてきた。

 DF陣に負傷者が続出して3バックが人材難に陥る時期もあったものの、ナビスコカップで福村貴幸が3バックの中央として高いラインコントロール能力を見せ付け、高卒ルーキーの松原后も急成長。見事に穴を埋めている。昨季は松本で3バックの一角としてフルタイム出場を果たしたユース出身の22歳、犬飼智也が負傷から復帰してきたことも大きい。
 
 また中盤では、竹内涼、石毛秀樹、水谷拓磨といったナビスコカップで活躍した面々がリーグ戦でも起用され、特に石毛と水谷の豊富な運動量によって前からの精力的なプレッシャーが復活。さらに福村の高いライン設定が組み合わさり、非常に高い位置でコンパクトな布陣ができるようになってきた。

 そうなると当然、相手は高いラインの裏を狙ってくるが、リオ五輪代表候補であるGK櫛引政敏がノイアーばりにペナルティーエリア外に飛び出してカバーしている。そのナビスコ組とリーグ戦組が融合して戦ったのが、前述の川崎F戦と浦和戦の2試合であり、その内容は大榎監督が目指すハイプレスを軸にしたアクションサッカーへと確実に近付いている。

 以上が組織として成長が見えてきた部分。その上で、頼みの新ストライカー、ピーター・ウタカが着実に調子を上げ、周囲との連係も向上してきたのは大きい。これまでのプレーを見る限り、高い得点能力を秘めた選手であることは疑いないため、今後のブレイクも十分にあり得る。ここまでチーム最多の6得点を挙げている大前元紀と、”二大エース”としてコンスタントにゴールを決めるようになれば、勝ち点を獲得するペースはさらに上がるはずだ。

▼補強はあるのか?
 現在はいまだ3勝しかできてないチームではあるが、伸びシロが期待できる前向きな要素は多く、チームのムードは決して暗くない。「少しずつ自分たちのサッカーができるようになってきているので、自信を持って思い切りやっていくだけ」(犬飼)という意識は、多くの選手が共有できている部分だ。

 ただし、ネガティブな要素がないわけではない。特に失点の多さは大きな問題だ。昨季60失点した反省から、大榎監督は「1試合平均1失点以下に失点を減らす」という目標を掲げたが、現時点では1試合平均1.8失点と、目標とはほど遠い数字だ。当然、前線から連動して守る組織的な守備の精度は上げていかなければならない。また、チームとしてボールを支配する時間帯を長くすることが、大榎監督の目指すところであり、失点を減らす意味でもそれは重要になる。

 とはいえ、このまま高いディフェンスラインを保ちながら戦うとすれば、組織の綻びやスキを突かれたときに、個の力で何とか食い止める能力も欠かせない。その意味ではやや物足りなさがあるため、秘策を講じるとすれば、センターバックの補強もあり得るが、いまのところその噂は聞こえてこない。

 昨季のような苦しい思いをしないようにするためには、失点減も欠かすことはできない。それを、このまま組織力の向上によって実現できるのか、やはり補強が必要なのか。一つの注目ポイントと言える。

 次節には残留争いのライバルである甲府と対戦するが、その試合に勝つことができれば、勝ち点は16。ギリギリで残留した昨季の勝ち点は36だが、残り18試合で勝ち点20を獲得すればそこに届くことになり、その数字は第8節以降のペースでクリアできる。

 獲得しつつある自信や良い流れをさらに加速するためにも、今季初のホーム連勝が懸かった次の甲府戦は、本当に重要な意味を持ってくる。

前島芳雄(まえしま・よしお)

1964年、静岡県生まれ。サッカーの名門・藤枝東高校の出身で、スポーツ専門誌の編集者を経て、95年からフリーのスポーツライターに。サッカー以外にもさまざまなスポーツを取材した経験を生かし、選手の技術や特徴、チーム戦術などを分かりやすく分析するのも得意分野の一つ。現在は地元・藤枝市を拠点として、清水エスパルスを中心に、藤枝MYFCや小中高のチームまで幅広く静岡サッカーを取材。さまざまな媒体に硬軟自在の文章を寄稿している。