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アニメとかに詳しいライター・後藤勝

2015 11/20  07:55

ライター後藤勝がレノファ山口ゴール裏を体験。そこには独自の進化を遂げた新たな応援スタイルがあった

チケットで入場、記者席ではなくゴール裏でJ3レノファ山口FCのホームゲームを体感してきた後藤勝。はたして維新百年記念公園陸上競技場の実態とは。


▼ノイズ好きだった人がいつのまにか
 11月14日、明治安田生命J3リーグ 第38節、レノファ山口FC対Jリーグ・アンダー22選抜を観てきた。

 山陽新幹線の停車駅である新山口駅から朱色のキハ40系と思しきディーゼルカーに揺られ、JR山口線矢原駅を降りると、降雨のせいで辺りは薄いもやに包まれていた。ただでさえのんびりした風景がより幻想的で、妖精さんが出てきそうな趣があった。

 旅情あふれる単線の踏切を渡り、一本道を歩くと、左奥に維新百年記念公園陸上競技場の、美しい曲線を描く白い屋根が見えてくる。あまりに大きいので、その威容が眼に入ってから公園の入口に到着するまで少し時間がかかった。正面玄関付近で待ち構えていたのは山口のサポーター「専門」さんだ。頼んでおいたチケットを受け取る。この日は彼の案内で観戦することになっていた。

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 専門さんとはSNS上で出逢った。YBO2とかノイズが好きだと、音楽の趣味が合う友人として交流が始まったが、気がつくと彼はサッカーに興味を持ち始めていた。そこで某年、とある天皇杯決勝のゴール裏に案内して応援のなんたるかを体験してもらったのだが、すっかり味をしめたらしく、のち、郷里の山口にできた山口県教員団あらためレノファ山口FCの応援に取り憑かれ、チームといっしょにJへの階段を駆け上がってきてしまった。いまではどこからどう見てもJクラブのサポーターです。どうもありがとうございました。黒Tシャツが似合うノイズのひとだったはずなのに、どうしてこうなった......。

 今度はこちらが教わる番で――なにしろ取材ではなく完全な私用での一日体験である――タオルマフラーやフラッグを借り、コールにチャントにと勤しんだ。昇格を争っているFC町田ゼルビアの友人知人のみなさんすみません。

▼試合はレノファらしさも地元に支持される
 驚いたのは応援の現場までの"シームレスな感じ"である。簡素なゲートチェックを通過、階段を上がるとそこはもうホーム側ゴール裏の芝生部分。ゴール裏につきものの厳粛な空気、男たちの鋭い視線はない。子どもが跳ねまわり、女性の比率が高い平和な空間であり、最前列まで行ってあれこれと応援のだんどりを確かめるのに戸惑う必要はなかった

 この「緩い」「温い」という第一印象が思い込みでないことはのちにあきらかになるのだが、このときはキックオフまであと30分というぎりぎりに着いたため、深く考える余裕はなかった。最後のホームゲームとあり、今シーズンの道のりを振り返る特別映像が電光掲示板に流れる。そしてメンバーと監督のコールが終わると、試合が始まった。

 J-22は技術が高く、山口の選手が中盤でボールを奪おうとしてもいなされてしまう。ただしパスの余地がない最終局面ではJ-22のフィニッシャーについていきシュートを阻むことができていたため、集中していれば失点はしないだろうと予測できた。問題は攻撃だった。雨で足許が滑り、J-22のプレッシャーも速いため、安定してつなぐことができない。しかし山口から見て右サイド奥、J-22の左サイドにぽっかりできたスペースを中長距離のパスで攻略してチャンスをつくってはいた。終わってみれば、この前半45分間に得点できなかったことが結果に響いたとわかり、悔やまれる内容だった。

 ハーフタイムを挟んでJ-22は前述の弱点を修正する。山口の攻撃手段は塞がれた。ところが体力的な問題か、J-22はあまり前に出てこれず、雨がやんだことも手伝い、山口が押し込む展開になる。

 有利な状況だったが、山口は決定力を欠き、得点できない。岸田和人、そして途中出場の平林輝良寛にめぐってきた1対1のチャンスもものにできず、万事休す。結局、J-22の健闘もあり、昇格をかけたビッグマッチは0-0の引き分けに終わった。翌日の試合で町田が勝てば勝点で並ぶ。得失点差で優位に立つ山口が自力でタイトルを獲れる状況であることに変わりはないが、なんとも微妙な結果である。しかし山口のゴール裏からブーイングはなかった。

 試合後のセレモニーで、河村孝社長は次のように挨拶した。
「勝ってこういうご挨拶ができればよかったのですが、引き分けちゃいました。まあ、レノファらしいかなと言ったら、レノファらしいと思います」

 J3の首位を走ってはいても、すんなりすっきりと優勝を決めるほどの力はない。かと言って弱いわけでもない。無理のない口調、虚勢を張らない等身大の姿に、かえって余裕を感じた。

 ビジネススタッフはいい仕事をしているようだ。既にJ2クラブライセンスは取得済みで、あとは勝つだけでJ2行きの切符が手に入る。動員力もある。この日は雨天にもかかわらず6,322人の観衆が詰めかけた。J-22側のサポーターは両手で数えるほどだから、ほとんどが山口県民ということになる。県内のあちこちに貼られたポスターを見ても、地元の支持が少しずつ拡がっているとわかる。8月15日の第26節対FC琉球戦では8474人ものお客さんを集めた。一部のJ2クラブより、よほど賑わっている状態だと言っていい。

 もちろんJ一年生、不得手な部分もある。スキームその他がなくグッズがつくれない。そこはフロントにかわり、運営をサポートするボランティアのTeam BONDSが補った。

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▼このままいけば今度は山口がトレンドになる
 後発のローカルクラブらしく平和なゴール裏だが、じつは応援にも隙がなかった。攻め手がなくこのままでは0-0で終わりそうだな......との予感が漂った後半20分頃、コールリーダーから「おれたちの応援で流れを変えよう!」と、絶妙なタイミングの呼びかけがあったのだ。このあとの盛り上がりが、得点にこそつながらなかったものの、終盤の猛攻にいくぶん力を与えただろうことは想像に難くない。よけいなことはせず、要所は締める。そんな感じの応援だった。

 こう指摘すると、「ヤマグチスタ」コールリーダーのムクさんは「よく見てますね」と言った。
「一体感を重視しながら試合の流れにも対応する? そうですね、そうできたらいいなと、いつも思いながらやっています。ユルい? ユルいと言われたら言わせておけばいいさ(笑)。あまりオラオラとやっても、みんな入ってこない。ウチのゴール裏は女の子ばっかりで、比率はそうとうおかしいことになっていると思います。田舎です、田舎」

 「ヤマグチスタ」代表のかくさんは、松本山雅FCのように社会人のカテゴリーからJをめざすクラブが山口県にもあると知り、2008年頃からレノファ山口FCの応援に携わってきた。
「たぶん、Jでは異質な空間だと思います。天気がよければ(ゴール裏固定席のうしろの)芝生の上にシートを敷いて家族連れが座っている。ウチらはそれでOKなんで。近づいてくるなやとか、ゴール裏に来たら立てよとか、声出せよとか、そういうことを言うつもりはまったくない。強制されて応援しても楽しくないですし。試合に負けたら悔しいですけれど、ここに来るのが楽しいという気持ちになってもらえたら。よそからいらっしゃった方は"ユルいな"と思われるかもしれませんけれども、思うなら思ってください、みたいな」

 Jの応援に対する固定観念がない地域だからこその応援風景なのかもしれない。
「この雰囲気のままJ2に上がれたら、逆に目立つでしょう。ああいう雰囲気でやってくれたらいいのにねとなったら、今度はウチがトレンドですから」

 応援についてのさまざまな論議が繰り広げられるなかで、新たなロールモデルになる可能性を、山口のゴール裏は秘めている。

 彼らの周りには夜行バスで関東とのあいだを往復する山口県出身者、郷里に戻ってきてFC東京のゴール裏での経験を活かすUターン組、元FC鹿児島の選手を追っているうちに山口に魅せられた他県人、次節開催日への注意を喚起する企画を実行した学生団体RISU、じつは80年代インディーズ音楽に詳しい非公認キャラクターのデカちょるさんなど、じつにいろいろな人種が吸い寄せられている。

 なんとも不思議な場があったものだ。この日肌身で味わった、のどかな土地にできた奇跡的なバランスの応援を脳裏によみがえらせては、Jリーグとはなんなのか、東京に戻ったいま、あらためて考えなおしているところである。

後藤 勝(ごとう・まさる)

サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWebマガジン『トーキョーワッショイ!プレミアム』を随時更新。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊)がある。

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