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ユニット目線で選ぶJ1前半戦ベスト11。その最強は川崎F『マジックスクエア』

通常「個」を評するものとなるベスト11だが、今回はあえて「ユニット」を重視しての選考となった。それは今季前半戦を語る上でのキーポイントでもある。

J1リーグは7月27日に第17節が終了し、前半戦を折り返した。週替わりに一つのテーマに関してさまざまな識者が語り合う『J論』では、J1リーグ前半戦をオリジナル視点での「ベスト11」で振り返っていく。二人目に登場するのは、メガネの元サッカーマガジン編集長・北條聡。通常「個」を評するものとなるベスト11だが、今回はあえて「ユニット」を重視しての選考となった。それは今季前半戦を語る上でのキーポイントでもある。

▼息の合った者同士の掛け算

 この項の趣旨は「独断と偏見」に基づく前半戦ベストイレブンである。私、北條聡の選考基準は強く印象に残った「ユニット」だ。独奏よりも合奏の妙。卓越した個人の足し算よりも、息の合った者同士の掛け算に惹かれる。出色のペアやトリオ、カルテットの顔ぶれを通じて、今季のJ1リーグ前半戦を記憶に留めておきたい。なお、文中に記すアシスト数は『データスタジアム』の記録を参照している。

▼サイドアタックと終着点
 まずご登場願うのは「鳥栖のトリオ」だ。

 1トップの豊田陽平、右サイドバックの丹羽竜平、左サイドバックの安田理大の3人である。前半戦を2位で終えた鳥栖の躍進を象徴する面々と言っていいかもしれない。豊田は得点ランクの3位につける9得点をマーク。その巨銃の引き金となっているのは両サイドからのクロスである。もちろん、キム・ミンウの存在も大きいが、チーム最多の5アシストを記録する安田、3アシストの丹羽という両サイドバックの働きが際立っていたことも見逃せない。

 サイドアタックが主流のオランダでもまれた安田にとって、豊田を終着点とする鳥栖の攻撃パターンは渡りに船だったのかもしれない。逆に言えば、エースの豊田が高さや強さといった己の武器を十全に生かせるのも、安田や丹羽の存在があってこそ。攻めの安田、守りの丹羽というカラーの違いはあるが、後半戦に入って首位にまで立った鳥栖にとって、両サイドバックの貢献度は等しく大きなものだった。

▼新旧ペア×2=マジック
 次に触れたいのが「川崎Fのペア」だ。大久保嘉人と小林悠の国産2トップである。2人合わせて17ゴールは、神戸のペドロ・ジュニオールとマルキーニョスの助っ人コンビの18ゴールに次ぐ数字だ。得点ランクの2位につける大久保の活躍については、あらためて触れるまでもないだろう。独奏あり、合奏ありと相変わらずのオールマイティーぶりである。その中で今季注目に値するのは小林の働きである。球を引き出す動きの質、ボールを扱う技術が飛躍的に向上し、フィニッシュへ持ち込むポイントが格段に増え、より大きな脅威となっている。

 続いて、ドイスボランチも「川崎Fのペア」としたい。つまり、中村憲剛と大島僚太である。成長著しい大島は判断力に磨きがかかり、パスワークのハブとなりつつある。縦、横、斜めと自在に位置取りを変えて、局面を優位に進める中村とのペアは当代随一のポゼッションプレーを演じる川崎Fの心臓と言っていい。この両名が大久保、小林と絡む『マジックスクエア』は前半戦で最も魅力的なユニットではなかったか。

▼赤い悪魔の三銃士
 残りの3枠は「浦和のトリオ」だ。ボランチの阿部勇樹、センターバックの那須大亮、そしてゴールキーパーの西川周作である。今季の阿部は自陣ゴール前から敵陣ゴール前までフルカバーするイングランド流のセンターハーフを思わせる働き。那須は相変わらずの「闘将」ぶりだ。最後の一線を越えさせない球際の強さ、空中戦の強さは実に頼もしい。阿部と那須のタンデムが浦和の可変システムを支え、攻守のバランスを整えている。

 新加入の西川は安定したセービングに加え、硬軟自在のフィードで攻撃の出発点にもなっている。決定機を阻む機会も少なくなく、クリーンシート(無失点)を量産した。チーム全体の守備意識の向上が主たる要因とはいえ、西川の存在なくして浦和の堅守は成立しえなかっただろう。リーグ再開後はドイツの守護神マノエル・ノイアーのプレーに感化され、積極的にエリアの外へ飛び出してスイーパーの役割を担うなど守備範囲まで拡大しつつある。攻守両面にわたる貢献度で彼の右に出るGKはいないのではないか。

▼最後に組み込む「独りユニット」
 これで10人だ。ユニット選抜を掲げてはいるが、どうしても外せない「個」のために、あえて1枠を残しておいた。新潟のMFレオ・シルバだ。この人の攻守両面にわたるハードワークは圧巻の一語。文字通り、ピッチの至るところに現れる。自陣と敵陣の往復運動は凄まじいものがあり、苦もなく二人分の働きを演じる「独りユニット」だ。そういうわけでユニット別ベストイレブンを整理すると、下図の通りとなる。

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▼MVPは円熟の中村憲剛
 結果的に上位3クラブの面々が席を独占した。それぞれのユニットをながめることによって鳥栖のダイレクトプレーとサイドアタックを、川崎Fのポゼッションプレーとラインブレイクを、浦和の可変システムと堅固なディフェンスを連想することができそうだ。こうしたクラブユニットを転用し、その利点を最大限に引き出す日本代表を見てみたいとも思う。なぜ、ブラジルで大久保と中村のタンデムをセットで使う発想がなかったのか――。いまさらながら、残念である。

 最後に前半戦のMVPを選ぶとしたら誰だろうか。中村憲剛である。前半戦終了時点で1ゴール5アシストという数字は物足りないものの、その影響力は絶大だ。局面をガラリと変えるワンタッチプレーの鮮やかさは芸術の粋。パスワークにおける緩と急、ブロック崩しにおける幅と深さの使い分けが絶妙で、一撃必殺のスルーパスも健在だ。特にアタッキングゾーンにおけるアイディアの多彩さは他の追随を許さない。ボランチながらもゴールラッシュの導火線となっている。大島、小林ら若手の成長も追い風で、プレーの選択肢が増えたのも大きいか。川崎Fをトップ3へ押し上げた原動力と言っていい。