J論 by タグマ!

すべては「勝つ」ために。ハリルホジッチ監督が本田圭佑と香川真司を使って見せたモノ

田中滋が注視したのは、本田圭佑と香川真司を使ってハリルホジッチ新監督が送った新メンバーへのメッセージだった。

3月27、31日とハリルホジッチ監督が就任してから初の国際Aマッチが実施される。招集されたメンバーは新顔を多数含む大所帯。『J論』では、「先発? 戦術? 記者会見? 私は新生日本代表の初陣でこの一点を注視する」と題して、あらためてこのシリーズにフォーカスする。田中滋が注視したのは、本田圭佑と香川真司を使ってハリルホジッチ新監督が送った新メンバーへのメッセージだった。

▼前半終了、微動だにせず
「怒ったら怖そう」

 内田篤人がそう形容したヴァイッド・ハリルホジッチ監督だが、前半45分を見どころ少なく終わってもハーフタイムで感情を露わにすることはなかったという。

 就任会見ではメディアに対して我慢することの必要性を訴えていたが、それは自分自身に向けたものでもあったのだろう。ただ、ベンチの選手がロッカールームに向かう流れのなか、ハリルホジッチはしばらくの間、コーチングエリアで立ち尽くしていた。腕組みをしたまま微動だにしない白髪の指揮官の姿はなかなか象徴的だった。

 このとき、なにを思ったかは知る由もない。しかし、ハーフタイムに怒りをぶちまけたわけではないのなら、呆然自失としていたわけでもないはずだ。生まれ変わったことによる躍動感や高揚感が感じられないチームをどうすれば機能させられるのか。きっと、そのことで頭をフル回転させていたのだろう。

 我慢の姿勢は、後半も同じメンバーでスタートさせたことからもうかがわれた。しかし、それでも日本代表に復帰した山口蛍はインパクトを与えられず、永井謙佑や武藤嘉紀がゴールに向かう迫力を見せた場面はわずか。川又堅碁はバーを叩くヘディングシュートを見せたものの流れの中でパスを引き出せず、清武弘嗣も彼らの良さを引き出すことはできなかった。

 大きな変化が訪れたのは、満を持して本田圭佑と香川真司が投入された60分以降から。チュニジアにも疲れが見え始め中盤が間延びしたところもあったため2人の存在感が余計に際立つ。そして、72分に岡崎慎司も登場すると一気に流れが変わる。素早い攻守の切り替えから78分、83分と立て続けにゴールを決まったが、2つとも彼ら3人が織りなす得点だった。

▼あえて質問には答えずとも
 試合後、ハーフタイムでどのような指示を与えたのかと問われたハリルホジッチ監督は、質問内容には答えず、本田と香川の名前を引き合いに出した。

「本田と香川が入ったことでゲームのクオリティが上がりました。彼らは自分たちの攻撃を見せてくれました。(香川が)ドルトムントでプレーしているのは偶然ではないということを示しました。日本代表のキーになる選手だと思います。ただ、彼らには厳しい要求を出しました。彼らがかなり高いレベルに行けると思っているからです。今夜はすべてを見せてくれました。本当にこの2人が自分の能力をすべて出せばゲームは変わるということを見せてくれたと思います」

 これは、所属クラブで満足な結果を残せていない2人を励ます意味も含まれたメッセージだろう。岡崎の名前が入っていないことが余計にそのことを際立たせる。ただ、彼ら3人をピッチに送り出す前、ハリルホジッチは熱心に指示を送った。身振り手振りを交えた指示は、ベンチでじっと戦況を見つめる姿とは対照的に熱を帯び、勝負に懸ける強い思いを感じさせた。もしかしたら、彼らを起用すれば試合の展開が変わることを分かっていたのかもしれない。

 ハーフタイムに与えた指示については答えなかった監督だが、求めるものを表したのが次の言葉だろう。

「彼らのテクニックだけでなく、ディシプリン、丁寧さ、勇気、そういったところやディフェンスのアグレッシブさを見せてくれました。ただ、チームの全員がこれを見せなければいけないと思っています」

 要するに、「勝て」ということではなかろうか。テクニックだけでは足りず、ディシプリンだけでも足りない。勇気だけでもアグレッシブさだけでもなく、それらすべてということだ。先の「2人が自分の能力をすべて出せば」という言葉にも通じるところがある。なぜ、それを求めるのかと言えば勝ちたいからだ。

 サッカー選手として、監督の指示を理解し、それをピッチで表現することは当たり前のことだ。それは、日本代表に限らずどのチームでも求められることである。日本代表ともなればその要求されるレベルは高く、ましてやハリルホジッチは「私の要求は高い」と就任会見から公言してきた。そして「6月に公式戦がありますからその準備をしなければなりません。それに向けて日本代表に入れる十分な資質を持った選手を発見しないといけません」とも述べている。

 つまり、ファミリーであることを強く訴えているとはいえ、いまの代表メンバーでW杯を戦うわけではない。「勝てない選手」はふるいにかけられ脱落していく。ここで行われているのがテストだということを忘れてはならない。

 その意味で言うと、チュニジア戦の先発がなぜこのメンバーだったのか少しわかるような気がする。出場機会のなかった選手たちが今回の試合を踏まえて、ウズベキスタン戦でどのようなプレーを見せるのか非常に楽しみだ。

田中滋(たなか・しげる)

1975年東京生まれ。上智大文学部哲学科卒。2008年よりJリーグ公認ファンサイト『J’sGOAL』およびサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の鹿島アントラーズ担当記者を務める。著書に『鹿島の流儀』(出版芸術社)など。WEBマガジン「GELマガ」も発行している。