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流浪のフォトジャーナリスト・宇都宮徹壱

2017 04/15  08:48

J3首位・福島ユナイテッドFCを撃破。天皇杯出場チーム・いわきFCとは?

J3首位クラブ・福島ユナイテッドFC破れるーー。天皇杯全日本選手権・福島県予選で起きたサプライズは驚きをもって迎えられた。今回、下克上を起こしたクラブは、福島県1部リーグのいわきFC。元Jリーガー・大倉智氏が代表を務めることで知られるクラブの立ち位置を写真家・ノンフィクションライターの宇都宮徹壱氏がレポートする。

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▼ジャイキリではない?

「生きるか死ぬかのダービーマッチをジャイキリで語ってほしくないな。」(ある福島ユナイテッドFCのサポーターのツイートより)

 4月9日に福島市のとうほう・みんなのスタジアムで開催された、福島県サッカー選手権兼天皇杯全日本サッカー選手権福島県代表決定戦。現在J3リーグで首位を走る福島ユナイテッドFCは、県1部のいわきFCに0-2で敗れた。2008年以来、9大会連続で天皇杯出場を果たしていたユナイテッドだったが、大台を目前にしてその記録は途絶えてしまった。しかも相手は、カテゴリーが4つも下。当然、メディアは「ジャイキリ(ジャイアント・キリング)」というフレーズを使いたくなるわけだが、それに対して現地で観戦していた友人のユナイテッドサポは、上記のようなツイートを発したのである。

 確かに、カテゴリーだけを見れば、いわきFCは"格下"なのかもしれない。しかしながら、少なくともユナイテッドのサポにとっては、いわきFCは「絶対に負けられない」ダービーの相手であり、もっと言えば脅威を感じる対象でもあった。普段のリーグ戦では対戦する機会はないが、それでも「絶対に負けられない」という感情が先立つのは、それぞれの出自とクラブを取り巻く特殊な状況を理解する必要がある。これまでの取材をもとに、福島県における両クラブの立ち位置を解説したい。

▼いわき市を「東北一の街にする」壮大なるプラン

 そもそもユナイテッドには、福島県内で10年以上にわたり(前身の福島ユンカース時代を含めると05年から)活動してきたという歴史的な自負がある。また、浜通り・中通り・会津に分断されていた県内の地域性を「ひとつに(=ユナイテッド)する存在」という、クラブ名に込められた強い使命感がある。

 さらに付け加えるならば、11年の東日本大震災と原発事故という二重の悲劇に見舞われながらも、地域リーグからJ3にまで駆け上がったというストーリーも見逃せない。県内初の(そしていまのところ唯一の)Jクラブとして、当然ながらプライドもあるだろう。

 一方のいわきFCは、ユナイテッドとは対照的に人口34万人のいわき市にこだわったホームタウン戦略を打ち出している。ただし、いわきを本拠地としているのは、親会社である株式会社ドーム(米・アンダーアーマー社の日本総代理店)の物流センター『ドームいわきベース』を作ったことがきっかけだった。言うなれば「たまたま、いわきだった」というだけの話である。

 ただし、そこから先の彼らのビジョンが尋常でない。ドームの敷地内に自前のトレーニング施設を作り、さらには市内にスタジアムを作って周囲を巻き込むビジネスを展開し、やがてはいわき市を「東北一の街にする」という壮大な目標を掲げているのである。

 ユナイテッドの関係者が、県1部の新興クラブを必要以上に意識する構図は、愛媛FCとFC今治の関係を想起させる。全県をホームタウンにしているJクラブの足元で、突如として生まれた革新的なクラブ。しかも、どうやら向こうのほうが予算はあるし、優秀な人材が集まっているし、何やらでっかいことを考えているらしい。いまはこちらがカテゴリーは上だが、いずれ数年後には立場が逆転してしまうのではないか──といった具合に。福島県のケースでは、県代表決定戦という非常に分かりやすい構図の中で対戦し、いわゆる"ジャイキリ"が実現したことでユナイテッドの危惧はより現実味を帯びることとなった。

 より長いスパンで考えるなら、Jクラブは1990年代の親会社依存型から2000年代に入って地域密着型が主流となり、それから15年の歳月が流れた。ここに来て、今治やいわきのような型破りなスタイルのクラブが現れたのは、ある意味で時代の必然だったようにも感じられる。そうしたアンダーカテゴリーからの突き上げによって、既存のJクラブが自らの立ち位置を見直す契機となるのは決して悪いことではないだろう。その意味で今回の福島での結果は、単なる"ジャイキリ"では語れない、極めて象徴的な出来事だったように思う。

宇都宮徹壱(うつのみや・てついち)

写真家・ノンフィクションライター。1966年生まれ。東京出身。 東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、1997年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」 をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)は第20回ミ ズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。

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